00《一章:プロローグ》
「不思議な感じだな……」
シンプルながらも重厚な光沢を放つローズウッド製の大きな食卓でよく冷えたビールを呑みながら煙草の煙と共に小さく呟いた男――――端山真明二十六歳は周りの三人を見渡す。
隣に座って料理本を読んでいるのは若い女。控えめなスタイルだが出る所はそれなりに出ており、柔らかな表情と艶やかな長いポニーテールも相まって健康的な女としての魅力を醸し出し始めてはいるが、まだ歳は十八と本来なら高校に通うべき年齢だ。
向かいに座って豪快に日本酒を呷っているのは体格の良い初老の男。野趣溢れる外見に反して思慮深く、広い分野で造詣の深い人物だ。見た目は若々しく、四十代でも十分通用するに違いない。
少し離れた応接セットのソファーに浅く腰掛け、ビッシリと書き込まれたノートや多量のメモ類をローテーブル一面に所狭しと広げているのは、若い金髪の優男。あーでもないこーでもないと呟きながら不思議な公式を書いては消しを繰り返している。
少し前まで人と暮らすどころか、この家に他人を招くことすら拒んでいた自分には想像も付かなかった光景。
「まぁ……悪くないもんだ」
話は一年前に遡る。