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【1】遠雷のオーバーロード ~ブラック企業を憎む元社畜、剣と魔法の世界を『産業革命』と『全自動システム』で完全支配し、星の理すら買収(M&A)する~  作者: トール
第一章:深緑の生存闘争と雷霆の絶対者

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第051話:深淵の支配者と全自動の帝国

 第051話:深淵の支配者と全自動の帝国


「カラン、コロン……」


 脳内の四次元空間、進化した『マジックバッグ Lv.4』の深淵へ、透き通った高純度の魔石が吸い込まれていく。その硬質で、残酷なまでに乾いた結晶音は、今のトールにとって、勝利と安寧を揺るぎなく約束する至高の旋律であった。


 かつて、三十二歳のサラリーマン「佐藤通」として生きていた頃、彼の鼓膜にこびりついていたのは、胃を抉るような不吉なアラート音だった。

 深夜のオフィス、埃臭い空気の中で低く唸るサーバーのファン音。理不尽な要求と叱責を告げるスマートフォンの無機質な通知音。それは彼の精神をやすりのように削り取る「毒」であり、誰かが敷いた不可視のレールを歩まされる「奴隷の記号」に他ならなかった。


 だが今のトールに、あの頃の、肺の奥が焼けるような窒息感はない。

 レベル12。そして人智を遥かに超越した、知力(INT)150という未踏の領域。彼の脳内では、数万の変数が並列処理され、都市の運営、物流の滞り、魔力の需給バランスといった複雑な事象が、まるで静かな湖面を眺めるように容易く掌握されていた。


「……血液は、淀みなく溢れているな」


 城塞都市の隠れ家。使い込まれたアンティークの執務机が放つ、古い木材の落ち着いた香りと静寂。その中でトールは、冷徹な満足感と共に、深く、穏やかな呼吸を繰り返した。


 1. 拡張する「神の視座」


 トールの魂を最も激しく、そして静かに震わせたのは、進化したスキルの項目だった。

『管理者権限:支配領域 Lv.5』。


 かつてレベル3で迷宮の深層を書き換え、レベル4で都市の水脈を通じて数万人の思考を掌握した王の力は、今や究極の階梯へと至っている。

 彼が右手の黒い金属棒に意識を繋ぎ、脳髄から領域の触手を解き放った瞬間、世界は爆発的に拡張した。


 もはや、物理的なインフラという「杖」を必要とする段階は終わっている。トールの意識は、大気中に漂う微細な魔力そのものを神経網ネットワークとして、光速で拡散していく。

 半径百五十キロメートル。

 その巨大な球体領域内にあるすべての事象が、彼の脳内に鮮明な三次元ホログラムとして収束する。


 城塞都市で眠る数万の民が刻む、穏やかな心音。

 大森林を貫き、帝国の胃袋を支える『白銀の街道』。そこを駆ける荷馬車が発する、乾燥した車輪の軋み。

 そして終着点。迷宮都市タルタロスの最深部で、巨獣の心臓のように重厚な鼓動を続ける『マザー・コア』。


 もはやトールにとって、この世界に死角は存在しない。彼はこの領域内において、大気中の電子と魔力回路を指先一つで自在に奏でる「現象」そのものへと変貌していた。


 2. 自律する「帝国の鼓動」


 トールが描いた支配の青写真は、すでに彼の手を離れ、一個の生命体のように自律駆動を始めていた。

 かつて彼が、血反吐を吐くような絶望の中で夢想した究極のシステム。それは、「他人が勝手に、俺の利益を守るために死に物狂いで働き、戦う」という、冷徹なまでに合理的な構造である。


 街の動脈である街道には、グレン商会の旗を掲げた馬車がひしめき合い、黄金色の液体『琥珀の魔酒』が次々と運び出されていく。

 トールが構築した自動蒸留プラントは、オイルバスの原理を用いた火の魔法陣により、アルコールの沸点を一分の狂いもなく維持し続けていた。かつてのように、彼がつきっきりで魔法を注ぐ必要はない。スラムから引き上げられた「先行市民」たちが、救済への誇りを胸に、精緻な歯車として機能しているからだ。


 彼らは本能で理解している。このシステムというゆりかごから外れれば、待っているのはあの凍てつくような「冬の絶望」だけであることを。トールが提供した熱(温熱インフラ)と食への依存は、もはや原始的な信仰に近い色彩を帯び始めていた。


「属人化の排除。……これこそが、絶対的な自由の礎だ」


 トールは窓外を見下ろす。そこには、彼が創り上げた「誰にも支配されない自由な自治都市」が、確かな生命力を持って夜の闇の中で呼吸していた。


 3. 「天罰パニッシュメント」の執行


 その完璧な静寂を、一筋の湿った「悪意」が乱した。

 支配領域の北西端。白銀の街道付近に侵入した、他国の工作員、あるいは侯爵軍の隠密と思しき五名の気配。彼らが抱く破壊の意志は、トールの魔力アルゴリズムによって、瞬時にノイズの中から抽出された。


 トールは、椅子から立ち上がることさえしなかった。

 ただ、右手の黒い金属棒を指揮棒のように、優雅に、そして軽やかに振るう。


「……出オチで死ね。『天罰パニッシュメント』」


 ——チィィィィィィンッ!


 静寂を切り裂く、鼓膜を刺すような高周波の残響。

 百キロ先で、工作員たちの延髄は一瞬にして不可視の電磁パルスに貫かれた。

 悲鳴を上げる間もなく、彼らの意識は永遠の闇へと堕ちる。物理的な破壊すら伴わない、絶対的な支配者による「情報の更新」に等しい、無慈悲な処刑であった。


 指先に残った微かな熱が、夜風に溶けて消えていく。

 トールは、再び深い安楽椅子へと身を沈めた。


 4. 終焉なき覇道


「カラン、コロン……」


 再び、魔石が深淵へ沈み込む音が響く。

 前世の社畜にとって、音は「生が削り取られていく音」であった。

 だが今、トールにとってのそれは「世界が自分の意のままに塗り替えられていく音」だ。


 誰の奴隷にもならない。俺のしたいように生きる。

 あの落雷の夜に誓った決意は、今や一つの都市を、一つの経済圏を、そしてこの世界の理そのものを飲み込もうとしていた。


 INT 105の脳が、次なるフェーズの演算を開始する。

 王都の腐敗、教会の欺瞞、そしてこの世界の不条理。

 すべてを俺のシステムへと組み込み、完全な調和という名の支配をもたらしてやる。


「遠雷のオーバーロード」は、暗闇の中にダイヤモンドのような煌めきを湛えるグラスを掲げ、月光の下で不敵に微笑んだ。

 これは、すべてを奪われた男が、異世界の盤面を支配する絶対者へと成り上がる覇道の、まだ序章に過ぎない。

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