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遠雷のオーバーロード〜10歳の転生者は『雷魔法』と『神の蔵』で自由な自治都市を創る〜  作者: トール
第一章:大森林のサバイバルと雷霆の覚醒

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第031話:回収業者の誕生と共有される命の熱

 


 大森林の入り口。

 日光を拒絶する巨大な天蓋の下、湿った土と命が朽ちていく腐敗の匂いがよどむ緑の迷宮に、突如として地鳴りのような咆哮と蹄の音が轟き渡った。


『気配察知 Lv.1』のレーダーが脳髄に直接描き出すのは、五十頭を超えるレッサーボアの猛進だ。撒き散らされた強烈な血の匂いに狂乱し、剥き出しの牙を武器に、巨木をなぎ倒し土煙を巻き上げながら、筋肉の塊たちが俺の指定した「屠殺場キルゾーン」へと殺到してくる。


「ヒ、ヒィィィッ……! 来る! 化け物の大群が来るぞォッ!」


 獣道を見下ろす巨木の太い枝の上。

 潜んでいたモヒカン男をはじめとする五十人の悪党たちは、眼下に迫る圧倒的な死の津波に顔を土気色に変えていた。ガチガチと鳴る歯の根。かつてスラムの路地裏で弱者をいたぶっていただけの彼らにとって、森の覇者が放つ本物の殺気は、肺から空気を奪い去るほどの質量を持っていた。


 だが、俺は彼らに「戦え」とは命じていない。

 三十代のサラリーマンとして、理不尽な労働環境で学んだ冷徹な経営論理。それは、無能な素人を戦場に放り込むことではなく、彼らが思考を止めても結果を弾き出せる「完璧なシステム」を運用させることだ。


 ――パァァンッ!!


 突如として、大気の震えを切り裂くような乾いた破裂音が連続した。

 先頭を駆けていた巨大なボアが、落ち葉の下に潜んでいた『モジュール式括り罠』の輪を踏み抜いたのだ。

 鋼糸を編み込んだ特製ワイヤーが魔物の足を捕らえた瞬間、極限までしならせていた若木のバネが解放され、一気に上方へと引き絞られた。


「ギゴァァァァッ!?」


 百キロを超える筋肉の塊が、一切の抵抗を許されず、凄まじい風切り音と共に宙へと吊り上げられた。

 だが、それは序曲に過ぎない。

 ズバッ! ドグシャァァッ!

 後続の群れが踏み抜いたのは、研ぎ澄まされた「同族の牙」を敷き詰めた落とし穴だった。泥土の下に固定された鋭利な牙の槍が、無防備な腹部や喉笛を容赦なく貫き、魔物たちの巨体を串刺しにしていく。


 数分前まで暴力の化身だった群れが、見えない「死の絡繰からくり」に捕らわれ、無様に宙を舞い、あるいは地面で鮮血を吐いて身悶えしている。


「な、なんだよこれ……。あんな化け物どもが、勝手に罠に掛かって……」


 枝の上で震えていた男たちの瞳から、絶望が驚愕へと、そして卑屈な期待へと塗り替わっていく。

 俺は枝から軽やかに舞い降り、『蒼黒の鱗羽鎧スケイルメイル』を重厚に鳴らしながら彼らの前に立った。


「見ているだけでは金貨は生まれない。……仕事ビジネスの時間だ」


 俺の右手には、レッサーボアの牙を棒の先端に固定した『牙槍』。

「お前たちに戦士の勇猛さなど求めていない。ただ、マニュアル通りに動く『回収業者』になれ」


 俺は、宙吊りで暴れるボアの真下へと滑り込んだ。

 ワイヤーによって固定された巨躯。牙も蹄も届かない、絶対的な安全域アウトレンジ

「無防備な喉笛。そこへ、真下から牙槍を突き上げる。……これだけだ」


 STR 44。十歳の肉体に充填された爆発的な筋力を一点に集約し、槍を鋭く突き上げた。


 ズブッ!


 同族の皮を容易く貫き、急所を抉られたボアが、一際大きな痙攣を最後に絶命した。

 骸から淡い光の粒子が立ち上り、蛍の群れのように俺の身体へと吸い込まれていく。


 その瞬間。

『ポーン。規定の経験値到達を確認しました。レベルが上がりました』

 脳髄の奥深く、あの無機質な聖歌が鳴り響いた。

 全身を、マグマのような熱い活力が駆け巡る。細胞の一つ一つが神の熱に触れたかのように震え、十歳の器がまた一つ、人間を辞める階梯へと押し上げられた。


「ステータス・オープン」


 名前:トール

 年齢:十歳

 レベル:9

【HP 135/135】 【MP 195/195】 【STR 44】 【VIT 47】 【INT 55】 【RES 45】 【AGI 44】 【DEX 49】


「……レベル9。さらに強固になったな」


 生命の熱を深呼吸で馴染ませ、俺は枝の上の悪党どもを冷徹に見上げた。

「降りてこい。次は、お前たちの番だ」

 インベントリから五十本の『牙槍』をぶちまける。


「安全域から喉笛を突くだけの、単純なライン作業だ。マニュアル通りに動けば、極上の肉と金貨。……だが、足がすくむ役立たずは、この場で俺が脳髄を焼く。死んだ魔物の代わりに、ドブネズミの餌になれ」


 強欲というアメ。死というムチ。

 ブラック企業で培われた冷徹な統治が、彼らの精神を完全に支配した。

 モヒカン男が震える手で槍を拾い、宙吊りのボアに歩み寄った。


「真下から……喉笛を……!」

 男は悲鳴のような咆哮と共に、槍を突き出した。


 ザクリッ。


 槍が吸い込まれ、鮮血が雨のように降り注ぐ。

 絶命した魔物から光の粒子が立ち上り、今度はモヒカン男の身体へと吸い込まれた。

 男は、自分の両手を信じられないものを見るように見つめ、直後――そのかおが、狂喜に歪んだ。


「身体が、熱い……! 疲れが、全部吹き飛んで……力が爆発しそうだ! すげえ! 俺が、魔物を殺したんだ!!」


 レベルアップ、あるいは経験値の獲得。

 他者の命を奪い、その熱を奪い取る感覚は、どんな安酒よりも人間の脳髄を麻痺させる究極の麻薬だ。

 モヒカンの変化を見た他の悪党たちの瞳から、恐怖が完全に蒸発し、血走った熱狂が宿る。


「俺も! 俺にもやらせろッ!」

「ヒャッハー! 魔物の命で、俺たちも強くなれるんだァ!」


 五十人の悪党たちが、我先にと獲物へと殺到した。

 ザクッ、ドスッという鈍い音と、魔物の断末魔。

 そして、粒子を吸い込むたびに上がる狂乱の歓声。

 もはや彼らは、俺の魔法に怯えるだけのドブネズミではない。システムの一部として「死」を生産し、その報酬としての「成長」に依存した、完璧な『自動回収業者』だ。


 俺は少し離れた倒木に腰掛け、狂乱の屠殺場と化した兵站線の稼働を、冷たく俯瞰していた。

 これで原材料の調達という泥臭い工程からも、俺は解放された。


 俺が不在でも罠が捕らえ、手下たちがトドメを刺し、肉が精製され、氷の魔石の蔵へと蓄積されていく。

 属人化を排除し、俺の意思だけで回る、巨大な産業の歯車。


「……終わったな」


 三十代のサラリーマンが描いた、「絶対的な自治都市」。その心臓部は今、俺の支配下で、自律的な鼓動を打ち始めた。


 裏社会と経済の基盤は、もう揺るがない。

 ならば次は、この城塞都市の表舞台――領主や貴族どもが支配する、腐敗した「法と権力」の中枢を、真っ向から喰らい尽くす番だ。


 十歳の絶対者は、血の匂いと歓声が響く森の入り口で、人間社会のすべてを塗り替えるための不敵な笑みを、その幼い貌に深く刻み込んだ。


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