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遠雷のオーバーロード〜10歳の転生者は『雷魔法』と『神の蔵』で自由な自治都市を創る〜  作者: トール
第一章:大森林のサバイバルと雷霆の覚醒

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第016話:気配の目覚めと絶対者のスペック

 


 どこまでも続いていた、あの重苦しい深緑の牢獄をようやく抜けた。

 視界を覆い尽くしていた巨大な天蓋は消え去り、頭上にはどこまでも高く、底知れぬほどに蒼い空が広がっている。なだらかな丘陵を優しく撫でるように吹き抜ける乾いた風が、十歳の小さな肉体を愛撫し、森の湿り気に慣れきった肌を心地よく刺激した。


 一ヶ月。あの光すら拒絶する緑の迷宮で、俺は独り、死と隣り合わせの舞踏を演じ続けてきた。地平線の彼方、空を真っ直ぐに刺す一筋の煙――文明の証を確かに視界に捉えながら、俺は川のせせらぎを聞く平野の一角で、夜を越すための灯を熾し始めた。


「……スパーク」


 右手に握る黒い金属棒。その先端に意識を凝縮させると、パチリという微かな放電音と共に、ソフトボール大の青白いプラズマ球が音もなく結実した。それを乾燥した草木へと滑らせる。

 ――パチパチ、とはぜる音。

 瞬く間にオレンジ色の炎が踊り狂い、冷え始めた周囲の空気を温かな琥珀色に染め上げていく。

 かつては小枝一本を焼くのにも心血を注いだ微弱な火花。だが今や、その出力も熱量も、俺の思考一つで精密に制御されていた。前世で、複雑なExcelの関数を幾重にも組み上げ、膨大なデータの奔流を指先一つで支配していた、あの無機質で熱烈なカタルシスが脳裏を過る。


 炎の揺らめきを見つめながら、俺はこの一ヶ月という「修羅の季節」を静かに反芻していた。


 川を下流へと辿った日々。森は俺という異物を消化しようと、執拗に牙を剥き、毒を吐き、罠を仕掛けてきた。

 茂みに潜む、狡猾なゴブリンの上位種。頭上から降り注ぐ、巨大蜘蛛の腐食性毒液。だが、それらの殺気に当てられて凍りついていたかつての「佐藤通」は、もうどこにもいない。

『雷魔法 Lv.2』。その力は、一直線に放たれる無慈悲な狙撃へと昇華し、一直線に獲物の急所を貫き、神経を焼き焦がしていった。


 たとえ不意の斬撃や毒の飛沫を浴びようとも、俺には『蒼黒の鱗羽鎧スケイルメイル』があった。黒光りする鉄羽が暴力を弾き、青い鱗が魔を殺す。この鎧は、俺の十歳の肌に塵一つの汚れさえ許さなかった。

 戦闘はもはや、生存闘争ですらなかった。それは冷徹な「資源回収」だ。

 仕留めるたびに『解体・加工 Lv.2』の光るガイドラインをなぞり、銀色のナイフで命を素材へと変換する。そして、時間が停止した神の蔵――『マジックバッグ Lv.2』の深淵へ、それらを蓄積していった。


「……ステータス・オープン」


 焚き火の熱を背に受け、俺は虚空へと言葉を捧げた。

 網膜に展開される、燐光を放つステータス画面。そこに刻まれた数値は、一ヶ月の狂気的な進軍がもたらした「絶対的な果実」だった。


 名前:トール

 種族:異世界人

 年齢:十歳

 レベル:8

【HP 120/120】 【MP 170/170】 【STR 40】 【VIT 43】 【INT 50】 【RES 41】 【AGI 40】 【DEX 45】

 《スキル》 マジックバッグ Lv.2 / 解体・加工 Lv.2 / 気配察知 Lv.1

 《魔法》 雷魔法 Lv.2


「……レベル8。器を、超えたな」


 思わず口角が深く釣り上がる。HPとMPはかつての倍近くに膨らみ、各能力値は十歳の子供という定義を完全に破壊していた。屈強な大人の戦士であっても、今の俺の指先一つで赤子の如く捻り潰せるだろう。

 だが、俺の視線を吸い寄せたのは、新たに追加された『気配察知 Lv.1』の文字だ。

 俺は静かにまぶたを閉じ、その感覚の触手を広げてみた。


 ――世界が、一変した。


 これまで環境音として埋没していたノイズが、脳内で鮮明な「命の地図」として再構成されていく。

 数百メートル先、土の下で蠢く虫の鼓動。丘陵の陰で震える野兎の温もり。川底を滑る魚の冷たい気配。それらが微細な熱源センサーのように、俺の脳髄に直接語りかけてくるのだ。

 死角からの殺意も、隠れた獲物の喘ぎも、もはや隠し通すことはできない。弱肉強食の世界において、究極の「先手」を掌握した瞬間だった。


「……素晴らしい。死角は、もう存在しない」


 目を開き、俺は己という名の「兵器」を俯瞰した。

 内部から焼き尽くす雷の棒、骨を断つ銀の牙、魔法すら無効化する鎧、そして全周囲を支配するレーダー。

 さらにはマジックバッグに山成す極上の肉、琥珀のシロップ、青い鱗。

 食料、武力、経済基盤。すべてが、この十歳の小さな身体に集約されていた。


 前世の残滓が、不意に脳裏を掠める。

 PCのファンの回転音。深夜二時のコンビニで買い求めた、均一化された味。ネクタイに首を絞められ、他者のための歯車として磨り減っていたあの日々。

 そんなものは、もう要らない。

 俺はもう、誰かに敷かれたレールを歩く羊ではない。理不尽な搾取に甘んじ、権力者のために泥を啜る人生など、まっぴらごめんだ。


 戦国時代の堺の如く、誰にも支配されない自治都市を築く。

 圧倒的な武力と、神の蔵に溜め込んだ莫大な富を背景に、この世界の頂点と対等に渡り合う。

 俺のしたいように、この世界の色を塗り替えてやる。

 その野望を実現するための「スペック」は、すでに完成していた。


「さあ、待っていろよ。人間の世界」


 俺は立ち上がり、地平線の彼方を睨み据えた。

 夜闇の向こう、微かに赤みを帯びて空へ溶ける文明の煙。

『気配察知』のレーダーの限界。遥か彼方から、微かに、だが確かに「人間」たちの密集した、複雑で濁った気配が風に乗って届き始めていた。


 無力な迷い子としてではなく、富と力を手にした「絶対者」として。

 俺は不敵な笑みを深く刻み込み、次なる戦場である文明社会へと向けて、力強い一歩を踏み出した。


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