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59.アベルくんと冷たいおやつ。

59.アベルくんと冷たいおやつ。




 石作りで薄暗い通路が続いている。

 ここは使用人用の通路だ。

 その通路を、テクテク歩いている。


 なに?既視感があるって?

 大丈夫、俺もある。


 今日は暑い。暑いから炊事場に行くのだ。

 何をするかって?そりゃ冷たいものをだな…


 「あら、アベル様、こんなところに何のご用です?」

 やはり既視感があるな。


 「エレナか、お前俺を待ち伏せしているわけじゃないよね。」

 

 「やだぁ、そんなわけあるはずないじゃないですか。私だってそんなに暇じゃないんですよ。」

 エレナは俺の目線までしゃがみ込み、笑顔で言った。


 こいつも可愛いんだよな。

 人よりデカいものが顔の下からせり出してきてるし、顔が間近にあると惚れそうだ。


 「で、どこへおいでになるんです?もしかして、またつまみ食いですか?」

 エレナの笑みが一層深くなる。


 「今日はつまみ食いじゃない。ちょっと炊事場をジョージに借りに行くだけだ。」

 俺は真顔でエレナに答えた。


 「そうですか。今日はつまみ食いじゃないんですね。」

 そう言って頭をうなだれる、エレナ。


 「そうだよ。だから付いて来ても何もいいことは起こらないからね。」

 俺はちゃんと注意をする。


 「それで、炊事場でアベル様は何をなさるんです?」

 エレナはうなだれていた頭を上げた。


 こいつ、くらいついて来るな。


 「エレナに言う必要ないよ。それともマーガレットに叱ってもらう?」

 俺がこういうと、ちょっと悲しそうな表情をエレナは浮かべ


 「そうですね、マーガレット様は怖いですね。でも良いです。アベル様、私が炊事場まで連れてってあげます。」

 そう言ってエレナは俺をおもむろに持ち上げ、抱っこした。


 「おい、何してるんだ。下ろせ。」

 俺はそう言って藻搔く。


 「このまま行きましょう。私に抱かれて行った方が、アベル様が歩くより早いですよ。」

 そう言ってスタスタ歩みを進めるエレナ。


 もう藻掻くのもあきらめた。


 ちくしょう、抱かれた右半身が気持ちいい。

 良いクッションしやがってよぅ。


 ユーリの奴、上手いことやりやがったなぁ。

 「エレナ、お前ユーリと結婚しないの?」

 俺は思ったことをすぐ聞いてみた。


 「うーん、したいんですけどね、今、訓練が忙しそうで相手してくれないんですよ。休みでもヘトヘトだし。」

 そうか、たぶんそれはロッティーに指摘されたとおり、俺のせいなのだ。ごめんよ。


 「チャールズが次の後継者をユーリにと考えているのだろう?」

 ロッティーはそう思っているみたいだった。


 「騎士団長になんてならなくてもいいのにって思っているんですけどね。彼が無事で元気にいてくれればそれでいいんです。」

 なんだよ、しんみりすんなよ、エレナのくせに。


 「大人も大変だね。」

 「アベル様は、大人顔負けじゃないですか。なに言っているんです。」

 そう言って俺を抱きながら俺の顔を見て微笑むエレナ。


 おまえ、泣きそうな顔してんじゃん、やめろよ、もう。

 と言っている間に炊事場の扉の前に着いた。


 やっぱり俺が歩くより早いな。

 

 エレナは俺を廊下へと降ろすと

 「それでは失礼いたします。」

 そう言ってぺこりと頭を下げ、去ろうとする。


 「エレナ待って、おいで、一緒に入ろう。」

 俺はあわててエレナを止める。


 「いいんですか?」

 小首をかしげ聞いてくるエレナ。


 「いいよ、入るよ。」

 クソ!ほだされちまったよ。


 扉を開け、中に入る。

 ふと思い立ってエレナの顔を見上げると、その顔は喜色満面であった。

 もう、ニッコニコ。


 こいつ謀ったな。


 「アベル様、早く入りましょう。」

 うっせいわ。


 「ジョージ、居るー?」

 俺は厨房に声を掛けてみる。


 「おう、なんだ坊っちゃん、またエレナをつれて、今度は何だい?」

 筋肉だるまのジョージが現れた。


 「エレナは付いてきちゃったんだよ。」

 「アベル様が、一緒に入ろうって言ってくださったのでしょう?」

 クソ!嘘じゃないだけに悔しい。


 「厨房を借りに来たんだ。ちょっとしたおやつを作りたくってね。」

 そう筋肉だるまに告げる。


 「へぇ、坊っちゃんがおやつねぇ。なにを作るんだい?」

 たくましい顔に笑顔を作り、ジョージが聞いてきた。


 「今日は暑いからね、冷たいものでも作ろうかと。リオラのジュースある?あと氷も。」

 美味しいよね、冷たいの。


 リオラとは、国の南部で栽培されている柑橘系の果物で、程よい酸味と甘みがあって美味しい。

 俺はこれのジュースが好きなんだよね。


 「おう、あるぜ、坊っちゃん好きだもんなリオラ。かき氷かい?」


 そう思うのも仕方がない。

 だが、ちと違う。


 「ああ、塩もいるんだった。かき氷じゃないよ。」

 ちょっと時間がかかるから、ちゃっちゃとやっちゃおう。


 「じゃあ、ジョージ手伝ってくれる?」

 調理台が届かないから、これはこの部屋の主に頼むしかない。


 「おう、良いぜ。なにが出来るか楽しみだ。」

 そう言って厨房で準備を始めるジョージ。


 「ボウルに、ジュースを3分の1程度入れて。」

 俺はジョージに支持をする。


 作業台に背が届かないからね。

 「おう、入れたぜ。」


 「では、もっと大きいボウル、あ!そのデカいヤツ空いてる?それに氷をたくさん入れよう。」

 

 実は、この世界には冷蔵庫があるよ。製氷機も。

 さすが、英雄王ノヴァリス様だ。


 でも、料理のレシピとかは残していかなかったみたい。

 料理ができない人だったのかな?

 まあ、あまり万能超人過ぎるのもね。


 「じゃ、氷な。たくさん作ってあるから大丈夫だ。まあ、自動でできるんだけどな。」

 城のは自動製氷機だったらしい。


 「氷を入れたら、たっぷりめに塩をかけて。それからちょっと混ぜようか。」

 「坊っちゃん、氷に塩なんか振りかけて、何かあるのか?」

 「まあ、待ってよ、すぐわかるから。」


 そしたら、さっきのジュースを入れたボウルをその氷の中に埋めます。」

 「氷は入れないんだな。」

 「うん、入れないよ。」


 理科の実験だね。


**********


 十分冷えたであろう、ジュースの表面を突いてみる。

 シャリって音がしてスプーンが埋まる。


 「ジョージ、これをスプーンでかき混ぜて。それが終わったら、また3分の1のジュースを入れて。」

 「おう、これって、ジュースが凍っているのか。」


 「正解。」


 「へぇー、やっぱ坊っちゃん色んなこと知ってるな。」

 というわけで、さらに同じことをもう一回繰り返し、十分冷やして完成した。


 「ジョージ、お皿用意して。」

 「おう、出来たのか?」

 ジョージが俺越しにボウルを覗き込む。


 「出来たよ。」

 「本当ですか!」

 エレナはウッキウキだ。


 「嘘言ってどうするよ。」

 「ほら皿を持ってきたぜ。」

 取り皿とスプーンを三人分用意してくれるジョージ。


 「じゃあね、スプーンで削ってそれぞれのお皿に盛ってよ。」


 「おう、凍っているが混ぜたからほぐれるな。」

 「氷に塩を掛けると、普通の氷より周りのものをもっと冷やすことが出来るんだよ。で、ジュースもこのとおり。時間はかかるけど簡単だったでしょ。」


 「お菓子はどんなものでも時間がかかるんだよな。ほら、盛ったぜ。」

 丁寧に三人前分、中のものを皿に盛り付けるジョージ。


 「ありがとう。」

 「ありがとうございます。綺麗ですね。」

 俺とエレナはジョージから皿を受け取る。


 「坊っちゃん、こりゃ何て名前だい。」

 「異国のお菓子でシャーベットって名前らしいよ。じゃあ、食べようか」


 俺は一口分をスプーンに乗せる。


 「ふうん、シャーベットか、聞いたことがないな。」

 ジョージは苦笑いを浮かべなら呟く。


 「どれどれ、お、冷て!でも甘くて口当たりがいいな。こりゃうまいぜ、坊ちゃん。今の季節にぴったりだ。」

 「美味しい。やっぱりアベル様についてきてよかった。こんな冷たくておいしいもの食べられないもの。」

 ジョージとエレナは一口食べて、思い思いの感想を言い始める。


 「あ、嫌な予感がする。」

 なんかもやってきた。でもそんなに悪いものじゃないよ。


 「なんでぇ、いきなり。」

 ジョージは訝しんだ。


 「あーー!アベル様、またエレナ姉とこんなところで何してるんですか!?」

 元気な少女の声が厨房に広がる。


 ちびっこメイド2号、狼獣人のローズだ。

 エレナはスプーンを口にくわえながら、ローズにピースしてる。


 「ほらな。」

 「坊ちゃんスゲーな。」

 ジョージはほう、と感心する。


 「ローズ、お前いいところに来たね。ジョージお願い。」

 「おう、一人前な。」

 そう言って、皿を取りに行くジョージ。察しがいいね。


 「みんなで何食べているんです?」

 「今ジョージが取り分けてくれているから待ちなよ。」

 俺はがっつくローズを嗜める。


 「はぁい。でもアベル様、こういう時は誘ってくださいって言いましたよね?」

 ローズは椅子に座りながらちょっと強めな眼差しで俺を見つめる。


 「そうだっけか?」

 俺は小首をかしげる。


 「そうですよ!もう。」

 「お前が来るとうるさいね。」

 「失礼ですよ!」


ローズは地団駄を踏む。


 「な、うるさい。」

 「もう!」

 本当ににぎやかだ。


 「ほら、ローズ、これやるから黙って食べろ。」

 そう言って、ジョージがシャーベットが盛られた皿を突き出す。


 「うわ、きれい。キラキラして宝石みたい。」

 ローズの瞳はシャーベットを前にキラッキラだ。


 「アベル様、かわいい女の子に好かれる気分てどうですか?」

 スプーンを半分咥え、悪戯な笑みを作りながらエレナが俺に質問をする。

 エレナ、うっせーよ、余計なこと言うな。


 「さあ、僕は好かれたことがないから分かんないね。」

 と、とぼけておく。


 「坊っちゃんが気が付いていないふりとか、らしくねぇな。」

 ジョージがニヤつきながらつぶやく。


 「美味しー!これ冷たくて美味しいですね。」

 8歳狼少女のリアル小並感


 「僕はいい。けど、あとで本人が辛くなることは言わないでよ。」


 「あ、申し訳ありません。」

 「おお、そうだな、すまん。」

 二人は俺の言葉の意図をくみ取ったのか、すぐに謝罪した。


 本当に申し訳なさそうだ。

 でも謝罪すべきは俺にじゃない。


 好かれようが、俺は好きになるわけにはいかない。

 スタート地点にすら立てない恋なんて辛いじゃないか。


 「ローズ美味しい?」

 俺はローズに聞いてみる。

 「はい、美味しいです。」

 


 そう言ったローズの笑顔は眩しいくらいだった。



ここまで読んでいただき、有難うございます。

続き読みたいなぁって思ったら、是非ブックマークしてやって下さい。

作者が喜びます。

外されると病みます。

嘘です。

とにかく気に入ってくださると幸いです。


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