58-2.アベルくんと寄子の罪。
58-2.アベルくんと寄子の罪。
「そんなん犬にでも食わしちまいなよ。損しかない。うーん、為替に変えるにしても一緒に割符も貰わなきゃだから、そうすると身分証明の城の手形がいるか。街の支署で発行しているから、問い合わせれば分かるかもな。その人の名前は?住所と生年月日もわかればいいかな。」
俺はギルドの面々を見渡しながら聞いてみた。
職員のデータくらいは残してあるだろうからね。
「わかります。書類を取ってきますね。」
ソフィアさんはソファから立ち上がり、急いで部屋から出て行った。
「マリアさん。」
俺は後ろの椅子で控えているマリアさんを呼ぶ。
「わかりました。書類を持って支署に行けばいいんですね。」
マリアさんは立ち上がるとすぐに俺に話しかけた。
俺の乳母さんてば綺麗で優秀。
「わかりが早くて助かるよ。あ、これ持って行って。僕の紋章。父さんが文官たちに、これ僕のだって知らせていたから、これがあれば話が早いでしょ。それとフレイヤさん。」
こっちも優秀らしいから、一つお願いしようか。
「わかったわ。エスコートね。」
流石B級トップ。
察しがいい。
「ありがとう、女性を一人にできないからね。」
「アベルちゃん、やさしいのね。」
俺を見て瞳を潤ませるな。
きもい。
「ギルおじさん。」
いまだ俯いているギルおじさんに声をかけた。
「む、俺は商業ギルドか?」
顔をパって上げるギルおじさんの顔の嫌そうなこと。
そこまでかよ。
「流石にギルおじさんにお使いはさせられないよ。」
ギルおじさんには、もっと嫌なことやらせてあげるよ。
「じゃあなんだ?言ってみろ。」
ギルおじさんは、ちょっと安心した顔で聞いてくる。
「いや、ソフィアさんが来たら、ローズと一緒に商業ギルドに行ってもらおうかなって。ローズは機転が利くからね。連れて行って損はないと思うんだ。な、ローズ。」
ガタン!と椅子が鳴る音とともに、
「ガンバリマス!!」
と叫ぶような声を出す、ローズ。
「そんな力まんでいいから、いつも僕に突っ込みいれてるくらいの機転を利かせてよ。場面が無けりゃ無いで、それでいいんだから。でも周りにはできるだけ気を配って。お前の鋭い五感ならできる。」
「はい。」
落ち着きを取り戻したか、おとなしい声色でローズは返事をする。
「あと残ったギルおじさんと僕はね。」
「なんだ、早く言え。」
そう慌てんなって、一番大事な仕事だからさ。
「二人で帳簿調べようか。」
「帳簿かよ。一番嫌な役回りじゃねーか。」
はぁ、ってな感じで顔をゆがめて目一杯嫌そうなギルおじさん。
「ギルドの責任者として、職員のケツくらい拭かないとね。」
「むぅ。 じゃ、とりあえず帳簿持ってこさせるわ。」
所属の長の責任は、職員の不手際の面倒を見ることだ。
まあ、出来ない奴のほうが多いがな。
「うん、お願い。」
「アベル様、わたしは?」
「アンネかぁ。うーん、わかった、アンネは魔素の取り込み練習だ!」
「はい!」
元気に返事をして、さっそく深呼吸をアンネは始める。
「経理担当の書類を持ってきました。」
息を切らせてソフィアさんが部屋に戻ってくる。
「あ、ありがとう。ちょっと借りるね。エルザ・サルヴァドール 28歳。未婚。住所はヴァレンティア住宅街か。」
俺はソフィアさんから借りた書類を見ながら、広げてあったプレゼンの用紙をひっくり返し、そこに容疑者のデータを書き込み、更に要件を書いて自分のサインをする。
「じゃ、このギルドの書類を持って、ソフィアさんとローズは商業ギルドに行って問い合わせね。そして、今僕が書いたこれを持って、フレイヤさんとマリアさんは城の支署に行って、手形の件について問い合わせて。そしたら支署の近くが城門の騎士詰所でしょ。そこへ行って、さっきの紙を詰所にいる騎士に見せて。エルザって人の足止めをお願いするって書いてあるから。では四人とも、気を付けてお願いします。」
ああ、俺がお願いする案件じゃなかった。
四人は、
「はい!」
と今日顔を合わせたばかりとは思えないほど、声を合わせた返事をし、それぞれ部屋から出て行った。
「二十八歳独身か。」
「なんでぇ、気になんのか?」
ギルおじさんが俺のつぶやきに反応する。
「言っちゃ悪いけど、行き遅れているでしょ。」
この世界では、十八歳が適齢期と言われている。
魔道具があって便利なようでも、医療が遅れているこの世界で妊娠、出産は、一歩間違うと死に直結する。
だから体力のある若いうちに結婚するのは理にかなっているのだ。
前世の日本が四十歳までが適齢期とか言えるのは、手厚い医療と保険があるからだ。
「うん、まぁな。それが何か関係するのか?」
ギルおじさんは不思議そうに俺に質問をしてくる。
「たぶらかされたのかなって。悪い男に引っかかったりさ。」
「そういう事か。独り身なら十分考えられるな。」
ああ、と納得したように言葉を発するギルおじさん。
「それと。」
「まだあんのか。」
ギルおじさんは、はぁ?って顔をする。
「この人、サルヴァドール子爵のご令嬢?」
「ああ、確かそうだな。令嬢って言っても二女らしくてな。何か理由があって独り身で、いい歳になって屋敷に居辛かったんだろう。学もあったし身元もしっかりしてたんで、ギルドで採用したんだ。」
ギルおじさんは天井を見ながら、記憶を探って答えを出す。
「よりによって、うちの寄子の令嬢かよ。面倒くせえなぁ。」
俺はまた頭を掻き毟る。
「ああ、そういうことか。もしエルザが犯人ならローランドはまた仕事が増えるな。」
ふふん、と、なんだか余裕を出しているギルおじさん。
おバカちゃんめ。
「おじさん、他人事じゃないんだよ。ちゃんと被害を届けなかった件もあるし、いろいろと爺ちゃんからもお話があるだろうね。」
「ご隠居様は関係ないだろ。」
慌てだすギルおじさん。
「あるよ、父さんが忙しければ、元領主としては出てこなければならないこともあるさ。」
「何とかならんか、坊主。」
ギルおじさんは俺に拝みそうだ。
「いやぁ、それはちょっと。寄子関係となると、なおのこと顔の広い爺ちゃん担当となる恐れはあるよね。」
実際、これは政治の話になるしな。
寄子の息女が寄親のおひざ元で犯罪とか、馬鹿なことをしたもんだよ。
実家のサルヴァドール家に罰金だけで済めばいいがってな感じだが。
実際はな…
「むぅ、十分ご隠居様が出る余地はあるってことか。」
ギルおじさんは不服そうだが、これは既定路線だ。
多分だれも崩せない。
「そうだね。父さんがそういう判断をするかだけど、捕まって実行犯ともなれば、よくて追放、悪くて死刑だろ。しかも寄子の娘を死刑とかな。どうしたもんかな。」
「刑罰となると、今言ったのが妥当なのか?」
ギルおじさんは率直な質問をしてくる。
「まあね、被害金額もデカいし、まして貴族出身者が犯人となると、示しの問題がなぁ。」
これはノヴァリスが定めたものだ。
その代わり、連座は可能な限り避けている。
「そういやよ、サルヴァドール家っていやぁ、結構裕福な家だろ。領地も広いし作物も育つ。ダンジョンもある。なんで寄子に付いているんだ?」
「場所だよ。うちの隣でしょ。もし聖王国が攻めて来た時、うちの軍備がないとね。」
何も経済的なものだけじゃないからね。
軍事的優位に立つものに寄り添うのもありだと思う。
「ああ、そういう事か。なるほどなぁ。貴族もいいことばかりじゃねぇな」
ギルおじさんは、今の説明で納得したようだ。
すると、扉からノックの音がして職員の人が顔をのぞかせるのだった。




