57.アベルくんと多様性。
57.アベルくんと多様性。
俺は応接セットのテーブルの上に、紙束を順に並べていく。
もちろんおじさんの方に向けてね。
内容は、父さんとギルおじさん、そして俺が城の書斎で話したこととほとんど変わらない。
ギルドのことに、細かい口出しは出来ないからね。
学校の概要だけの説明だ。
でも、学校となれば、城から補助金を出せるかもしれないから、そん時はガッチリ口を出したろ。
今回来たのは、ギルおじさんがギルドの職員にも学校の話をしてくれと言う要請があったからだ。
「さて、冒険者ギルド職員育成学校(仮)のお話を始めようと思うんだけど、聞くのはギルおじさんだけでいいの?」
紙束を並び終えた俺は、ギルおじさんに聞いてみる。
「おっと、そうだな。おい!」
またかよ。声リモコンは便利でいいな。
ガチャリと扉が開き、また椅子を持ってきてくれた職員が顔を見せる。
「ソフィアとフレイヤを呼んでくれ。」
そうギルおじさんが言うと
「はい。」
と言って職員は扉の向こうに消えた。
「ギルおじさん、フレイヤさんて誰?」
分からないことは聞く。社会人一年生での鉄則だ。
俺は3歳だが。
「ああ、坊主は知らないんだっけか。副ギルド長だ。A級までは行けなかったがB級のトップを走っていた優秀な奴だよ。」
ギルおじさんは腕を組んでニヤって笑う。
なんだか嫌な笑い方だな、なんだろう。
コンコン、とドアがノックされ、ソフィアさんが「失礼します。」と入ってくる。
その後ろから
「やっだぁ、なぁにぃ、ギルマスぅ。」
と男の声が聞こえる。
男だよな?
彼?が入って来た一瞬で背筋が凍る。
部屋の中に入って来たのは、ネクタイはしていないが、スーツのようなものをビシッと着ている細身の優男。
身長は180㎝くらいか。
金髪をオールバックになでつけているが、前髪をわざとらしく垂らしてる。
こいつ、化粧もしてやがる。
きっちりアイラインにパープルのアイシャドウ。唇はダークブラウンの口紅だ。
なんたるセンス。
ぱっと見、美男子なんだけどな。
そして妙に腰つきが怪しくうねってる。
「あっらぁ、かわいい子供たちが一杯。ほら、ソフィア、正面のソファに座っている男の子なんてすっごくかわいい。食べちゃいたい。」
食べんなよ。
つか、ここにもポリコレの波が。
いや、オカマ文化なんぞは日本では脈々と息づいていたではないか。
他の世界にあったっていい。
うん、居てもいいんだ。
でもやっぱキモイ。
「初めまして、フレイヤさん、僕はローランド・ヴァレンタインの子息。アベル・ヴァレンタインです。よろしくお願いします。」
座ったままだが、俺はきちっと挨拶をする。
「あっらぁ、あなたがヴァレンティアの至宝、アベルちゃんね。やだ、ギルマスに聞いたとおり可愛いわぁ。あたしはフレイヤ、よろしくね。ア・ベ・ルちゃん。」
区切るのやめろ、な!キモイから。
「てか、ギルおじさん。俺を至宝とかなんとか言いふらすのやめてくれる?」
とりあえずフレイヤは置いといて、俺はとても迷惑だと言わんばかりにギルおじさんにかみつく。
「なんでぇ、坊主。照れてんのか。おまえが世間に出るようになれば、嫌でも言われるよ。今のうちに慣れておけ。な。」
ごつい腕を組みながら、ニヤニヤとギルおじさんは笑ってる。
人の反応を楽しみやがって。
「あら、お爺様もお父様も、ましてお母さまも素敵な二つ名持ちじゃない。アベルちゃんもそのうち慣れるわよ、ねぇ、ソフィア。」
お前は黙っとけ!
「フレイヤさん、私に振らないで下さいよ。でもそうですね、今のままならアベル様は黙っていても、周りが黙っていないでしょうから、諦めるしかないんでしょうね。」
ソフィアさんは至極真面目な顔で返答した。
くっそぅ、冒険者ギルドなんかに関わるんじゃなかった。
考えてみれば、うちの両親もここまでではないが、癖が強いもんな。
そういえば、隣で座っているアンネがぽーっとした顔でフレイヤを見ている。
「あら、かわいいお嬢ちゃん、あたしになんか御用?この子もすごく可愛いわねぁ。」
「おじちゃん、男?」
ああ、アンネが禁忌に触れる…
「興味ある?身体は男、でも心は乙女なの。生物的には男だから、トイレもお風呂も男性用に行くわ。視覚的に捗るわよ。」
そう言ってフレイヤはアンネにウインクをする。
「アンネに余計なことを教えるな!」
多様性なんて押し付けるんじゃねーよ!バーカ!
「おいおい、どうした坊主。珍しく興奮してんな。何か嫌なことでもあったのか?」
おう、前世で嫌なことばかりだったよ。
好きなゲーム、アニメ、漫画が貶められ、おまけに特定の店舗でカードまで使えなくなってしまった。
ド畜生共が。
そんなことを考えていると、アンネが突然
「おじちゃん、お化粧綺麗ね。」
ニコッと笑ってフレイヤに言った。
「ああん、この娘分かっているわねぇ。ありがとう、本当にありがとう。周りの馬鹿共ったら、このセンスを誰も わかってくれないの。お嬢ちゃんだけよ。」
今にも涙をこぼしそうな勢いでアンネにお礼を言うフレイヤ。
分かったから、そろそろ進めよう。
「始めちゃっていい?」
もう、強引に切り出す。
「だな、いつになっても進やしねぇ。」
ギルおじさん、他人事みたいに言ってんじゃないよ。
「皆さんもいいですか。」
「はい。」
ソフィアさんはクールに返事をする。
「はーい!」
オカマはうざい返事をした。
「アベル様、私も?」
アンネが聞いてくる。
「アンネは僕の隣でお話を聞いていて。眠くなったら寝ていていいからね。」
そう俺が言うと
「私、頑張って起きてるよ。」
と言って笑う。
俺はそれを見て頷き
「じゃ、始めますか。」
そう言ってギルド職員たちに向き直った。
ここまで読んでいただき、有難うございます。
続き読みたいなぁって思ったら、是非ブックマークしてやって下さい。
作者が喜びます。
外されると病みます。
嘘です。
とにかく気に入ってくださると幸いです。