55.アベルくんと美人秘書さん。
55.アベルくんと美人秘書さん。
馬車を降り、ギルドに向かう。
マリアさんが先頭を歩き、俺らチビ共はそのお尻についていく。
別にマリアさんのお尻は良いものだなあとか思ってないよ。
天は胸じゃなくてもちゃんと尻にとかって、全然思っていない。
天気が良いせいか、ちょっと埃っぽい道路は混雑している。
冒険者ギルドの付近には、食堂や宿屋、武器、防具屋なんかもあるね。
でもやっぱり一番賑わっているのは冒険者ギルドだ。
大理石かな?コンクリートのようにも見える、そんな素材を使ったギリシアの神殿のような建物だ。
ハッタリが効いてんな。
見渡してみるといろんな種族がいる。
獣人でも、猿やたぬきのような顔の人たち。
ニャンコ顔の可愛い女の子もいる。
猫耳かわよ。
思わず手を振りそうになったが、ローズに睨まれたからやめた。
リザードマンの鱗の部分は十分硬そうだね。天然の鎧か。
俺よりデカいが一般的な人間から見ると小さい、そんな身体であくせく動いているのはハーフリングの人達かな。
人間の冒険者が圧倒的に多いね。
種族的に多いんだから仕方ないが、出生率も高いんだろうか?
獣人の人達はヒートが来ないと致さないんだろうか?
さすがにローズに聞くわけには行くまいよ。
そんなことを考えながらキョロキョロ見渡す。
このいい天気の日にフルプレートは暑そうだ。
二刀流の人もいるな。
おお、あのお姉さんのビキニアーマーは防御力はあるんだろうか?
思わず見つめていたら、またローズに睨まれた。
男性は視覚に入るものには弱いのだ。
仕方ないのだよ、ローズくん。
そんなわけで、ギルドの入り口はたくさんの人だかりだ。
その中で、制服のようなものを着た、綺麗な金髪の女性がギルドの扉の前に立っていた。
俺たちに気が付いたようで、こちらに駆けてくる。
まあ、三人の子供連れがこんなところでウロウロしてたら、そりゃ、目立つよな。
その金髪の女性は先頭のマリアさんに一礼して
「アベル様ご一行様でございますか?」
と聞いてきた。
うむ、左様じゃ、とか言いたくなる。
「左様でございます。そして、こちらがアベル様でいらっしゃいます。」
俺の方に手を向けながら、簡潔に俺のことをマリアさんは紹介する。
そしてその女の人は俺にペコリとお辞儀をして
「はじめまして、私、冒険者ギルド・ヴァレンティア支部にて、ギルド長秘書をやっております。ソフィアと申します。アベル様、冒険者ギルドへ、ようこそおいでくださいました。アベル様のお噂はかねがねお伺いしております。どうぞ、こちらにおいでください。」
顔を上げたソフィアさんは、近くで見ても端正な顔だ。
そして耳が長い。
おそらくエルフだね。
彼女は先頭を歩き、俺達を正面扉の方に案内する。
俺はソフィアさんに
「ギルおじさん、ソフィアさんみたいな綺麗な人を侍らせてんの?隅に置けないね。」
ソフィアさんを見上げ、声を掛けた。
「アベル様!御婦人にそのような物言いをなさってはなりません。わかりましたね。」
マリアさんの美しい顔に、ちょっとだけ眉間にシワがよっている。
ありゃ、珍しくマリアさんを怒らせてしまった。
「あ、マリアさんごめんね、なにか急に許せなくなっちゃってさ。ソフィアさんもごめん、みんなギルおじさんが悪いんだよ。」
そうそう、あの前衛特化型筋肉ダルマが悪いんだよ。などと他責感たっぷりな俺。
そんな俺に向き直り、にっこり微笑んだソフィアさんは
「いえ、謝って頂くようなことはございません。でも、ギルド長は真面目な方で、二人きりでのお食事も誘ってくれないんですよ。」
こんなことを言うわけだ。
あらあら、ギルおじさんもマジで隅に置けないじゃないか。
誘ったれよ。もう。
「こんな魅力的な方を誘いも出来ないなんて、存外ギルおじさんも不甲斐ない。」
俺がこう言い切ると
ローズが
「アベル様は素敵な御婦人がおいでなら、お食事に誘うのですか?」
キッと睨み、切り込んできた。
「ローズ、もちろんだよ。人生は短い、出会いはその短い人生の中で、何回もないんだよ。チャンスは有効活用しないと、損をしてしまう。わかるかい?」
ローズの睨みをかわしながら、俺は腕を広げ大げさなジェスチャーをローズに向けて見せてやる。
「わかりません!私は意中の人が一人いれば十分です。」
と、言って、頬を紅潮させ膨らませてフンとそっぽを向く。
俺はわざとらしく額に手を当てて
「おやおや、おじさん参っちゃうな。まあ、まだ若い御婦人にはわかるまい。」
と、おどけて言ってみた。
周りで俺達を見ていた冒険者たちが、ギョッとした顔をする。
中にはこちらを見ながらコソコソと話をしている。
テメー等、見世もんじゃねーぞ。
ソフィアさんがマリアさんに耳打ちのようなヒソヒソ声で、「アベル様は本当に3歳でいらっしゃるんですか?と聞いていた。
丸聞こえである。
それに対し、マリアさんはそんなの大した事ではないという顔で
「そうですよ、このアンネローゼと同い年です。ちょっと前までアンネローゼと一緒のベビーベッドで寝ていらっしゃったんですよ。その頃から天使のように可愛い赤ちゃんでした。」
マリアさんは、後ろからついてきたアンネローゼを見つめながら、ソフィアさんが誰も聞いてもいない一言を付け足していた。
「本当に3歳です。私、お産に立ち会いましたから。」
こう言ったのはローズ。
何故か誇らしげだ。
そのときは立派な口上で、生まれたての俺に忠誠を誓ったんだってな。
母さんと父さんから聞いたよ。
産まれたての俺は大パニックだったし、まだ言葉も理解できていなかったよな。
「ギルド長も、末恐ろしい3歳時だって仰ってましたが本当ですね。流石に楼閣主様に唾を付けられているだけのことはあります。ビックリ。」
本当にビックリしているソフィアさん。
大げさすぎだ。こんな3歳児、掃いて捨てるほどいるはずだ。
「楼閣主様のお話を知ってらっしゃるのですか?」
ビックリして聞いてしまっているのは実はローズ。
「はい、ギルド長が仰ってました。楼閣主様とそうなればアベル様は国中に名前が轟くと仰っていましたね。」
ソフィアさんは右手の人差し指を軽く自分の顎に添えて、しみじみと語っている。
「僕の筆おろしの話はもういいから進まない?」
楼閣主の婆ちゃんの、俺の筆おろしをしてやる発言は一部で大騒ぎだったからな。
まあいい、俺はソフィアさんにそう言って促した。
「申し訳ございません。急ぎましょう。」
そう言って恥ずかしそうにソフィアさんは歩き出した。
「ソフィアじゃねぇか、なんでぇ、餓鬼ども引き連れてよぉ。保母さんにでも職を変えたのかい」
周りの取り巻きであろう野郎どもを見まわし、なんだかさえないおっさんが絡んできた。
いや、装備は割とまともだな。
光沢のあるいい革と、なんの金属かわからないけど、これも光沢のある金属で作られた胸プレート。
使い込まれた感じはするけど、傷は少ない。
下げてる剣も業物なんだろうなぁ、こりゃ。
「おっと、もう一人上玉もいるなぁ、よう、紹介してくれよ。」
マリアさんに向けた下卑た笑い声とともに、テンプレなセリフが飛んでくる。
冒険者ギルドの入り口には、そういうスイッチでも仕込まれているのかもしれない。
ちなみに俺は踏んでいない。はず…。
「ああ、ウーヴェさんですか。こちらは『一閃の剣』のご子息御一行様です。無礼な振る舞いは許しませんよ。」
そうして俺たちの前に立って、気丈に立ち向かうソフィアさん。
かっこええ、惚れちゃいそう。
と思ったら、ローズが肘で突いてきた。
「なんでぇ、領主のせがれかよ。こんなんに構っていたら、首がいくらあっても足りねぇや。行こうぜ。」
そうテンプレを吐きつつ、周りの冒険者を牽制しながらヴーヴェと呼ばれた冒険者は、取り巻きたちと一緒に雑踏へ消えた。
あっさり引き下がったな。
まあ、こちらに何かあったら、マジで首が飛ぶからな。
やるのは『剣では無敵』か『一閃の剣』なんて言う、大仰な二つ名を持った二人の内のどちらかは知らんが。
母さんなら魔法で雷を直で落とすだろう。
「ヴーヴェはC級のベテランなんです。彼ら以上となるとなかなか存在しませんから、増長してしまうんでしょうね。うちの冒険者が申し訳ありませんでした。」
そう言ってソフィアさんは俺たちに最敬礼をした。
「切った張ったで生きてる冒険者だもの、多少やさぐれている人がいるのは仕方ないよ。ソフィアさんのせいじゃないさ。」
一応この団体の代表としてフォロー入れる。
次は無いぞ、ヴーヴェ。
「冒険者に登録したての20年前くらいの頃は、可愛かったんですけどね。ソフィアさん、ソフィアさんて、よく懐いてくれていたのですが、どうしてああなってしまったのか…。いや、アベル様、すみません。ギルド長のもとに向かいましょう。」
そう言ってちょっと寂しそうな笑顔を見せて、歩き出すソフィアさん。
さすが長命種というべき言葉が出てきた。
俺も妖精種の前で恥ずかしい振る舞いは厳に慎もう。もう遅いが。
ヴーヴェの絡みを遠巻きに眺めていた冒険者たちが、俺のことに気付いたのか
「あれがアベル様?」
「一閃の剣のせがれかぁ…」
「剣では無敵とお転婆魔法使いから剣と魔法を習ってるっていう…」
「バレンティアの至宝と呼ばれる…」
などと声が耳に届く。
やだ、オラ、こっぱずかしい…
爺ちゃんと両親が有名人ていうのも考え物だ。
これも背負ったカルマだと思ってあきらめるしかないのだろうが。
などと考えていると、後ろの方から「アベル様ー!」と、黄色い声援が飛んできた。
そちらを振り返ると、猫系や犬系の獣人娘のパーティーがキャッキャキャッキャして俺に手を振ってくる。
俺は思わずサムズアップして、ウインクしてやった。
それを見た獣人娘たちは「キャー!かわいい!!」と大騒ぎ。
すると突然、俺の腰に膝が入ってきた。
『フライング・ニー』である。
下手人はもちろんローズ。
イテテテ、洒落にならんて、ホンマ。
俺はその場でうずくまる。
「ローズちゃん!気持ちはわかりますが、今のはさすがにいけませんよ!」
さすがにやり過ぎと思ったのだろう、マリアさんが珍しくローズに雷を落とした。
そしてうずくまる俺の様子をうかがう。
「アベル様!大丈夫ですか!!ごめんなさい。つい我を忘れてしまって。」
我に返ったローズも慌てて俺に寄り添う。
「アベル様、大丈夫?」
アンネまで寄り添ってくる。
「アベル様、背負います。肩に手をかけてください。」
そう言ってマリアさんは俺に背を向けしゃがみ込む。
「ああ、大丈夫だよ。ローズは軽いからね。膝が当たった程度じゃそんなダメージも食わないさ。」
俺は痛みに耐えながら笑って立って見せた。
マリアさんとローズはそんな俺を見て、ホッとした顔をする。
「だがローズ、8歳のお前に感情をコントロールしろとは言わない。しかし、それが出来なければこれから先、俺はお前と一緒には居られない。」
矛盾した物言いだが、こうでも言わないとこれから先辛くなるのはローズだ。
さっきまでホッとした顔のローズの瞳が涙でいっぱいになる。
しかしローズは泣かない。
必死に耐える。
俺に感情をコントロールしなければ一緒に居られないと言われたからだ。
「アベル様、どうしてローズちゃんを怒るの?怒らないで。お願い。」
俺たちの間にアンネが割って入る。
膝蹴り食らえば怒るだろ。
アンネにはわからないかもしれないが。
ローズがアンネを抱きしめ
「アンネちゃん、アベル様は私のことは怒っていないの。注意してくれたのよ。心配してくれてありがとう、アンネちゃん。」
そう言って、とうとう泣き始めた。
これは仕方ない、ノーカンだ。
ここまで読んでいただき、有難うございます。
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