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48.アベルくんと図書室と司書。

48.アベルくんと図書室と司書。




 アリアンナ母さんの攻撃から這う這うの体で逃げ出し、ようやく図書室へ到着した。


 ここの扉、子供には重いんだよな。

 「よっこいしょ。」

 そう言って俺は重い図書室の扉を押す。


 音は鳴らないけど、スーとは開いてくれないこの扉

 「早く入って。」

 ロッティーとアンネに早めの入室を促す。


 二人が入ったのを見届けたら、自分も扉の中へ体を滑り込ませた。

 室内はいたって静かだ。


 図書室は壁から屋根がドーム状になっており、その壁一面に本棚が備え付けられている。


 そのドーム状の屋根に窓はない。


 おそらく経験則で太陽の光が本に良くないってわかっているんだろうね。


 本棚には明かりの魔道具がそれぞれ照らしている。


 そのドームの中央に司書のカウンターが置かれ、カウンターを明るい魔道具が照らしている。


 カウンター奥で座っていた司書が顔を上げる。


 彼は掛けていた眼鏡を胸ポケットにしまい、こちらに丁寧なお辞儀をした。

 「お嬢様、アベル様。おや、今日はアンネちゃんも一緒ですね。ようこそ、図書室へ。」

 人懐っこい笑顔で挨拶をしたのは、この図書室の主、ハンスだ。


 僕と姉さんは瞼だけで軽く答えたが、アンネはきちんとお辞儀を返す。

 ハンスは178㎝程度の身長で、痩せ気味、髪は明るいブラウン、瞳も同じ色だ。

 その顔はいつも温和な笑顔で来た人を迎えてくれる。


 「ハンス、この前は無理を言ってすみませんでした。でもお陰で資料作りは捗って、アベルと二人でとても喜んでいたのですよ。ありがとう。」

 そう言ってロッティーはお辞儀をした。


 「お礼などとんでもない、こちらこそお役に立てて喜ばしい事です。」

 ハンスはあわてて反応する。


 「まあ、さっき母さんに姉さんは怒られていたんだけどね。」

 俺はニヒッといたずらな笑顔を二人に向けた。


 「アベル、その口がいけないの?」

 姉さんは俺の口角を思いっきりつねった。


 「痛い、いたーい。」

 俺はそう言いながらなんとかロッティーの攻撃から逃れる。


 「アベル様、大丈夫ですか?」

 アンネは俺に駆け寄って、紅葉のような小さい手でほっぺをさすってくれた。


 「アンネ、ありがとう。姉さん、酷いよ!」

 俺は姉さんをねめつけて文句を言った。


 「あら、今のは余計なことを言ったアベルが悪いのだわ。」

 ロッティーはフンと鼻を鳴らし、そっぽを向いた。


 「まあ、まあ、そのへんで。お二人とも相変わらず仲がよろしいですね。」

 ハンスは笑顔で僕らの諍いを止めた。


 ロッティー、今日は舌打ちといい、今の仕打ちといい、やたらと攻撃的だな。

 生理?8歳だぞ、まだだろ。


 「アベル、何を考えているの?」

 こういう機微に対しての反応の速さは、女の人は何故鋭いんだろうね。

 特にうちの女性陣は反応良すぎだよ。


 「いや、何でもないよ、姉さん。」

 

 「そう、ならば良いのだけれど。ハンスに目的の本があるか早速聞いてみましょう。」


 「ハンス、騒がせてなんかゴメンね。今日来たのはね、英雄王ノヴァリスについて何か資料か伝記みたいのがないかなって思って来たんだ。」


 「いえ、お子様方が賑やかなのはとても良い事ですよ。さて、英雄王ノヴァリスですか?ノヴァリス王国平定のお話をお調べになるのですか?」


 まあ普通はそういうのを調べるんだろうね。


 「えっとね、人となりと言うか、いろんな発明や法律の立案をしてるでしょ。そう言うのに興味があるんだよね。」


 「ほう、アベル様は面白い視点で英雄王をご覧になるのですね。」

 そう言ってハンスは目を細める。


 「ヴァレンティアの街で言えば、下水道処理とか教育制度とか1500年前に考えるにはちょっと凄いなって思ったんだよね。何かを参考にしたのかなって思ってさ。その思考の一端を知りたいんだ。」


 「アベル様は本当に幼児とは思えませんね。中身にとても優秀な大人が入っていると言われても、私は否定できません。」

 そう言う本質に触れなくていいからね、ハンス。


 背中に汗が伝うじゃないか。

 本を出してくれるだけで俺は満足だから。ね。


 「ハハハ、そんな筈があるわけないでしょ。勉強で言えば姉さんに到底かなわないしね。」

 ロッティーの記憶力は底なしだからな。マジ凄い。


 「そんなに謙遜するものではないわ、アベル。私はあなたを認めているもの。ねぇ、アンネローゼ、あなたもアベルは凄いと思うでしょ?」


 「はい、シャーロット様。アベル様はなんでもお分かりになる凄い方です。」

 ああ、もう、そういう賛辞は良いから。先に進もうよ。


 「ところでその手のお話が書いてある本て、この図書室に存在する?」


 「あらアベル、貴婦人の賛辞を無視するものではないわ。」

 「もういいよ、恥ずかしいから、もう」

 俺は地団駄を踏んだ。


 「おや、さすがのアベル様でもお嬢様とアンネちゃんには敵わないようですね。」

 そりゃそうよ、俺なんて前世じゃキモオタだぜ?


 「僕は一生、世のご婦人方に頭が上がらない気がするよ。」


 「アベル様、そこまで老成するにはいささか早い。」

 アラフォーだから老成もするともさ。


 「もう、ハンスも姉さんたちのノリに乗っていないで、本があれば出して。」


 「はい、ではアベル様が望む内容があるかどうかはわかりませんが、英雄王ノヴァリスの伝記が三、四冊ほどありますから、お持ちいたします。少々お待ちください。」

 そう言ってハンスはニッコリ笑い、二階の本棚の方へ歩いて行った。


 「じゃ僕らはテーブルで待っていようか。」

 俺はそう言い、読書用のテーブルが置いてあるスペースに向かう。 


 二人もトコトコついてきて3人とも椅子に座った。


 「でも伝記が三、四冊もあるなんてびっくりしたよ。姉さんが読んでいた歴史書くらいしか無いもんだと思ってた。教育制度とか、下水処理とか歴史書に書いてあったんでしょ。」


 「そうね。ノヴァリス国の歴史書に英雄王様が作ったと書いてあったのを覚えているわ。それで、アベルは伝

記のあてが有ったから図書室に来たのではなかったの?」

 こちらの表情をうかがいながらロッティーが言う。


 「まるっきり。ここの蔵書とハンスなら何か見つかるんじゃないかとは思って来たけどね。」

 俺は両手を上げるジェスチャーをしておどけて見せた。


 「あきれたわ。」



 ロッティーはちょっとだけむくれたのだった。



ここまで読んでいただき、有難うございます。

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どうかよろしくお願いします。


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