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45.アベルくんと子供の雑談。

45.アベルくんと子供の雑談。




 「そう言えば、なんでエレナ姉までいたんですか?」

 ローズは子供部屋までの廊下の途中で俺に質問をしてきた。


 「炊事場に向かう途中で会ったんだよ。そしたら付いてきたんだ。断ったり咎める必要もなかったからそのまま放っておいた。」

 俺は素直に真実だけを言った。


 「私も誘ってほしかったです。」

 ちょっとむくれた顔でそんなことを言う。


 「お前はロッティー姉さんと勉強中だっただろ。学問をないがしろにしてはいかん。」

 お勉強は大事だからね。

 ロッティー先生のお陰で、ローズとリサは場内では博識の方だと思うよ。


 「そうでした。そうですね。」

 ローズは素直に答えた。


 「ところで、アンネは見なかった?」

 俺はふと疑問に思ったことを聴いてみた。


 「子供部屋で一緒に勉強をしてましたよ。まだいると思います。気になります?」

 こいつめ、下衆の勘繰りしてきやがったな。


 「せっかくドーナツを四個貰って来たんだ。皆に食べさせたいだろう?んじゃ、このまま行こう。」

 俺たちは子供部屋まで向かった。


 子供部屋に入ると、ロッティー、リサ、アンネの姿が目に入った。

 部屋の中央にある大きなテーブルに3人で仲良く並んで座っている。

 ロッティーはノヴァリス王国の歴史書の何巻目だろう?を読んでいた。


 リサとアンネは蝋板を使って単語の書き取り中だ。

 ノヴァリス国ではすでに植物紙が発明されているけれど、いかんせん大量生産がまだできてなくてコストが高い。

 だから、勉強にはもっぱら蝋板が使われるわけだ。

 ああ、黒板とチョークでも作ったろか。

 チョークは卵の殻を集めて焼いて砕いてまた固めれば作れたはずだけど、黒板はどうやって作るんだ?


 ググれない世の中は不便で仕方がない。

 まあ、とりあえず後回しだな。

 気が付いたときにトライアンドエラーで作ればいい。


 「みんな、おやつ持ってきたよ。」


 俺が声をかけると、集中していた3人が素早くこちらを見る。

 おやつと聞いた、女性陣の目が鋭すぎる。

 おい、おい、目が怖いって。

 お腹空いていたのかな?


 「アベル、炊事場に行ってきたの?」

 ロッティーがゆったりとした雰囲気で俺に聞く。


 「そだよ。お腹が減っちゃってね。僕は先に食べてきたから、皆でおあがりよ。リサとローズはお茶の支度をしてくれ。あ、僕はいらないからね。」


 「はい。」

 リサとローズは息ピッタリに返事をして、お茶の支度を始める。


 俺はアンネの隣に座り

 「書き取りかい?」

 と声を掛ける。


 「はい、アベル様。」

 そう言ってアンネは目を伏せた。

 なんだろう恥ずかしいのか?


 というか、なんだろう、他3人の視線が怖い。


 リサとローズは手早くお茶を入れ、リサはロッティーの隣に、ローズは俺の隣に座った。

 ローズとアンネに挟まれた形だね。


 「アベル様ったら、ジョージさんとマーガレット様と一緒に使用人用の食堂でお茶会をなさっていたんですよ。」

 ドーナツを手に取って安心した顔のローズが言った。


 「エレナ姉も一緒でしたけど。ドーナツを二つ食べたって言ってました。」

 付け加える。

 ローズはドーナツが好きだよね。

 何故かは知らんが。


 「エレナ姉はいつも抜け目ない。ほんのちょっとしたことを自分の得にしていく。凄い。」

 リサが一口かじったドーナツを見つめながら言った。


 「確かにあの要領の良さは見習うべきところはあるね。」

 俺は笑いながら言う。


 「アベルはエレナのような女性が好きなの?」

 いきなり変な話題を振ってくるロッティー。

 急にシンと静まり、なんだか空気がぴりつき始めた。


 「女性としてねぇ。人としては嫌いじゃない。むしろ好意を持っているといっても良いんじゃないかな。あいつ面白いしね。ただ恋愛的な話になるとわかんないね。18歳の女性に対して、こちらはまだ3歳だし。」

 こんな物言いをする三歳児はいないとは思うんだが、俺とロッティーは許されているからこのままで行く。


 「嫌いではないのね。」

 なんだか突っ込んでくるロッティー。


 「うん、嫌いじゃないね。でもユーリの恋敵になるつもりもないよ。」

 こう俺が言うと

 「そうね、あの二人の恋路の邪魔はいけないわ。」

 そう言ってロッティーは紅茶を一口飲んだ。


 幼児たちの会話じゃないよね。

 もうちょっとワイワイ話をしないと。

 俺には出来んが。


 「ユーリで思い出した。あの二人結婚しないのかな?」

 俺の率直な疑問だ。

 急激な話題転換ともいう。


 「そうですよね。」

 これはローズ。


 「うん、興味ある。」

 これはリサ。

 

 「好きになったらするものじゃないんですか?」

 これがアンネ。


 アンネの一言こそが三歳児の会話だよ。

 これでもませている方だと思うがな。


 ロッティー以外のちびっ子たちは三者三様だ。


 「どうかしらね。チャールズが今ユーリ達を鍛えているんでしょう?チャールズも自分の後継者を作りたいって言っていたもの。厳しい修練をしているなら、なかなか私生活の方に手が回らないのかもしれないわ。」

 流石ロッティー。いろんな情報を仕入れているな。


 「なるほどね。けど後継者選びとは急だね。なんかあったの?」

 俺はのほほんと聞いてみた。


 「それはね、アベル、あなたのせいだわ。」

 

 ファッ!なにそれ…


 「俺が騎士団になにかしたっけ?」


 「そうじゃないわ、あなたはお祖父様に剣を習い始めたでしょう?それはこの武芸の家であるヴァレンタイン家が次期当主の育成をし始めたことを世に知らしめたということ。それを受けてチャールズはあなたが領主となったときの騎士団長を育成し始めたのよ。」


 「それにしても気が早いよ。父さんが隠居するのだって30年以上後でしょ?」


 「そうね、だからこそ時間を掛けて、チャールズと同等かそれ以上の騎士を育成するつもりなのよ。それくらいの騎士じゃないとヴァレンタイン辺境伯領騎士団団長は務まらない。他領に軽視されてしまうような騎士団では、辺境伯領としては失格なの。自領を守るだけではなく、王から国土を守る責務を与えられているのですから、その責務に押しつぶされない勇気と技量が必要だわ。」


 「チャールズだって、二つ名持ちではないものの、国内では広くその強さは知れ渡っているんでしょ?それと同等、もしくはそれ以上っていうのは大変なんじゃない?」


 「あなたがそれを言う?アベル、あなたは"剣では無敵"に師事しているのよ。それがどういうことかわかってる?」

 「まあ、そりゃあね。プレッシャーはありますよ。けど、俺が爺ちゃんや父さんのようになれるとは限らないじゃない。努力はするけどさ。」


 「それでもあなたはお祖父様に師事してしまった。それはお祖父様と対等にならなければ、世間は許さないということを意味するわ。まして父様は15歳でお祖父様と剣技で並んだという実績がある。これを乗り越える必要があなたにはあるの。厳しいわね。」



 嘘だろ、そこまで期待値高く設定されてんの?



 「でも僕は気長にやるよ。まだ3歳だしね。時間はあるでしょ。母さんからも魔法を習おうと思っているし。」


 「アベル、剣と魔法は両立しないわ。知っているでしょう?」

 ロッティーはアンネ越しに俺の顔を覗き込む。


 「知っているよ。でもね、僕の歳で両方を習った人は今までいないんじゃないかな。しかも教えてくれる二人が達人級のなわけだろ。なにか起こると良いなって思っているんだ。」


 「あなたが言うとなにか起こりそうね。」

 そう言ってニコリと微笑むロッティー。


 「ははっ、そうだろ。そうだ、アンネにも魔素の吸収練習をさせたいんだけど。母さんは許してくれるかな?」


 「あら、アンネにも?何かあるのかしら。」


 「特段なにかあるってわけじゃないよ。僕と乳兄弟だしね。魔法くらい覚えても良いのかなって思ったんだ。」


 魔素タンク仕様の聖女様だからね。


 「相変わらず、シャーロット様とアベル様が揃うと、難しいお話になりますね。」

 なんだかローズが不満げに言った。


 「な、僕もそう思うよ。ユーリとエレナの結婚の話だったのにな。」


 「うん、でもアベル様の目標がわかったみたいで良かった。」

 なに?

 リサってばよく聞いてるね。


 「アベル様、私も魔法を習うことが出来るんですか?」

 アンネが聞いてくる。


 「そうだね、アンネも母さんから習うべきだと思うんだ。血は繋がらなくとも僕らは兄弟だからね。一緒に習おうよ。」

 「うれしい。」

 本当にうれしいのだろう、アンネの頬はほんのり赤く染まっていた。


 「アンネローゼは魔法を習いたかったのですか?」

 ロッティーがアンネに聞く。


 「はい、でも私は貴族ではないから、ダメなのかなって。」

 細い声で答えるアンネ。


 「あなたの亡くなったお父様は騎士爵ですもの。あなたが相続は出来なくとも家系としては貴族の一員だわ。ましてあなたはアベルの乳兄弟、何も問題などないわ。」

 ロッティーが引け目を感じているアンネの背中を言葉で押してあげる。

 「シャーロット様、アベル様、ありがとうございます。私もアベル様と魔法を習いたいです。」

 目を伏せていた顔を上げ、しっかりした声でアンネが言った。


 「うん、よし。母さんに僕から頼んでみるよ。」

 そんな我々の会話が途切れたのを見計らっていたリサが


 「ローズ、そろそろ洗濯ものの取り込みにいく。」とローズに話しかける。

 「いい時間だね。行こう。」


 ローズとリサは椅子から降り、部屋の出口へと向かう。

 そして二人そろって

 

 「シャーロット様、アベル様、失礼いたします。」


 そう言った二人に俺とロッティーは軽く目を伏せて応えた。



 リサとローズはにっこり笑い、子供部屋を後にした。



ここまで読んでいただき、有難うございます。

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