44.アベルくんと気軽なお茶会。
44.アベルくんと気軽なお茶会。
食堂のテーブルの椅子に皆で座る。
ただし俺はマーガレットの膝の上だ。
何故かって?
テーブルに顔も手も届かないからだよ。
言わせんな。
決して、マーガレットに甘えているからではないのだ。
ぷんぷん。
エレナが皆にお茶を配り席に着く。
俺は相変わらず白湯だけどね。
ジョージが持ってきたドーナツを皆でつまみながら他愛のない話が始まる。
「ところで坊っちゃん、剣の修練はどうだい?ご隠居様から指導を受けているんだろ。」
ジョージが話を振ってくる。
「まだ剣なんてアベル様には早すぎますよ。怪我をしたらどうするんですか。」
マーガレットは修練には賛成ではないらしい。
「まだ始めたばかりだよ。爺ちゃんが見せてくれる形をなぞっているだけ。あとは素振りだね。爺ちゃんも僕はまだ小さいから激しい修練はしないって言ってるよ。」
まだ爺ちゃんも優しいからね。俺の身体がもっとデカくなったら分からんが。
「しかし剣では無敵に教えを乞うことが出来るのは、国中探しても坊っちゃんだけだもんな。」
ジョージが爺ちゃんを二つ名で呼ぶ。
いかにこの二つ名が国民に浸透しているのかがわかるね。
父さんも二つ名も持ちだもんな。
ヴァレンタイン家が武家であることを如実に表している。
「母さんから魔法も習いたいんだけどね。」
俺がドーナツをかじりながら話していると
「アベル様、食べながら話すのはお行儀が悪いですよ。」
そう言ってエプロンのはじで俺の口を拭うマーガレット。
「アリアンナ奥様が許してくださったのですか?」
エレナは二つ目のドーナッツを見つめながら言ってる。
「お転婆魔法使いからはまだお許しを頂いてないね。でも魔法使いにしろ剣士にしろ魔素を感じることが出来ないと大成できないそうだからどちらも頑張んないとね。」
マーガレットの膝の上で白湯をすする。
「お転婆魔法使いって?」エレナは不思議そうに聞く。
マーガレットは澄ました顔で
「知らないのですか?アリアンナ奥様の二つ名ですよ。奥様は12歳で冒険者になられましたからね。その頃から既に魔法使いとして一流の腕だったそうです。それで付けられたのが"お転婆魔法使い”元A級冒険者アリアンナ・セントクレアと言うわけです。」
こう言って、エレナに説明した。
「そうだったんですね。奥様はあんなにお淑やかですもん。今じゃ到底わからない二つ名ですよね。」
エレナ、俺もそれを知ったときは君と同じ思いだったよ。
「あなたはこの前の修練場での騒ぎを知らないのかしら。なら仕方ないわね。」
紅茶を一口飲んでからマーガレットは話した。
「仕方ないね。」
母さん怖かったもんね。
「坊っちゃんは改革案も進めなきゃなんないもんな。」
ジョージはちょっと悪戯気味に俺に言う。
「どう?文官もここでご飯を食べる人もいるんでしょ?何か言ってる?」
ジョージに対し、俺は率直に聞いてみる。
「ん~?あまり皆表で声は出さないな。仕事がガラリと変わってしまうんだろ?身構えてしまうのは仕方ないんじゃないか?」
ジョージはよく観察してくれているようだ。
「仕事ね。これは父さんたちの話を詰めないと何とも。仕事の量はそんなに変わらないと思うんだよ。ただ考えて動く必要が出てくるだけでね。申し訳ないけど、ご領主様の仕事量を分散化したいんだ。それだけなんだけどね。」
「アベル様はその小さいお身体で、本当に難しい事をお考えなんですね。」
エレナは感心したように言う。
「シャーロット様とアベル様はヴァレンティアの至宝ですからね。」
なぜかマーガレットが得意げだ。
てか、マーガレットも至宝とか言ってんの?
この言い方、広まってんのかな?
クソさむくて嫌なんですけど。
「じゃ、そろそろお開きにしようか。うるさいのが来そうな予感がするんだ。」
そう言ってマーガレットの膝から降りた。
「ジョージもマーガレットもありがとう。ドーナツ、とても美味しかったよ。またお茶会しようね。」
そう言って食堂から出ようとしたその時、
「あー!アベル様こんなところにいた!」
ローズの大きな声が食堂いっぱいに響いた。
ほらな、うるさいのが来た。
「ローズ!なんですかあなたは、騒がしい。ましてアベル様に対してそのような態度を取るなど、許されませんよ。」
マーガレットはさっきまでの緩んだ表情から、眉間にしわを寄せたメイド長の厳しい顔に変わっている。
「はい!申し訳ありません!」
そう言って深々とお辞儀をするローズ。
「あなたは昔から元気だけは良いのだから…まったく。」
やれやれという感じでマーガレットがぼやいた。
「アベル様、炊事場に何の御用だったんです?ジョージさんとお話とか?」
ローズが俺に聞いてきた。
「いや、違うよ。つまみ食いに来たの。流れでこのメンバーでのお茶会になったけど。」
俺は正直に言ってみた。
「お茶会ですか。あ!ドーナツ!いいなぁ。出かけるときは言ってくださいよぅ。エレナ姉、いくつ食べたの?」
まだ椅子でくつろいでいるエレナにローズが聞いている。
「ふたつ~。」
エレナは満面の笑みを顔に張り付け満足げに答えた。
おい、エレナお前いつの間に?
「えっ!二つも!いいなぁ。」
なぜかローズは涙目になっている。
「ほら、あなたたち、お休みは終了ですよ。仕事に戻りなさい。」
若いメイドたちの会話をよそに、厳しいメイド長はまくしたてる。
「その前に、ジョージ、お皿に4個ドーナツをちょうだい。もうおやつの時間でしょ。姉さんのところにもっていくから。」
俺はジョージを見上げながら言った。
「おう、そうだな、ちょっと待っとけ。」
ジョージはそう言うと厨房の方へ歩いて行った。
「ローズ、ドーナツを受け取ったら子供部屋に行くよ。姉さんはそこだろ?」
ローズに聞いた。
「そうです。」
羨ましげにエレナを睨んでるローズが手短に応えた。
そこへジョージがトレイに乗せた皿をもってやってきた。
「ほら、ローズ落とすんじゃないぞ。」
そう言ってトレイをローズに渡す。
「はい。それではアベル様行きましょう。」
トレイを受け取ったローズは出口へと歩き出した。
「それじゃ、みんな楽しかったよ。」
俺は残された3人に手を振った。
「おう、また来いよ。」
ジョージはそう言って手を振る。
「ほら、エレナ、仕事にあなたも行きなさい。」
「はーい」
という会話が後ろから聞こえてきた。
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