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43.アベルくんとつまみ食い。

43.アベルくんとつまみ食い。




 石作りで薄暗い通路が続いている。

 ここは使用人用の通路だ。

 その通路を、テクテク歩いている。


 通路を照らす魔道具を、もうちょっと明るい物にすればいいのにとは思う。

 コスト削減なのかね?

 それとも貴族と使用人を分けているのか。


 よく分からん。


 なんでこんなところを歩いているのかと言えば…


 「あら、アベル様、こんなところに何のご用です?」

 そう聞いてきたのはメイドのエレナだ。


 年の頃は18歳。

 年相応でかわいい顔立ちをしている娘だ。

 なんでも騎士団の副官をしているユーリと付き合ってるとかなんとか。


 この世界では結婚していてもおかしくない歳なんだよな。

 ユーリめ、早く貰ってやれよ。


 「炊事場に行くのさ。つまみ食いにね。」

 しゃがんで俺の目線に合わせたエレナに言った。


 「あら、ならば早く行きましょう。」

 エレナはそう言うと素早く立ち上がり、通路を歩いて行く。


 「なに、エレナも行くの?」

 俺がそう聞くとエレナは

 「ご相伴にあずかれるかも知れないじゃないですか。」

 などと言う。


 「ジョージは大丈夫だとしても、マーガレットが居ないことを祈るんだね。」

 俺はあえて生意気な口ぶりをした。


 「アベル様、冒険をしないと宝物は得られないものなんですよ。」

 エレナは得意げだ。

 「言うほど冒険かな?」

 俺が言うと

 「私にとっては大冒険ですよ。」

 歩きながら大きな胸を張るエレナ。


 「ああ、そうですか。まあ、ついておいでよ。」

 そう言って炊事場に向かった。


 そして炊事場の扉の前に到着した。

 チッ、マーガレットは居なかったか。


 「なにか仰いましたか?」

 ハッ!テレパシスト!?

 「何も言ってないが?」

 少々ビビりながら扉に手をかける。


 「ジョージいる?」

 俺は扉を開いて炊事場の主を呼んだ。


 「あれ?アベル坊っちゃん、どうした?腹でも減ったか。」

 そう答える見た目筋肉だるまのジョージ。


 パッと見、騎士団に入ったほうがいいんじゃねーの?

 という外見だが、どうしてどうして、見た目は華やか、そして味は繊細と言う見事な料理を作り上げるのだ。

 「そう、お腹が減ってね、何かある?」

 俺は小首をかしげ3歳児らしく聞く。


 「あるっちゃあるんだけど、これは午後のおやつ分だぜ?まあ、俺が新しく作ればいいだけか。」

 ジョージは腕組みしながら厨房の中を見ている。


 その視線の行く先にあるのは、ドーナツ。

 小腹を満たすには十分だ。


 「で、後ろのエレナは何してるんだ?」

 ジョージは胡乱げにエレナを見ている。


 「俺についてくれば何か貰えるかもってついてきちゃったんだよ。だからエレナにも分けてあげてよ。」

 俺の声を聞きエレナは喜色満面だ。

 「俺は良いんだがなぁ。後ろのお人がな。」

 ジョージが俺やエレナより後ろに目線を向けたので、俺は自然と振り返ってみた。


 「エレナ、あなたお仕事はどうしたんです?」

 それは静かな声だった。


 エレナが静かに振り向く。

 それはさっきの笑顔と真逆の顔だ。


 「アベル様もつまみ食いですか?次期ご当主なのです。あまりよろしい事とは思えませんよ。」

 その人物の声はあくまで静かだ。


 声の主はメイド長のマーガレットだ。

 彼女は自らも周りもすべてにおいて厳格。

 しかし弱点はある。


 「そうだね、わかっているつもりだよ、マーガレット。でも本当にちょっと小腹が空いちゃってね、ついついジョージに甘えたくなったんだ。ごめんよ。」

 上目遣いにマーガレットへと話をする。

 今から俺は3歳児全開でいく。

 改革案なんてとても作れない、小さな男の子なのだ。


 「エレナもね、途中で一緒になって一休みしようって僕が誘ったんだよ。あまり叱らないであげて。お願いだよ。」

 そう言いながら俺はマーガレットに抱き着き、エプロンに顔をうずめて懇願する。


 「もう、仕方ありませんね。これきりですよ。」

 マーガレットはしゃがんだと思ったら、俺を抱き上げた。

 

 いささかマーガレットの顔が上気しているように見える。

 あと一押し。


 抱き上げられた俺は、マーガレットの首に手を回し

 「マーガレット、大好きだよ。」

 そう耳元にささやく。


 俺を抱く力がグッと強くなる。

 

 堕ちたな。


 この時の俺の顔は、さぞ邪悪な笑みを零していたに違いない。


 「相変わらず、坊っちゃんに手玉に取られているな。」

 ワハハと笑いながらジョージがマーガレットをからかう。


 「仕方ないじゃない!こんなに可愛らしいんですもの。そう言うあなたもアベル様には甘いでしょう?」

 マーガレットは恥ずかしそうに恥ずかしい事を言う。


 「俺はシャーロット嬢ちゃんにも優しいが?」

 ジョージの顔は大まじめだ。


 「そんなことを言っているんじゃありません。」

 とは言うものの、今のマーガレットにはまるっきり怒気がない。

 

 しかし仲のいい夫婦だね。


 ずいぶん前にマリアさんから女性特有の症状に効くポーションって物を貰っていたよな。

 それで子供が出来るかもって話だったんだが、授かりものだからな。

 でもまあ、頑張れジョージ。


 「仕方ありません。みんなで奥の食堂で一休みしましょうか。」

 おや?

 マーガレットも休むらしい。


 「エレナ、お茶の用意を。あなたの分もですよ。」

 そう言って炊事場奥の使用人用食堂に俺を抱いてマーガレットは向かう。


 エレナは


 「はい!」

 

 と言って炊事場でお茶の準備を始めるのだった。



ここまで読んでいただき、有難うございます。

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