42.アベルくんと最初の官僚。
42.アベルくんと最初の官僚。
ここは子供部屋。
広い部屋の真ん中に、大きいテーブルにロッティーと俺が待ってきたノートを取り出し並んで座って見ている。
部屋の壁際にはリサとローズが黙ってこちらを見ながら控えていた。
「姉さん、これが城の僕の考えた行政改革案の概要だけど、どう思う?」
俺は右側となりに座っているロッティーにノートを見せながら話した。
「これはセイナリアの宮廷で既に採用されている行政のあり方よね。文官という個人を廃して官僚という組織を構成したって言う。ウィリアムお祖父様が指揮を取って行われているわ。」
ロッティーは、俺がノートに書いた計画書の一文一文を指さしながら呟いた。
「そうだよ。ウィリアム爺ちゃんはやり手で、宰相として凄く上手くやっているって父さんも言っていた。これをさ、今までヴァレンタイン領で行なわれなかったのが不思議でさ、父さんなんて飛びつくだろうにって思ってたんだ。」
俺は少し目を伏せて言った。
「そうね、まず文官を官僚組織にすげ替えるのが大変なのだと思うわ。文官のほとんどは貴族の子弟で構成されているから、プライドが高いの。自分の仕事をいきなり取り上げられて、今度から席を並べて考えながら仕事しましょう、とはならないわ。それに今までで一番の問題だったのは、ヴァレンタイン家が武芸優先の家だってこと。武芸の家だからこそ、文官の仕事をおざなりにしたのだわ。領主は頭脳のようなの仕事をして、文官に手伝いを頼むだけ、総合的な文官の仕事なんて気にしてなかったのだわ。」
ノートから目を外し、上を見て少し伸びをするロッティー。
「ザックリとした組織はあったんだけど、あくまで父さんは中心で、文官は手足程度でしか考えてなかったんだよね。」
伸びをするロッティーを見ながら言った。
「アベルはその手足に考える力をつけたいのよね?」
ふと顔を俺の方を向け、俺の目を見ながらロッティーは言った。
「そうだよ、それこそが官僚組織だ。数人の集団で、資料を揃え、考え、答えを導き、そして判断を父さんに任せる。これが出来れば父さんの仕事量もグッと減るでしょ?」
俺はロッティーの目を見つめ返しながら答えた。
ロッティーは
「ふう」
と、一息し
「リサ、お茶を頂戴。アベルも飲むでしょ?」
壁際に控えていたリサに指示した。
お、一時休憩か、俺ものどが渇いたし、いいタイミングだな。
「僕はまだ小さいし、白湯をいただくよ。」
3児時の身体にカフェインを入れて良いのか迷ったので、白湯をリクエストした。
「かしこまりました。」
リサとローズがお茶の支度を始める。
「問題は現在の文官たちよね。彼らは自分たちで考えるやり方に不満を覚えるかもしれない。」
お茶の支度をするリサたちを眺めながらロッティーは言う。
「今までする必要がなかったからね。仕事量が増えると考えるかもしれない。」
「まずはプライドの高さを、それをどう叩き潰すかが問題だわ。」
ロッティー、叩き潰すって。
「最初は僕らで説明し、指導しなければならないと思っている。子供の言うことをどこまで聞くかわからないから、父さんはもちろんだけど、ヨハンとネスにも手伝ってもらわなきゃね。」
ローズからソーサーを受け取りながら俺は言った。
「ではこれまでの話を書類にまとめましょうか。大人たちに見せて意見を聞かなければいけないわ。」
ロッティーはリサからお茶を受け取って一口飲む。
「姉さん、今僕達がしている事が官僚組織だよ。」
と、俺が言うと
「まあ、本当ね。素敵だわ。」
そう言ったロッティーは小さな花の様な可愛い笑顔を見せた。
そして椅子から降りたロッティーは、いきなり俺をぎゅっと抱きしめる。
「どうしたの?いきなりだね。」
俺は抱きしめられたままでロッティーに呟く。
「抱きしめたくなったの。」
うん、そのとおりなんだろうね。
「姉さん、前から思っていたんだけどさ、姉さんてブラコン?」
「違うわ。アベルが賢くて、とても可愛いからいけないの。」
俺はロッティーの背中を手のひらでポンポンと叩きながら
「はいはい、リサとローズが見ているからもうやめましょうね。」
俺はそう言ってなんとかロッティーの支配から脱出する。
両手の空いたロッティーはややふくれっ面で俺を見つめている。
ああ、やっぱりブラコンだったか。
ブラコンだったな。
そんな気はしてた。
うん。
リサは見て見ぬふりを貫いている。
ローズも見ないふりはしているが、その目は険しい。
なんだかめんどくさい事になりそうだ。
どんより曇った空が窓から見えた。
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