表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/361

42.アベルくんと最初の官僚。

42.アベルくんと最初の官僚。




 ここは子供部屋。


 広い部屋の真ん中に、大きいテーブルにロッティーと俺が待ってきたノートを取り出し並んで座って見ている。

 部屋の壁際にはリサとローズが黙ってこちらを見ながら控えていた。


 「姉さん、これが城の僕の考えた行政改革案の概要だけど、どう思う?」

 俺は右側となりに座っているロッティーにノートを見せながら話した。


 「これはセイナリアの宮廷で既に採用されている行政のあり方よね。文官という個人を廃して官僚という組織を構成したって言う。ウィリアムお祖父様が指揮を取って行われているわ。」


 ロッティーは、俺がノートに書いた計画書の一文一文を指さしながら呟いた。


 「そうだよ。ウィリアム爺ちゃんはやり手で、宰相として凄く上手くやっているって父さんも言っていた。これをさ、今までヴァレンタイン領で行なわれなかったのが不思議でさ、父さんなんて飛びつくだろうにって思ってたんだ。」

 俺は少し目を伏せて言った。


 「そうね、まず文官を官僚組織にすげ替えるのが大変なのだと思うわ。文官のほとんどは貴族の子弟で構成されているから、プライドが高いの。自分の仕事をいきなり取り上げられて、今度から席を並べて考えながら仕事しましょう、とはならないわ。それに今までで一番の問題だったのは、ヴァレンタイン家が武芸優先の家だってこと。武芸の家だからこそ、文官の仕事をおざなりにしたのだわ。領主は頭脳のようなの仕事をして、文官に手伝いを頼むだけ、総合的な文官の仕事なんて気にしてなかったのだわ。」

 ノートから目を外し、上を見て少し伸びをするロッティー。


 「ザックリとした組織はあったんだけど、あくまで父さんは中心で、文官は手足程度でしか考えてなかったんだよね。」

 伸びをするロッティーを見ながら言った。


 「アベルはその手足に考える力をつけたいのよね?」

 ふと顔を俺の方を向け、俺の目を見ながらロッティーは言った。


 「そうだよ、それこそが官僚組織だ。数人の集団で、資料を揃え、考え、答えを導き、そして判断を父さんに任せる。これが出来れば父さんの仕事量もグッと減るでしょ?」

 俺はロッティーの目を見つめ返しながら答えた。


 ロッティーは

 「ふう」

 と、一息し

 「リサ、お茶を頂戴。アベルも飲むでしょ?」

 壁際に控えていたリサに指示した。


 お、一時休憩か、俺ものどが渇いたし、いいタイミングだな。

 「僕はまだ小さいし、白湯をいただくよ。」


 3児時の身体にカフェインを入れて良いのか迷ったので、白湯をリクエストした。

 「かしこまりました。」

 リサとローズがお茶の支度を始める。

 

 「問題は現在の文官たちよね。彼らは自分たちで考えるやり方に不満を覚えるかもしれない。」

 お茶の支度をするリサたちを眺めながらロッティーは言う。


 「今までする必要がなかったからね。仕事量が増えると考えるかもしれない。」


 「まずはプライドの高さを、それをどう叩き潰すかが問題だわ。」

 ロッティー、叩き潰すって。


 「最初は僕らで説明し、指導しなければならないと思っている。子供の言うことをどこまで聞くかわからないから、父さんはもちろんだけど、ヨハンとネスにも手伝ってもらわなきゃね。」

 ローズからソーサーを受け取りながら俺は言った。


 「ではこれまでの話を書類にまとめましょうか。大人たちに見せて意見を聞かなければいけないわ。」

 ロッティーはリサからお茶を受け取って一口飲む。


 「姉さん、今僕達がしている事が官僚組織だよ。」

 と、俺が言うと

 「まあ、本当ね。素敵だわ。」

 そう言ったロッティーは小さな花の様な可愛い笑顔を見せた。


 そして椅子から降りたロッティーは、いきなり俺をぎゅっと抱きしめる。

 「どうしたの?いきなりだね。」

 俺は抱きしめられたままでロッティーに呟く。


 「抱きしめたくなったの。」

 うん、そのとおりなんだろうね。


 「姉さん、前から思っていたんだけどさ、姉さんてブラコン?」


 「違うわ。アベルが賢くて、とても可愛いからいけないの。」


 俺はロッティーの背中を手のひらでポンポンと叩きながら

 「はいはい、リサとローズが見ているからもうやめましょうね。」

 俺はそう言ってなんとかロッティーの支配から脱出する。


 両手の空いたロッティーはややふくれっ面で俺を見つめている。


 ああ、やっぱりブラコンだったか。


 ブラコンだったな。


 そんな気はしてた。



 うん。



 リサは見て見ぬふりを貫いている。

 

 ローズも見ないふりはしているが、その目は険しい。

 なんだかめんどくさい事になりそうだ。



 どんより曇った空が窓から見えた。



ここまで読んでいただき、有難うございます。

☆の評価ポイントとブックマークで得られる作者の栄養があります。

よろしければ、下にある☆とブックマークをポチっとしていってください。

どうかよろしくお願いします。


この作品を気に入ってくださると幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ