513.アベル君と送別会。
513.アベル君と送別会。
「国王陛下のご入場です。」
いきなり拡声の魔道具を使って、執事であろう初老の男性が国王の登場を告げた。
豪奢な扉が開き、そこから国王と、王妃、オスカー、オリビィが順に入場してくる。
ダンスホールの奥には、台座と更にその上に玉座が据え付けられており、その前まで国王が行くとホールのほうを振り返った。
執事から魔道具を国王は受け取り、魔道具をポンポンたたく。
いささか小太りになった国王がやると、宴会場の幹事のようだ。
いや、それはあまりに失礼か。
古のキャバレー支配人程度にしておいてやろう。
「これより、我が師エドワード・ヴァレンタインのヴァレンティア帰還の送別会を執り行う。師の入場を願う。」
パーティー自体も臣下じゃなく、あくまで師ね。
まあ、仕方ない。
俺が発起人だったのを横取りしたのは目をつぶってやろう。
じゃなきゃ今頃は酸欠で気絶していたかもしれない。
誰が?
さあ?
おっと、そんなことを考えている間に、また先ほどの豪奢な扉から一対のカップルが登場した。
燕尾服のような、もう面倒だから燕尾服にしてしまうけれども、を着た爺ちゃんと、その腕にカミラが自らの腕を組み入場したのだ。
本当にヴァレンティアに連れていくんじゃないか?
というわけじゃなく、ダンスパーティーの態をとっているため、相手が必要なんだと。
そこで白羽の矢が立ったのがカミラだった。
なぜか仲いいしね。
そして、国王たちの立つ台座の一段下で立ち止まり、ホールの方を振り返った。
ホールを見渡しているエドワード爺ちゃんも、魔道具を受け取る。
それを見届けた国王がまた口を開いた。
「それでは、我が師、エドワードよ。一言挨拶をいただこう。」
そういって、エドワード爺ちゃんが口を開くのを会場の皆が待つ。
「あー、本日は私めのために、国王陛下、そしてご参集の皆様がこのような場を設けて頂き、大変恐縮するところであります。」
おい、なんだか会社の送別会の様相を呈してきた。
ヤバイ、パーティーの最後に一本締めとかしちゃいそう。
「思えばわが孫アベルの護衛兼引率でやってきた久方ぶりのセイナリアでしたが、古い友人、知人との交遊も相まって、大変有意義な滞在期間となりました。そしてその最後に国王陛下からこのようなパーティーを開いていただき、感無量であります。」
ここまで爺ちゃんが言った後、
「エドワード!長い!酒が温くなる!!」
と、大きなドラ声が響き、会場が一瞬ざわついた。
「バルドさん!」
俺は一瞬にして吹いた。
しかし、国王主催の上級貴族が顔を見せるこの会場で、隠居したとはいえ子爵が元辺境伯を呼び捨てにしていいものではない。
しかし、セイナリアに住む貴族も民も、誰もがこの二人のことを知っている。
親友であり、ライバル。
近衛騎士団長と市の騎士団長。
セイナリアを守る双璧がとても仲が良かったことを。
「アベル様。」
ローズがちょっと心配そうに呟いた。
「うん、バルドさんは、もう飲んじゃっていたのかな?」
「え?」
「爺ちゃんが居なくなるのが寂しいんだよ。」
「ああ。仲がよろしいのですね。」
「うるさいヤジが入りましたので、手短に。皆様、本日はありがとうございます。」
そう言って爺ちゃんはバルドさんの方をにらみながら、小さく会釈した。
そして、
「酒、酒と、うるさい奴がいるから、余自ら乾杯の音頭をとってやろう。」
言うが早いか、国王がメイドの持ってきた盃をつかんだ。
「師、エドワード・ヴァレンタインの旅の無事を祈念し、乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
会場に大きな乾杯の声が響くのだった。
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