514.アベル君とダンス。
514.アベル君とダンス。
乾杯が済むとホールの隅にある楽団用のブースから、音楽が流れ始めた。
談笑を始める者、酒を飲む者、料理を食べる者、連れてきた相手とダンスを始める者。
皆、思い思いに、ホールの中で過ごし始めた。
「あ、爺ちゃん、婆ちゃん借りていい?」
「ん?構わんが?うん、踊っておいで。」
そう言ってウィリアム爺ちゃんはにこやかに頷いた。
俺はひざを折り、婆ちゃんに手を差し出し、
「奥様、一曲踊っていただけますか?」
「あら、アベル、奥様やシャーロットを差し置いて、婆ちゃんと踊ってくれるの?」
「彼女らとはこれからの時間はあるでしょう。まあ、孫の気まぐれだと思って。」
俺が苦笑いしながら手を差し伸べていると、その手を取って婆ちゃんは言った。
「踊りましょう。騎士様。」
こう見えてアテクシ、ヴァレンタイン家嫡男として、ダンスのレッスンも受けてきたんですのよ。
運動神経抜群のアベルの体のスペックも相まって、スムーズに覚えることが出来ました。
ホントこの身体はチートだよ。
でも、俺にとってはありがたい。
身体の自由が利き自由になれる。
これほどのご褒美が、第二の人生で得られている。
ワン、ツー、スリー、流れる楽曲は三拍子のワルツ。
前世で言えばね。
この世界でも舞踏ではスタンダードだ。
俺が前に足を出すと、婆ちゃんは足を引き、後足を一歩進め足を引くと、婆ちゃんは前に足を出す。
三拍子でこれを繰り返す。
ね、簡単でしょう?
「婆ちゃん、動くねぇ。」
「アベルのリードが上手だからよ。」
「そう?まだまだと思うけどな。」
「そうね、経験が足りないわね。」
「社交界に出ていないからなぁ。」
「興味がないの?無いでしょうね。でなくてもあなたは全部持っているもの。」
「全部ってわけじゃないと思うけどね。学校で、友人知人は何人かできたけど。社交界での知り合いはいないでしょ。まあ、オスカーとオリビィは別にして。」
「一番強力な後ろ盾を得ても、全部じゃないと言える強かさも大したものね。」
「五歳のころ、うちの使用人の結婚式を、爺ちゃんが手配してくれた迎賓館でしたでしょ。」
「そうね、あの日あなたにこっぴどく叱られたわ。」
「ああ、そうだった…でね、あの日に僕も婆ちゃんに言われたんだ。戦争のことを、人の命を考える歳ではないって。婆ちゃんは聞いていると思うけど、これまで何回かオスカーが命を狙われた。そろそろ考える歳になってきたんだよ。」
「そうね、あなたも家族を持ったのですもの。周りの人間の命を考えるのは自然なことよ。」
「お許しが出たね。それとね。さっきの礼が言いたかったんだ。」
「お礼?」
「そうだよ。ローズを家族として、この場で受け入れてくれた。婆ちゃん、ありがとう。」
「アベル、可愛いわね。ローズも可愛いあなたの嫁。当然よ。」
と、話し終わったら、ちょうど音楽も終わり、ダンスをしていた人たちも止まった。
婆ちゃんと俺はお互いにお辞儀をして、俺のエスコートで皆の待つ場所へと戻っていった。
「一曲踊るなんていつぶりでしょう!楽しかったわ!」
婆ちゃんはそう言って上品に笑っていた。
「うむ、シャーロット次、踊ろうか。」
「え!?お爺様。私、アベルと踊りたくて。」
「あう。そうか。」
そう言ってしょげるウィリアム爺ちゃん。
「宰相閣下。よろしければ私と踊っていただけないでしょうか?」
ローズが自ら立候補した。
それを聞いてウィリアム爺ちゃんの顔がぱぁ!と華やぎ、
「そうか、ローズが踊ってくれるか!うんうん、ありがとう。では行ってくるか。」
そう言って肘を突き出し、それにローズが腕を絡めた。
「さっき、お婆様とアベルが踊っているとき、周りの方々の話声がよく聞こえてきたわ。」
ロッティーが口を突き出し、不満げに言った。
「あまりいい感じじゃないようだけど、どんな話だったのさ?」
俺が聞き、婆ちゃんも耳を傾けるのだった。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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