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39.アベルくんの師匠はどちらだ。

39.アベルくんの師匠はどちらだ。




 父さんの見た目は一言で言える。


 『カッコいい。』


 身長182㎝程度か、身体は細身に見えるが脱ぐと凄い。

 細く見える身体に、みっちりと鍛えられた筋肉が縦横無尽に張り付いている。

 見せるために鍛えた筋肉ではなく、動かすため、斬るための筋肉だ。


 肩の下くらいまで伸ばした茶色がかった髪を後ろで束ね、そして、そのご尊顔は甘いマスクって言葉がぴったりだ。


 でも天狗だったんだね。

 あ、これは俺が言っただけか。

 失敬、失敬。


 「親父、アベルの修練は俺がやるって言っただろ。抜け駆けするなよ。」

 ああ、やっぱりこういう展開になるんだね。

 この、脳筋どもめ。


 「おぬしは領地の書類仕事が溜まっていたであろう。ならば、代わりにわしがアベルを見てやろうと。親心だ。」

 正論をかました上に、程よく煽って行くスタイルのエドワード爺ちゃん。


 「何言っているんだ、アベルにカッコいいところを見せたかっただけだろう。分かっているんだぞ。」

 父さん、案外煽り耐性低いのか?


 「おお、良く分かっているのう。さすが我が息子だ。だが、いい所を見せたいのはおぬしも同じだろ。うん?」

 爺ちゃんはさらに煽る。


 「からかうんじゃないよ。分かった、どっちがアベルの師匠になるか決着をつけようじゃないか。」

 あちゃー、始まった。

 父さん、それフラグだよ。


 エドワード爺ちゃんが持っていた剣を構え、ローランド父さんが腰の剣を抜く。

 ちょ、二人とも目がマジだ。


 「はい、はい、待って待って。真剣じゃダメでーす、やるなら木剣にしなさい。」

 俺は二人の放つ殺気が怖くて割って入れないから外で大声を出す。


 「なんだ、アベル、わしならローランドを殺さない程度に痛めつけることなど造作もないぞ。」

 

 「はぁ?言ってくれる、その減らず口を聞けないようにしてやるよ。」

 駄目だこいつら、聞く耳持ってねぇ。


 あ、チャールズ団長がこっちに来ている!

 「団長!助けて!!」

 俺は目一杯叫んだ。


 「アベル様おはようございます。おお、ご領主とご隠居の模擬戦ですか。これはいい時に来ましたな。」

 駆け足でやってきたチャールズ騎士団長は危機感がまったくない。


 それどころか


 「騎士団こちらに駆け足!!」

 

 と号令を掛け、修練場に入って来ていた騎士団のみんなを呼び集めてしまった。


 騎士団員は一様に

 「アベル様、おはようございます。」

 「何事ですか?」

 「ご領主様とご隠居様じゃないですか。」

 「模擬戦ですか。」

 「こりゃいい時に来ましたね。」

 などと楽しみ始めている。


 「ほう、程よくギャラリーが増えよったか。」

 ニヤリと口を歪めるエドワード爺ちゃん。


 「緊張して剣を落とすなよ、親父。」

 ローランド父さんめ、煽りよる。


 と思ったら二人同時に

 「「アベル!合図!!」」

 

 などと叫びやがるから

 しゃーねーな、分かったよ。

 

 「はじめ!!」


 と、叫んだ。


 フッ!と風と共に二人の姿が消えたかと思ったら、ガキィン!と剣と剣のぶつかり合う音が聞こえた。

 あーあ、始まっちゃった。

 もうこうなれば止められる人間は限られる。

 ジタバタしても仕方あるまい。


 俺はチャールズ団長の方を向いて腕を伸ばし

 「団長、肩車して。」

 と、おねだりした。

 

 「はい、かしこまりました。よっこいしょ。」

 そう言ってチャールズ団長は俺を肩に担ぎ上げる。


 見た目190㎝を超えた、ごつい身体をしている団長の肩に、すっぽりと俺はまたがった。



 チャールズ辺境伯領騎士団長。

 武芸、騎馬に秀で、辺境最強と言われる騎士である。

 二つ名はついていないんだけど、辺境最強が二つ名と言われればそうか。


 しかし残念ながら、ヴァレンタイン辺境伯領には、「剣では無敵」、「一閃の剣」という二つ名を持つ国中に知られる剣士が二人もいるので、チャールズ団長は剣士で言えば三番手になってしまう。


 ただ、乗馬と槍となると話は違う。

 この二つを操る団長は、鬼神の如くという言葉がよく似合う。


そんな団長だが、性格はすっとぼけていて、なかなか楽しい人だ。


 「アベル様も幾分重くなられましたな。」

 などと団長が言う。

 

 「そう?まだ成長中だからね。これからもっと重くなるよ。」

 と、答えておいた。


 「しかし今日はご領主とご隠居の気合が激しいですな。どうなされたのです?」

 俺を担ぎながら聞く団長。


 「うーん、僕のね、師匠になる権利を争っているんだよ。ケンカすんなって言ったんだよ。まったっく。」

 俺はため息をつきながら言った。


 「それは両者、真剣にならざるを得ないでしょうな。シャーロット様とアベル様はヴァレンタイン辺境伯領の至宝。そのアベル様の師匠となれば譲りたくなないでしょう。」

 団長はうなずきながら言った。


 「僕は至宝なんて大したもんじゃないよ。ちょっと普通の子供より物事を知っているだけさ。ちょっとだけね。」

 あれ?俺、至宝なんて言われてんの?

 ひょっとして目立ち過ぎちゃったか。


 「謙遜召されるな。聞きましたぞ、城の行政改革案。あれほどの計画を一人で考えられるのは、ちょっとだけとか言えますまい。」

 団長は戦闘中の二人に視線を外さず、俺に言ってくる。

 「あれはさ、父さんの仕事を本当に何とかしたかったんだよね。ところでさ、どっちが勝つと思う?」

 俺はつい悪戯っぽい笑顔を浮かべて団長に聞く。


 「ふうむ、どちらの気合も拮抗しておりますし、今のところは五分かと。」

 真剣なまなざしで団長が言う。

 

 俺はポケットを探りながら

 「それじゃ、僕は爺ちゃんにこれだけ。」

 と、言って団長にポケットに入っていた銀貨を差し出す。


 「な、これはいけませんぞ、アベル様。このようなことをなされては。しかし…そうですな。これもまた一興。では私はご領主に銀貨一枚にしましょうか。騎士団員たちよ!貴君等はどちらに賭けるか!?」


 「ご領主様に銀貨1枚!」

 「俺はご隠居様に1枚!」

 騎士団の中で賭け事の輪が広がる。


 「ユーリ!アベル様がご隠居に1枚と、私がご領主に1枚だ。」

 そう言って団長は副官のユーリに2枚の銀貨を渡す。


 「はぁ、私がまとめるのですね。みんな!私のところに掛け金を持って来い!」

 そうユーリは叫んで手際よく賭け金の整理をして行く。



 「アベル様、これはいったい何の騒ぎですか?」

 いつの間にか団長の隣にヨハンが立って俺を見つめながらそんなことを言ってきた。

 178㎝くらいだろうか、スラリとした細身の体にタキシードのような執事用の制服を着ている。漆黒の髪に非常に整った顔、その瞳はダークブラウンだ。

 そして特徴的な種族がエルフだということを示す長い耳。


 「父さんを探しに来たのかい?爺ちゃんが俺の剣の修練を始めていたんだけどさ、父さんが修練は俺がやるって言って、二人で僕の師匠の権利を争ってんのさ。」

 そう正直にヨハンに言う。


 ヨハンは団長に向かって

 「それでチャールズ団長もいらっしゃるのに止めずに見学ですか。」

 険しい目をしながら言った。


 「もう、あのお二人が剣を合わせた時点で、止められる者など居りませんからな。後学のために剣技を見ることしかできませんとも。」

 団長はどこ吹く風だ。


 「で、ヨハンはどっちが勝つと思う?」

 俺は無邪気に聞いてやった。


 「アベル様!」

 俺の顔を見て困惑した表情を見せるヨハン。


 賭けていたのを見てたんだろう。過剰な反応を見せるね。


 「もう止めようがないなら楽しむしかないじゃないか。そうだろヨハン。」

 俺は追い打ちをかける。


 「まだ小さなお子様なのに、どうしてそんなに擦れているんですか。まったく。」

 ヨハンは額に手を当てて考え込んでいる。


 「さあ、どっちだ?」

 俺はにっこりヨハンに微笑む。


 「むっ!」

 と俺を一瞬にらむが

 

 「はぁ、」


 大きく溜め息をつき

 「ご隠居様に1枚です。ご領主様は昨晩、徹夜でしたから。」

 と、言って一枚銀貨を取り出した。


 「パチンッ」


 団長は自分の額を叩き

 「それは知りたくない情報でしたな。」

 と、静かに呟いた。



ここまで読んでいただき、有難うございます。

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