465.アベル君と人のボス。
465.アベル君と人のボス。
「人のボスって、王太子であることを指して言っているの?」
「そうです。いずれ頂点に立つ人です。」
ローズは何事も無いように告げる。
「じゃあさ、ローズにはオスカーが僕より魅力的に見える?」
「それとこれは別です。私はアベル様に忠誠を誓い、女であることを誓いました。それは決して破られるようなことはありません。」
ごく真面目な顔でローズは答えた。
「うん、それを聞いて僕も安心したよ。」
マジでホッとした。
オスカーが良いって言われたら、オスカーを燃やすところだったよ。
骨も残さずね。
「それにアベル様もヴァレンティアに帰ればボスではありませんか。ミー姉ちゃんが妾に入ろうとしていたでしょう?」
「そうだった。あいつ虎視眈々と狙っていたんだもんな。今は良い妻だけど。」
俺は十年前に、ここセイナリアに観光に来ていた頃を思い出した。
「そういうことです。」
そう言って、ローズは少し得意げにうなずいた。
「では、ライラ先生は私の王太子という位に惹かれているのだな?」
「もちろんそれだけではございません。ライラ先生ではありませんので、彼女の胸中を知る由もございませんが、殿下の人となりにも惹かれる部分があったのだと思います。やはり、人間的な魅力に欠けるようでは惹かれようがありませんから。」
「なるほど、少し気持ちが楽になった。王になるだけではないのだな。」
「はい、私はそう思います。そして激しく殿下を求めているのも、強大な者の子を成す、その無意識の感情がもたらしていると考えます。猫の血の人はそういう人が多いようです。あとは発情がまだ残っているのか、それが蘇ったか。大昔の獣人は、発情期があったと言われています。それが人間やその他の種族と過ごし交わることで薄れ、無くなったのだと言われていますが、そこには個人差が勿論あります。いずれにしても子を成したい衝動には変わりありませんが。」
「まあ、身体を壊しても元も子もないから、よく話をすることだな。一晩三回に抑えるとか。」
俺がそう言うと、背中を突かれたが気にしない。
「そうだな、毎日徹夜ではさすがに応えた。もし今日彼女が訪れるようなら、良くそこの摺り合わせをしておこう。」
「そうだな、大事な摺り合わせだ。大事なところじゃなくてな。」
そう言って気が付いた。
俺オッサンだな。
俺の背中を盛大に突かれる。
「アベルが父上と気が合うのが良く分かるよ。」
オスカーが顔を伏せて言った。
「その陛下にもちゃんと自分の口から報告しろよ。たぶん心配しておいでだろうからな。」
「そうだな、そうであろう。」
オスカーはなおも顔を伏せたまま、呟くようにして言った。
「コンコン。」
そんなタイミングで、豪華なドアにノックが鳴った。
ジェームズさんが部屋の入口へと向かう。
俺たちはダイニングでそのまま酒を嗜みながら状況をうかがった。
「ライラ先生がお出でです。」
ジェームズさんが報告に来たので、
「では僕らはそろそろ帰ろうか。」
そう言って俺は席を立とうとした。
「いや待て!待ってくれぬか!」
「お前なぁ。流石に二人の間には入れんよ。ローズ、行くぞ。」
「はい、アベル様。」
「それではお暇させて頂く。いい酒をごちそうになりました。ではまた。」
そう言って俺はダイニングから出ようとした。
しかし、この部屋のホストは悔しげに唇を噛み、こちらをチラリとも見なかった。
そこまで居て欲しかったのか?
甘えんのもいい加減にしろ。
俺も真っ直ぐ部屋を出ようとしたら、ムッとするフェロモンに包まれた気がした。
「あら、アベル・ヴァレンタイン、来ていたのね。」
そこには色気ムンムン(死語)のライラ女史が立っていた。
「ええ、帰りますよ。お邪魔になりそうだし。」
俺がそう言うと、
「あら、知っているのね。まあ、遅かれ早かれですものね。で、そちらのメイドは?」
「僕の妻です。」
「へぇ。あなた奥様にメイドの格好をさせているの?」
「いえ、メイドであり妻なのです。そこに深い意味はありません。ローズ、この方がライラ先生だ。」
「ヴァレンタイン家でメイドをやっております、ローズと申します。アベル様がいつもお世話になっているようで。」
そう言って、カーテシーでローズはライラ女史に挨拶をした。
「あら、可憐な奥様ね。ライラよ。知っているようですけど、教師をやっています。よろしくね。」
そう言ってライラ女史は口角を上げた。
「では僕らはこれで、ローズ、行こう。ジェームズさん、お世話になりました。」
俺はライラ女史とジェームズさんに会釈をし、豪華なドアをくぐった。
それからしばし自分の部屋の方向へ歩き、
「ふう。」
と、深いため息を吐いた。
「如何なさいました?お疲れになりましたか?」
そんな俺の様子をうかがいながら、ローズが聞いてくる。
「まあね。めったにない話だったし。ローズもお疲れ様。疲れただろ?」
「ええ、少し。このようなお話を他人と、しかも雲の上の方とするとは二十年生きてきて思ってもみませんでした。」
「だよなぁ。苦労掛けるね。」
「いいえ、あなたがする苦労と比べれば、私の苦労など。」
そう言うと、二人とも少し笑った。
「そう言えば、ライラ先生の印象はどうだった?」
「大型肉食獣ですね。ミー姉ちゃんとは格が違いました。」
「まあ、貴族の息女だしね。そこらへんは雰囲気違うのかもな。」
そこで俺はふと気が付いた。
「あ、そうだ。摺り合わせしなきゃ。」
「摺り合わせ?」
「うん、僕らも一晩最高三回で。」
ドスン、と背中を殴られた俺は気にしないことにするのだった。
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