446.アベル君と二人の仲。
446.アベル君と二人の仲。
現時刻、夕の鐘、六つ。
現代日本で言えば六時。
俺は寄宿舎のリビングに居た。
昨日、結局社交から抜け出した王がやって来て、俺の部屋でみんなで飲んだのだ。
オリビィは飲まなかったけどね。
その後、鬼の形相の王妃がやって来たのは仕方ないことだ。
主賓が抜け出し子供らと酒盛りやってんだもん、そりゃ王妃は怒るよ。
で、現状だが、俺はローズが座るソファの前で正座をしていた。
それは何故か?
「その場のノリで、ご婚約を決めていらっしゃったということですか。」
ローズの冷たい声がリビングに響く。
「ノリではなく、僕とオスカーの噂を食い止めるにはそれしか考えられなかった、と、言った方が正しいかな。」
「でも、よく考えもせずに、その場で決めておしまいになったのでしょう?」
「はい、そのとおりです。」
俺は上げた頭を下げるしかなかった。
「それで、王族の方々の反応は如何だったのです?」
俺はまた顔を上げ
「両陛下とも既定路線のような顔はなさっていたよ。オスカーはどうでもいいという感じかな。オリビィはローズも知ってのとおり、僕とは結婚したがっていたからね。喜んでいたよ。」
「では、反対の声は無かったのですね。」
「無かったね。」
「ではご領主様方へのご報告は如何するのです?」
「爺ちゃんに手紙を預かってもらうさ。もう帰るからね。」
「そうですね、ご隠居様に託すなら間違いはありませんね。いつまでその姿でいらっしゃるんです?」
「ローズの怒りが収まるまで。」
「怒ってなどおりませんよ。ただ、あまりに大きなことだったので心配になったのです。」
「そうだね、戻ってローズに話すべきだった。」
「でももう決まったことですし、そのうち正式な御触れも出るのでしょう?」
「うん、そうだね。」
「では、二人の時間をもっと大切にしてくださいね。」
「そりゃもう。」
俺はちょっとしびれた足を我慢しながら立ち上がり、ソファに座ったローズの手を取り引っ張って立ち上がらせ、背中に手を回し抱き寄せた。
「僕たちの関係はしばらくこのままだ。急激な変化はオリビィの成人以降になる。魔法か騎士、どちらかの学校に入って、更に社交界へ入ってからだろうな。」
俺はローズの耳元で呟く。
「そうですね。でも大丈夫です。アベル様が居なくならない限り、私はそばに居りますから。」
俺が居なくならない限りね。
一番約束しなければならない、一番あやふやな問題だ。
俺も命を狙われ易くなるだろうからな。
そんな甘く重い時間は不意に壊される。
「コン、コン」
と、ノックの音が鳴った。
絡んだ俺の腕をほどき、身支度を整えてからローズがドアに向かった。
ドアを開ける前に、
「はい、どちら様でいらっしゃいますか?」
そうローズはドアの向こうへ聞いた。
「近衛の者です。王太子殿下がお出かけになりますので、アベル様へ護衛の任務に就いて頂きたく参りました。」
「はーい。ちょっと待ってね。ローズお入り頂いて。」
ローズはドアを開け、近衛騎士を確認してから
「お待たせして申し訳ございません、主人が支度をするまで少々お待ちください。ではこちらへ。」
そう言って、近衛騎士をリビングへ招き入れる。
「申し訳ない、革鎧だけ着る時間を頂けるかい?」
俺がそう言うと、
「畏まりました。王太子殿下も時間が必要だろうと仰っていらっしゃいましたので、大丈夫かと思われます。」
へぇ、オスカーがそんな気遣いをね。
「ああ、そう。でもあまりゆっくりはできないだろうね。」
俺はそんな会話をしながら、革鎧をテキパキと身体に身に着ける。
冒険者の頃から身に着けていた物だ、着るのは慣れている。
そして、俺は黒い鞘に納められた黒い剣をベルトに付け自室から出た。
「お待たせしました。」
俺はリビングで茶を啜っていた近衛騎士に声を掛けた。
そんな俺をその近衛騎士は一瞥し、
「流石、一閃の剣の御子息。様になっていらっしゃいますね。」
などと言うから
「おだてたってなにも出ませんよ。では、行きましょう。」
俺はそう言って、笑顔を騎士に向ける。
「それでは気を付けて行ってらっしゃいませ。」
ローズは最敬礼で送り出し、頭の下がり切ったローズに、
「うん、無事に帰って来るよ。行ってきます。愛しているよ。」
俺はそう言ってドアを閉めるのだった。
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