31.アベルくんとエルフの婆ちゃん。
31.アベルくんとエルフの婆ちゃん。
公営娼館だからね。
責任者の楼閣主の婆ちゃんは城へ財務決済やら報告書を持ってやってくるわけだ。
時間が合ったりするとヴァレンタイン家族一同と談笑したりする。
市井のいろんなことを知っている楼閣主の婆ちゃんの話は面白いからね。
その楼閣主の婆ちゃんは、初めて俺を見るなり「ふ~ん」と言いながら俺をまじまじと眺め
「この子がアベル坊っちゃんかい?」
と、アリアンナ母さんに聞いた。
「そうですよ。とても可愛いでしょう。」
と、親バカのアリアンナ母さんが答えた。
それを聞いた楼閣主の婆ちゃんは、「うん」と頷き
「アベル坊っちゃん、成人したら、あちきが筆おろししてやるよ。」
と、恐ろしい宣言を家族と使用人たちの前で俺にした。
アリアンナ母さんはギョッとした顔をして驚きを隠せず、ロッティーとローズは激高し、ギャーギャー騒いでいた。
しかしお前ら、8歳なのに「筆おろし」なんて単語知ってんのか?
なんというか、女の子は耳年増だなぁ。
もっと驚いたのが、その会話を聞いたエドワード爺ちゃんがいきなり
「わしのことは相手にしてくれなかったのに…」
と、呟いた事だ。
家族全員、周りのメイドやヨハンまでハッ!とした顔をして一斉に固まった。
楼閣主の婆ちゃんだけは悪びれないで笑っていたよ。
エドワード爺ちゃんによくよく聞いたところによると、どうも初恋の相手だったらしい。
当時、既に一線を退き、娼館の【主】となっていた婆ちゃんに、若かったエドワード爺ちゃんは、娼館に足しげく通っては思いの丈をぶつけていたらしい。
領主の子息を無碍にすることはできないので、爺ちゃんが来るたび婆ちゃんの執務室にあげて話くらいは聞いていたが、結局はこっぴどく振ったんだそうだ。
これに傷心した爺ちゃんは、無心で(ホントか?)剣に打ち込むようになり、騎士学校で頭角を現すと、全国武芸大会で連戦連勝。
気が付けば近衛騎士団の一員になっていたそうだ。
爺ちゃんのそのような話は聞きとうなかった。
ヨハンに気づいてなかったの?と聞いたところ、「多少は。ただ、人間種の思春期は奇妙な言動を発する場合が多いですから、温かく見守っておりました。」などと言っておった。
こ奴め、さては爺ちゃんのことを眺めて面白がっていたな。
婆ちゃんは俺の方を見つめながら「この子の器は辺境伯では到底収まらん、と言うのがあちきの見立てさ。良いにしろ悪いにしろ、成人過ぎたら突拍子もない事をしそうだね。この子と交われば、冗談じゃなくあたしの寿命があと300年は伸びるだろうさ。わぁはっはっは。」だと。
なんだかなぁ、俺を寿命が延びる上級エリクサーの様に言わないでほしい。
みんな勝手にワイワイ騒いでいたが、筆おろしの件についてはどうでも良いかな。
俺も精神的には経験済みの37歳だからね。プロのお姉様方は慣れてんだ。
それにキャリアから考えて、婆ちゃんはさぞかしお上手なんだろ。
いっそのこと思いっきり楽しんでみるのも一興だ。
しかし、新品のこの身体をそんなことで使っていいのかって問題はあるな。
とは言っても思春期の少年は性欲の権化だからね。
いろんなモノを持て余して娼館に行ったら、楼閣主の婆ちゃんにリアルで手玉に取られるだろうなぁ。
草。
婆ちゃんなんて呼んではいるけど、見た目は20代の妖艶な美女だからね。
たまんねぇだろうなぁ。
しかしさ、この手の経験は出来るだけ早いほうがいいと思うよ。
女性に対しての、理想や恐怖が多少は薄れるから。
コンプレックスや極度の理想を抱えて生きて行くより、早めに片付けたほうが少しは健全だと思う。
マジで。
おっと、まだ3歳児の俺が言う言葉じゃないな。
これがこらえ性が無くなって、ローズとかアンネローゼに手を出したなんて言ったらそれこそ面倒くさいことになると思うんだよね。
責任問題とかさ。
どちらも貴族じゃないし、結婚なんてできないよね。
俺は前世の記憶から一夫一婦制が頭に染み着いているし、側室とか妾とか言われてもね。
それはそれでファンタジーっぽいんだけどさ。
気を使っちゃいそうだしな。
ローズはメイドとして、アンネローゼは乳兄弟としてってスタンスは崩さないほうがいいんだろう。
お互いのためだ。
あっ、大事なことを忘れてた。
こいつ等に好かれる未来が来るとは限らんのよね。
テヘ。
それに俺はどうせ政略結婚させられると思うわけよ。
ローランド父さんとアリアンナ母さんは、冒険者の時に知り合って恋愛結婚だったんだけど、両家共に貴族で辺境伯と侯爵のご子息とご息女だったから身分も釣り合ったんだよね。
しかし、上級貴族の子供たちが15歳と12歳で冒険者になるために出奔ってどういうことだよ。
よく爺ちゃん達は許したよな。
ホント、ズルいよなぁ。
まあ、おそらくこのまま俺がおとなしく育っていけば、政略結婚は不回避ってことなんだろう。
俺も冒険者になるために、出奔するか。
なんてな。
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