2.田中さん生まれる。
2.田中さん生まれる。
田中さんは意識が戻ると、呼吸をしていないことに気が付いた。
そして同時に、全身に押しつぶされるような強烈な痛みが走った。
彼は何とか息をしようと試みるが、まるで肺がぺしゃんこになったかのようで呼吸はまったくできない。
全身で足掻いてみようとしても、狭い空間に両手両足を抱え込んだまま身動きひとつできずにいた。
圧迫感と息苦しさが、彼の体験をさらに苛烈なものにしていた。
そんな中、田中さんは徐々に自分の身体が押し出される感覚を覚えた。
頭から身体に向かって強烈に締め上げていく感覚と、頭の形状が変わるのではないかと思うほどの痛み。
それでもジワリ、ジワリと、少しずつ外に向かう感覚。
その永遠に続くのかと思われた苦しみが突然、スルッと頭が狭い出口を抜けた途端、身体まですり抜け強烈な解放感が彼を包み込んだ。
完全に閉塞感が和らぎ身体の自由が戻るにつれて、体中を締め付けていた痛みも消えていく。
まるで長いトンネルを通り抜けたかの様に。
そして、彼の肺が解放され大きく膨らむ感覚が田中さんを襲った。
鮮烈な新しい空気が急激に肺に満ちていくと、彼は初めて深い呼吸をすることができた。
新鮮な空気で呼吸が戻り始めるとともに、田中さんの意識も徐々に鮮明になり自分の身体の変化を感じ取れるようになった。
その瞬間、彼の口から漏れたのは、耳をつんざくような泣き声だった。
瞼は開くが視界はぼんやりと霞んでいて何も見えない。
光や色彩は感じるものの目の前には霧のようなものが広がっており、視界が戻るには時間がかかることを感じ取った。
手足もまた思うように動かすことができない。指や足のつま先は小さく縮こまり、どうにか動かそうと試みても、まるで自分の意志とは無関係に動いているように感じられた。
拘束されているわけでもないのに、無力感に包まれ自由が奪われたかのようだった。
身体の不自由さと視界の霞みが重なり田中さんの恐怖が募る中、常に新生児の泣き声が耳に響いていた。
自分の口から漏れ出ているその泣き声に驚きながら徐々に思考を取り戻す中、彼は何が起こっているのかを理解しようと必死になった。
「俺ってば生まれ変わっちゃった!?」田中さんは心の中で叫んだ。
周囲の不明瞭な光景と新生児の泣き声が交錯する中で、田中さんは転生という現実に直面し、混乱と驚きが入り混じる中でその事実を受け入れようとしていた。
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