18.アベルくんと山賊退治。
18.アベルくんと山賊退治。
あー、よう寝た。寝てくれたってもんだぜ。
はいはい、わかってる、わかってる。
俺の人生を賭けた大一番が、今このぷにぷにしてるクビレの出来た足に掛かっているわけです。
そんな時によく寝てられますね。俺。
もうね、マリアさんの授乳と寝かしつけには勝てんのよ。
そのつもりでマリアさんを呼んだんだからさ。
ジタバタしても仕方ないでしょ。
んなこと言っていないで、いっちょ確認しますか。
ドラムロールが頭の中で鳴るぜ。
よっしっやぁぁ!!!
はぁ、勝ったよ、俺は勝った。
バッチリ両足に魔素が残っている!
胸中は大騒ぎだが、俺は叫ぶような気合もなく、極度の安心感で気が抜けた。
あれ、お漏らしまでしちゃったよ。
まあ、寝起きだしね。
仕方ないね。
でもこりゃ、さすがに気持ち悪い。
マリアさんを呼んじゃお。
よし、いっちょ泣いとくか。
などと俺が泣いてしまう前に
「アベル様、アンネローゼ、もう起きていますか?」
優しく声をかけながらマリアさんが来てくれた。
なんとも良く気が利く人だ。
いつもありがたいよ。
力いっぱい泣くのも、結構疲れるんだ。
彼女は俺のおむつを確認すると、さっさと外して使用済みのカゴへ放り込み、ローズが持ってきた洗濯済みの清潔なおむつに取り替える。
その都度局部を確認されるのは、羞恥心を刺激される訳だがそんなこと言っていられない。
みんな持っているものを見られるだけだ。
うん、男はみんな持ってる。
その間に、魔素の吸入をしておく。
今は大腿部程度まで溜まっている。
順調に溜まっているな。
果たしてこのまま溜めていって不都合は出ないのかな?
昨日のような恐怖はもう願い下げなんだが、ここまで来ちまったもんは、後戻りはできないな。
マリアさんはアンネローゼのおむつを取り替えると、汚れ物のかごを抱えて子供部屋から出て行った。
その後すぐに、エドワード爺ちゃんを含む家族全員が入ってきた。
どうした?なんだこれ?
「これからお爺様と僕は山賊の討伐に行ってくる。留守番お願いするね。」
いきなりローランド父さんがロッティーに向かって話しかけた。
「なぜ父様が討伐に行くの?騎士団だけでいいのではなくて?」
ロッティー至極まっとうなことを聴く。
領主が行かなくてもいいよね。
まあ、そう考えるよね、普通。
「昨日、商業ギルドと冒険者ギルドのそれぞれのギルド長が来ていただろ?今回の山賊たちは、首都セイナリアへ向かう唯一の街道、フェルダン街道のドラゲン峠に集団で潜伏しているんだ。もう冒険者の護衛が付いている商隊が何度も襲われて、もうかなりの被害に遭っている。」
ほう、そりゃ大変。
商隊も、冒険者も被害甚大となれば、そりゃギルド長は動くよな。
犯罪対策なら、領主の仕事だし。
「規模的に今迄で一番大きい。このままじゃ、魔石の流通や食物の流通、人の流れまでが止まってしまう。だから騎士団だけじゃなく、冒険者も率いて大群で徹底的に山賊を叩かなきゃならないんだよ。」
なるほどね。
ほぼ戦に近いって認識なのかもしれないな。
だからこそ領主が陣頭に立つってことか。
「廃業したとはいえ僕はA級冒険者だ。だから冒険者たちを率いるのは僕、騎士団はお爺様に率いてもらうのさ。わかったかい、シャーロット。」
しゃがみ込み、ロッティーの目線に合わせたローランド父さんが真剣な面持ちでロッティーに事の重要性を説明した。
うへぇ、対人戦かよ。
やっぱりあるんだな。
俺も大人になって領主なんかになれば、こんな仕事を請け負わなきゃならんのだろう?
領主ってのも大変だよな。
まぁ、ローランド父さんたちが戦闘好きって側面も無きにしも非ず、か。
「どうしても行かなければならないようですね。ならば仕方ありません、わかりました。でもお爺様は、お体大丈夫なのですか?だいぶ咳をしているようですが?」
今度はエドワード爺ちゃんを見据えながら言うロッティー。
聞き分けの良いだけじゃなく、爺ちゃんの身体の心配までするとは。
良い子や。
「おや、シャーロットはわしのことまで心配してくれるのか。優しい子だのう。どれ口を開けてみい。」
エドワード爺ちゃんがそういうと、言われるがままに口を開けるロッティー。
その口の中に、ポイっと飴玉を放り込んだ、エドワード爺ちゃんはニヤリと笑っている。
あからさまにビックリした顔をしているが、しっかり飴は舐めているロッティーが
「お爺様、いきなりはビックリします。」とモゴモゴ言いながら抗議する。
「スマン、スマン。あまりに可愛く口を開けてるでな、ついじゃ、つい。」
ニコニコしているエドワード爺ちゃんが軽く謝罪した。
相変わらず愉快な爺ちゃんだ。
ほんとに領主だったのか?家督を譲って余生を楽しみ過ぎだろう。
「ではすぐ支度をして行かなければならない。アリアンナ、シャーロット達をよろしく頼む。」
ローランド父さんはそう言うと、アリアンナ母さんを抱き寄せキスをする。
はいはい、もう見慣れた光景だ。好きにやってろ、チクショウメー。
そしてベビーベッドに近付き
「おチビさん、男なんだから、お母さんとシャーロットを頼んだよ。」
そう言って父さんは俺の頭を軽くなでた。
まあできることがあったらやりますけど。
でも、新生児に何頼んでんだ?オメー。
しかし、フラグは立てなかったな。偉い、偉い。
「親父、行こうか。」
ローランド父さんが言うと
「おう」
と、答えるエドワード爺ちゃん。
そして扉から出て行く二つの背中に、「お気を付けて。」と言う、女性二人の言葉が子供部屋に響いた。
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