【第二章】第三部分
「いったい、どこに行くのよ。」
「すぐ近くだけど、果てしなく遠い場所さ。」
道路の向かい側に歩みを進める美散。東大寺南大門のような門をくぐると、その先には金閣寺を十階建てにしたようなビルが仁王立ちしていた。
「これが校舎と定義できるの?豪華絢爛な迎賓館と表現する方が正しいわよ。」
「生徒会は検査部だけでなく、人事部を掌握してるからなあ。銀行員にとって、人事部は最高権力の集中した花形の部活だからねえ。」
「人事部って、人材を採用したり、給与の手続きなどを行う部活じゃない。そんな裏方さんのような仕事に、どうして権力が集中するのよ?」
「銀行員にとって、銀行の業績よりも自分の処遇の方が大切なんだよ。どんなに魔力マネーを集めたり、貸出した魔力マネーを回収したりしても、それが自分の処遇に反映されないと意味がないんだ。萌江田先生もこれまで頑張って、教師ランクをCまで上げて来たんだよ。それはすべて人事部が決定してきたことなんだから。」
「人事部って、全然部活らしくないわね。」
「そうだね。そういう仕事なんだから仕方ないさ。魔力マネーを稼ぐ部活でないから、部員はどこまで部活すべきかわからず、働き過ぎでかなり疲れているとのウワサもあるんだよ。」
そんな会話をしながら、校舎に入るふたり。いちおう銀行員であることから、入館には支障なかった。
十階のエレベーターに乗って、生徒会室の前に立ったふたり。
「あっけなくこれまで来れたわね。」
「わたしも初めてやって来て、てっきり、黒サングラスと入室バトルがあるだろうと踏んでいたんだけど、拍子抜けだね。」
漆黒の両開きドアが内側から自動的に開かれた。
二列に並んだ黒サングラスがレンズに隠した瞳で威圧する。
部屋の奥にデンと構える、ことさらにデカい黄金色の机。ご丁寧に純金製と表示してある。その机には、金髪ロングドリルのお嬢様が斜に構えて座っている。
「成金女みたいだわ!」
「しっ、声が大きいよ!たしかにここは後発銀行で、学校から銀行を作ったという変わり種だけど。」
「ようこそ、生徒会へ。お招きなどしておりませんけど、このような場所にわざわざ訪れて来られたことに感謝と敬意を表して差し上げますわ。しかし手ぶらでというのは失礼ではありませんか。庶民の慣習は承知しておりませんけど。ホーホホホッ。」
「のっけから悪者オーラ満載だね。そっちがその気ならこっちもクレーマーモードで応じてやるよ。」
臨戦態勢を取る美散だが、すぐに黒サングラスに押さえられてしまう。
「どうして萌江田先生が降格になったんだよ?」
「魔力マネー債権回収義務を怠ったということですわ。」