第十四章 知らなかったこと
ガレスとの再会を終えても、レオンはすぐには戻らなかった。
残り時間。
視界の端。
**再接続終了まで:07時間31分**
現実では。
一時間も経っていない。
こちらでは。
まだ半日近くある。
「どこへ行く?」
ガレスが聞いた。
レオンは窓の外を見る。
中央広場。
自分の像。
「歩く」
「案内を付けよう」
「いらない」
「だが」
「一人で見たい」
ガレスは少し黙った。
「そうか」
昔なら。
心配だから付いていく。
そう言ったかもしれない。
今は。
評議院議長。
二十三年。
人を動かす側。
「夕方までには戻る」
「分かった」
レオンは扉へ向かう。
「レオン」
振り返る。
ガレス。
何か言いたそう。
「何?」
「……いや」
言わない。
「気をつけろ」
「レベル八十一だぞ」
「そういう意味じゃない」
レオンは。
少し笑った。
「分かってる」
---
王都。
歩く。
今度は。
意識して。
見る。
最初。
豊かになったと思った。
それは。
間違っていない。
道路。
整備。
上下水道。
魔導灯。
公共交通用の魔導車。
学校。
病院。
市場。
二十三年前より。
明らかに。
生活水準は高い。
南区。
昔の貧民街。
ない。
建物。
新しい。
子供。
靴を履いている。
食堂。
安い。
職業平等法。
物理職運動。
成果。
ある。
確かに。
「全部悪くなったわけじゃない」
レオンは呟く。
むしろ。
良くなったこと。
多い。
だから。
分かりにくい。
通り。
学校。
門。
子供たち。
制服。
剣。
槍。
杖。
一緒。
「普通じゃん」
少し。
安心。
校庭。
遊んでいる。
剣を持った少年。
杖を持った少女。
追いかけっこ。
第十章。
式典の日。
同じ光景を見た。
**これでいい。**
そう思った。
今も。
そう思いたい。
少年たち。
木剣。
戦いごっこ。
「俺、レオン!」
一人。
剣。
掲げる。
「じゃあ俺ガレス!」
「俺ロルフ!」
笑い。
杖の少年が近づく。
「俺も入れて」
剣の少年。
見る。
「お前、魔法職だろ」
「うん」
「魔法弱いじゃん」
「でも攻撃できる」
「いらない」
「何で」
「物理だけでいいから」
別の子。
笑う。
「魔法職は後ろで見てろよ」
「やだ」
「じゃあ敵役」
「何で?」
「昔の悪い魔術師」
笑い。
レオン。
足。
止まる。
先生。
少し離れた場所。
見ている。
注意。
しない。
子供の遊び。
それだけ。
なのか。
杖の少年。
少し。
下を向く。
「違うだろ」
声。
出た。
子供たち。
見る。
一人。
レオンの顔。
気づく。
「……レオン?」
一斉。
騒ぐ。
「本物!?」
「始祖!」
「すげえ!」
杖の少年も。
見る。
レオンは。
何を言えばいい。
「魔法職も入れろよ」
剣の少年。
困る。
「でも」
「でも?」
「弱いから」
悪意。
ない。
本当に。
そう思っている。
ゲームなら。
正しい。
魔法職。
弱い。
現環境。
物理。
最強。
「弱かったら、一緒に遊んじゃ駄目なの?」
少年。
答えない。
先生が走ってくる。
「レオン殿!」
大騒ぎ。
また。
人。
集まる。
レオンは逃げた。
---
魔法職居住区。
地図には。
そう書いていない。
正式名称。
東部再開発区。
でも。
人は。
そう呼んでいた。
中央区から。
遠い。
家賃。
安い。
古い建物。
昔の南区ほど。
酷くはない。
ただ。
差。
ある。
ローブ。
多い。
杖。
多い。
求人紹介所。
掲示板。
**魔術品整備**
**治療補助**
**教育助手**
魔法職向け。
仕事。
ある。
でも。
賃金。
中央区より。
低い。
「完全に排除されてるわけじゃない」
だから。
余計に。
現実的。
露骨な奴隷制。
ではない。
法律上。
平等。
選挙権。
ある。
学校。
行ける。
職業。
選べる。
でも。
生まれた職。
能力。
評価。
社会。
積み重なる。
二十三年前。
物理職がいた場所。
少しずつ。
魔法職が。
近づいている。
食堂。
レオンは入る。
誰も。
気づかないように。
フード。
被る。
隣。
二人の若い魔術師。
話。
「軍?」
「落ちた」
「実技?」
「実技」
「仕方ないな」
「剣士に勝てるわけないだろ」
笑う。
諦め。
軽い。
「親父が言ってたよ。昔は魔術師なら軍に入れたって」
「昔の話」
「生まれる時代間違えた」
「でも魔術師も悪いことしたらしいし」
「俺ら関係ないけどな」
「まあな」
それだけ。
レオン。
食事。
味。
しない。
二十三年前。
ロルフ。
父。
自分。
同じことを。
言っていたかもしれない。
**俺たち関係ないのに。**
---
セレスティア。
探す。
評議院。
記録局。
図書館。
魔術院。
今は。
王立魔術技術研究所。
受付。
「セレスティア・アルヴェーン」
若い職員。
知らない。
古い記録。
検索。
出る。
**セレスティア・アルヴェーン**
魔術院上級研究員。
職業平等法制定協力者。
共同教育制度提言。
旧魔術院改革委員。
その後。
記録。
増える。
**物理職優先教育枠の恒久化に反対。**
**王国軍職業補正制度に反対。**
**旧魔術院資産の一括接収に反対。**
**職業別居住政策に反対。**
「ずっと反対してる」
レオン。
少し。
笑う。
第十一章。
**違うこと言い続けて。**
セレスティア。
**それなら得意よ。**
本当に。
やっていた。
さらに。
記録。
十五年前。
**アルヴェーン家資産接収。**
**旧魔術院改革妨害に関する調査。**
**セレスティア・アルヴェーン、王都退去。**
理由。
**地方魔術教育施設への自主転任。**
自主。
ガレス。
**事実上は、そう見えたかもしれない。**
その後。
地方。
五年間。
教育。
さらに。
記録。
途切れる。
死亡。
ない。
生存。
ない。
「どこ行ったんだよ」
検索。
ない。
エリス。
西。
一日。
会えない。
ロルフ。
死んだ。
セレスティア。
不明。
二十三年。
長い。
自分だけ。
置いていかれた。
---
図書館。
歴史書。
**物理解放史**
読む。
自分。
登場。
北部迷宮。
演説。
連盟。
職業平等法。
その後。
物理職運動。
急進派。
穏健派。
対立。
知らない名前。
事件。
魔術院襲撃。
第十章。
あれ。
最初ではなかった。
その後。
何度も。
報復。
魔法職側。
抵抗。
物理職側。
さらに。
暴動。
死者。
「こんな」
知らない。
ガレス。
何をした。
読む。
急進派。
魔法職の公職追放を要求。
ガレス。
反対。
物理職以外の土地所有禁止案。
ガレス。
反対。
魔術院完全解体案。
ガレス。
反対。
「……止めてる」
何度も。
止めている。
でも。
別。
物理職教育優先枠。
賛成。
軍採用補正。
賛成。
旧魔術院資産再配分。
賛成。
魔法職への危険魔術品規制。
賛成。
一つずつ。
理由。
ある。
教育格差。
軍内部の旧魔術閥。
土地集中。
テロ対策。
その時点。
合理的。
全部。
積み上がる。
今。
レオンが見た社会。
「馬鹿じゃん」
誰に。
自分。
ガレス。
社会。
分からない。
ゲーム。
自分は未来を知っていた。
そう思っていた。
物理職。
強くなる。
通常攻撃。
最強。
装備。
最適解。
敵。
行動パターン。
全部。
知っていた。
だから。
この世界でも。
自分は知っている側。
他の人。
知らない側。
そう思っていた。
でも。
攻略サイトには。
書いていなかった。
力を得た人間が。
何をするか。
差別された人間が。
力を持ったとき。
恨みを。
どう扱うか。
制度を変えたあと。
次の世代が。
その制度を。
どう受け取るか。
正しい政策が。
二十年後。
何になるか。
書いていなかった。
当たり前。
ゲームには。
必要ない。
「俺」
レオン。
小さく。
「何も知らなかったじゃん」
---
夕方。
ガレス。
評議院。
戻る。
部屋。
「見たか」
ガレス。
聞く。
「見た」
「どうだった」
「最悪」
ガレス。
苦笑。
「そうか」
「怒らないの?」
「何に」
「俺が、お前らが作った社会最悪って言ってる」
「お前にはそう見えたんだろ」
「ガレスには?」
「良くなった」
即答。
でも。
続く。
「悪くなったところもある」
レオンは。
少し。
驚く。
「認めるの?」
「俺を何だと思ってる」
「……独裁者」
ガレスが吹き出す。
「俺は選挙で三回落ちてる」
「そうなの?」
「知らないだろ」
「知らない」
「お前は何も知らない」
痛い。
でも。
その通り。
ガレス。
椅子。
座る。
「昔より良くなった人間は大勢いる」
「うん」
「物理職の子供が学校へ行ける」
「うん」
「危険な仕事で死ぬしかなかった奴が、別の仕事を選べる」
「うん」
「それは間違いだったか?」
「違う」
「俺もそう思う」
沈黙。
「でも」
レオン。
「魔法職の子供は?」
ガレス。
窓。
見る。
「そこは」
長い。
「直さなきゃ駄目だな」
レオン。
何も言えない。
「もっと早く言えよ」
「言ってる」
「俺に」
「二十三年いなかった奴にどうやって言う」
「それは」
ガレス。
笑う。
少し。
昔。
戻る。
「俺だって全部正しいとは思っていない」
「でも続けてる」
「今日決めたことが、明日どうなるか分からない」
ガレス。
机。
大量の書類。
「二十三年だぞ」
同じ言葉。
今度。
違って聞こえる。
「毎日何かを決めた」
教育。
軍。
土地。
税。
治安。
暴動。
「その時は正しいと思った」
「うん」
「間違ったこともある」
「うん」
「戻したものもある」
「うん」
「戻せなかったものもある」
レオン。
像。
思い出す。
「俺の像」
「あれか」
「壊して」
「嫌だ」
「何で」
「観光資源だ」
「マジで?」
「半分」
「半分は?」
ガレス。
レオンを見る。
「必要だった」
「何に」
「象徴が」
「俺じゃなくていいだろ」
「お前だったんだよ」
ガレス。
静か。
「俺たちが初めて、自分たちは弱くないと思えた瞬間が」
北部迷宮。
歓声。
泣いている男。
**俺たちは弱くない。**
レオン。
嬉しかった。
「それまで否定するな」
ガレス。
「今が間違ってるからって、あの日まで間違いだったことにするな」
レオンは。
返せない。
正しい。
あの日。
意味。
あった。
物理職。
救われた。
自分も。
救われた。
「難しいな」
「今さら気づいたか」
「ゲームならもっと簡単だった」
「またゲームって言ったな」
「あ」
ガレスが笑う。
「最後まで教えないんだな」
レオン。
考える。
残り。
**01時間26分**
もう。
いいか。
でも。
世界の正体。
言って。
何になる。
ガレスの人生。
AI。
仮想。
そう言う。
自分に。
権利。
ある?
「ごめん」
「いい」
ガレスは。
それ以上。
聞かない。
「セレスティアの記録見た」
ガレスの顔。
少し。
硬くなる。
「そうか」
「追い出した?」
「俺が?」
「うん」
「反対した」
レオン。
見る。
「彼女を王都から出す案には反対した」
「じゃあ何で」
「止められなかった」
ガレス。
声。
低い。
「俺が何でも決めていたわけじゃない」
「知ってる」
「当時は、魔術院への反発が一番強かった時期だ」
「セレスティアは平等法に協力したのに」
「関係なかった」
「おかしいだろ」
「おかしかった」
即答。
「後で調査をやり直した。処分も撤回した」
「戻った?」
「戻らなかった」
「何で」
「知らん」
ガレス。
少し。
笑う。
悲しい。
「俺に愛想尽かしたんじゃないか」
「ありそう」
「お前」
二人。
少し。
笑う。
それから。
ガレス。
「お前がいたら」
「何?」
「違ったかもしれない」
レオンは首を振る。
「俺、政治分からないよ」
「知ってる」
「俺がいたら余計悪くなったかも」
「それもある」
「ひどい」
「でも」
ガレス。
「止めてくれたこともあったかもしれない」
第十一章。
セレスティアへ。
**何かおかしくなったら止めて。**
自分は。
いなかった。
「悪い」
「謝るな」
「でも」
「俺たちが決めた」
ガレス。
強く。
「お前が始めた部分はある」
レオン。
見る。
「でも、二十三年全部がお前の責任なわけがない」
「うん」
「俺たちは俺たちで選んだ」
「うん」
「だから」
ガレス。
「全部背負うな」
胸。
少し。
痛い。
昔。
何でも。
自分の失敗。
自分が悪い。
そう考えた。
今度。
世界。
自分が変えた。
悪くなった。
全部。
自分。
違う。
でも。
何も関係ない。
でもない。
「どのくらい?」
レオンが聞く。
「何が」
「俺の責任」
ガレスが笑う。
「知らん」
「適当」
「そんなもの、数字にできるか」
「AIならできそう」
「えーあい?」
「あ」
また。
「何なんだ、それ」
「秘密」
「最後まで変な奴だな」
「お互い」
---
時間。
終わる。
場所。
中央広場。
レオン。
ガレス。
像。
見上げる。
「やっぱでかすぎ」
「俺もそう思う」
「お前止めろよ」
「ロルフがもっとでかくしろって」
レオン。
笑う。
「ロルフらしい」
「完成式で泣いてたぞ」
「嘘」
「本当だ」
「見たかった」
「見せたかった」
沈黙。
人。
通る。
レオンに。
気づく。
でも。
評議院の警備。
少し離している。
夕日。
像。
影。
長い。
視界。
**再接続終了まで:00時間03分**
「ガレス」
「何だ」
「次会ったとき」
次。
あるか。
分からない。
「もう少しマシにしといて」
ガレスが笑う。
「努力する」
レオン。
その言葉。
聞く。
記憶。
ロルフ。
最後の日。
**戻ってこいよ。**
**できたら。**
**絶対だ。**
**努力する。**
**そこは絶対って言え。**
レオン。
「そこは絶対って言えよ」
ガレスの目。
大きくなる。
分かった。
ロルフ。
二人。
笑う。
「無理だ」
ガレス。
答える。
世界。
白くなる。
「ガレス」
「何だ!」
声。
遠く。
最後。
何を。
言う。
ありがとう。
違う。
さようなら。
違う。
「またな!」
ガレス。
笑って。
「おう!」
世界。
消える。
---
白い天井。
目。
開く。
アンナ。
「風間さん」
悠斗。
息。
深い。
「戻りました」
「はい」
「二時間?」
「一時間五十八分です」
「向こうは」
言いかける。
やめる。
二十三年。
一日。
二時間。
時間。
何なのか。
分からない。
アンナ。
「気分は?」
悠斗は。
少し考える。
「最悪です」
アンナ。
頷く。
「予想していました」
悠斗は。
その言葉を。
このときは。
深く考えなかった。




