第15話 女傑との邂逅
近づくほどに高潔な気配を強める聖門。
見上げるその門は、一行を見定めるようにこちらを見下ろしている──
聖門をくぐると、白亜の石畳が陽光を跳ね返し、辺りを神秘的に照らしていた。
まるで降り注ぐ神光が訪れる者を浄化するかのように、街路は淡く輝いている。
一行が視線を向けた先──
聖王国の中心へと続く広い街路には、騎士と思しき者たちが整然と立ち並んでいた。
彼らの鎧は青白銀に輝き、胸には聖法紋が刻まれている。
聖導をもって剣と成す──
彼らこそ、エルフェリア聖王国が誇る聖法騎士団。
その姿は、聖なる国を守護する者としての風格を纏い、外来者に対する威圧と高潔さを示していた。
その中央に一際目を引く人物がいる。
冷美な顔立ちでありながら、立ち姿には静かな雄々しさを湛える女性。
その姿は高潔を絵に描いたようで、“女傑”と呼ぶに相応しく、聖王国の聖なる光をその身に宿すかのようだった。
彼女の周囲は自然と空気が張り詰め、屈強な騎士たちでさえ一歩退いて敬意を示している。
「只今帰還致しました。」
ルシアナが一歩進み出て、深く頭を垂れる。
その声には、親愛と確かな誇りが重なり合っていた。
女性は静かに頷き、澄んだ声で答える。
「長旅ご苦労だった、ルシアナ。
──ここからは私が案内しよう。」
そう言うと、彼女はアストとミアに視線を向けた。
鋭く煌めく翡翠の瞳に射抜かれた二人は、思わず息を呑む。
「二人とも、よく来てくれた。
私はリリア・ドゥラド・ルベリオス。
この聖王国で神官長を拝命している。よろしく頼む。」
ミアは思わずアストの背に隠れ、アストは緊張の面持ちで答えた。
「こちらはミア。
……私は、アストと申します。」
二人の様子を見たリリアは口元を緩め、柔らかな笑みを浮かべる。
その微笑みは、先程までの冷美な表情と打って変わり、母性のような優しさを滲ませていた。
「ふふっ。まあ、そう固くなるな。
女版ハンスとでも思ってくれればいい。
私のことは、気軽にリリアと呼んでくれ。」
その意外な笑顔に一瞬固まり、顔を見合わせるアストとミア。
一呼吸置き、二人は声を揃えて返事をした。
「よろしく、お願いします。」
「よろしく、お願いします。」
その瞬間、張り詰めていた空気が少し和らぎ、二人の肩から緊張が抜けていった。
リリアの笑顔は、冷豪な威厳と同居する不思議な温かさを宿していた。
リリアは次に、ハンスへと視線を移した。
「お前は……まあ、挨拶はいらんな。
──ああ、そうだ。一つ忠告しておく。
我が国の酒を飲み干すんじゃないぞ、ハンス。」
帝国軍大将に対して雑な扱いをするリリア。
その態度に、周囲の騎士たちは驚きの色を浮かべた。
ハンスは呆れたような顔で両掌を天に向け、首を傾げ呟いた。
「まったく……女傑殿には敵わんよ。」
さすがの戦神ハンスも彼女には敵わないらしい。
そのやりとりに、ルシアナは思わず口元を押さえ、アストとミアは目を丸くした。
聖王国神官長と帝国軍大将が軽妙に言葉を交わす光景は、緊張と滑稽さが入り混じる不思議な場面だった。
リリアはアストとミアに向き直り、再び、凛々しくも優しい笑みを浮かべる。
「まずは疲れを癒してくれ。
ゆっくり寛げる宿を手配してある。
──詳しい話は、明日の朝にしよう。」
その言葉に従い、聖法騎士団が整然と動き、三人を宿へと案内した。
宿は聖王国の中心部に位置し、騎士団が常に警備を行っており安全が確保されている。
白亜の壁に囲まれた建物は荘厳でありながら温かみを持ち、訪れる者を迎え入れるように設計されていた。
アストとミアは聖王国の眩い光景に圧倒されながらも、心の奥に芽生える不安を拭えずにいた。
彼らに注ぐ聖王国の神聖を抱く眩い光──
その裏には、街路からそっと注がれる恐れと疑心の視線が静かに揺れていた。
住民の様子を察知してか、鋭い眼差しで周囲を見渡すルシアナ。
凛々しいその姿に、ある者は畏敬の念で見惚れ、ある者は畏怖を覚えて視線を落とした。
一方でハンスは、豪快に笑いながらも、どこかリリアの存在に気圧されている様子を隠せなかった。
こうして一行は聖王国に迎え入れられ、女傑リリアとの邂逅を果たした。
だが、その笑顔の裏に潜む懸念を知らぬまま、この国が落とす光と影の傍らで、彼らはほんのひとときの平穏を享受するのだった──




