エピローグ
人の流れが、途切れることなく続いている、週末のショッピングモール。
明るい照明、軽やかな音楽、行き交う笑い声。
あまりにも普通の光景だ。
「ねえ、昇。これどう思う?」
隣で、レクサ――いや、玲が一着のワンピースを手に取る。こちらの世界で彼女が選んだ名前だ。
「似合うと思うよ」
僕がそう言うと、玲は少しだけ嬉しそうに笑った。
「ほんと? じゃあ試着してくる」
軽やかに試着室へ向かうその背中を、ぼんやりと見送る。あの時と違って、今度はちゃんと振り返る人だ。
この世界は、何事もなかったかのように回っている。
レクサのいた世界は、消えた。
けれど、その住民のほとんどは、こちらに来ることができたらしい。といっても、レクサの世界の人間は元々数万程度だった。それが80億のこっちの世界に足されても、意外となんとかなるものだ。
ただ、もちろん暗躍者がいる。リタが中心になって動いていると聞いた。魔法で、各地に散った住民たちと連絡を取り、生活の指示を出しているらしい。戸籍も用意され、まるで最初からこの世界にいたかのように整えられている。
言葉の違いも問題だったはずだが、それも言語変換の得意な魔法使いたちが対応しているという。
「昇、お待たせ」
カーテンが開いた。
「どう?」
「……いいね」
玲は小さく笑って、その場で一回転する。
「デュロの世界って、楽しいことがいっぱいなのね」
何気ないやり取り。
それが、妙に大切に感じる。
でも、思う。
朋美は、今どこにいるんだろう。
何をしているんだろう。
あの緑の世界の向こう。
あれから、何も手がかりはない。
「……玲」
名前を呼ぶと、彼女はすぐに振り向いた。
「なに?」
「セナのこと、どう思う?」
ほんの少しだけ、玲の表情が曇る。
それでも、すぐに答えた。
「今聞かなくても」
「ごめん」
「いいのよ。あの子なら……たぶん大丈夫」
静かな声だった。
「強い子だから」
「でも」
視線が、わずかに揺れる。
「ずっと孤独だったのよね」
その言葉は、どこか自分自身にも向けられているように聞こえた。
「私、ずっと責任を感じてる」
僕は何も言えなかった。
ただ、隣に立つ。
玲もそれ以上は何も言わなかった。
店内のざわめきが、また耳に戻ってきた。
僕たちは、買い物袋を手に店を出た。
夕方の光が、街をやわらかく包んでいる。
玲が隣で、楽しそうに歩いている。
その横顔を見ながら、
僕は、ふと空を見上げた。
どこかに、繋がっているのだろうか。
そんな風に考えていたら、玲がふと言った。
「私ね、いや私達ね。
いつかセナをなんとか呼び戻そうとしているの。皆が納得する形で。
まだ具体的な方法はわからないけど、きっとセナを救う方法はある。今まで私達がなんとかやってこれたように」
僕は微笑んだ。




