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「また私のプロデューサーになってくれる?」   作者: 城間ハク


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9/9

9話「アイドル」

 しばらく画面の向こう側に見惚れている中で、母から「何見てるの」と言われる。oは「友達に薦められたから」と、それっぽい言葉を返す。


 今までアイドルはテレビの向こう側のバラエティタレント、そんな認識だった。

 今後はパソコンでiのことを調べる機会が増えそうなので、家族からアイドルオタクだと思われるのも、致し方ないだろう。


 少し心ここにあらずのまま晩ご飯を食べる。テスト勉強は明日からということにして、無理矢理寝る。


 あの公園の出来事を思い返す。iはいつからアイドルを目指していたのだろう。

 正直はっきり覚えているのは、iの家で『Nオレンジ』を飲んだことくらいだ。

 二回くらい遊んだっけ、軟式野球の少年団に入ることになって、それっきりだった気がする。


 iと中学で再会できたことは校区的には必然なのだが、同じ部活で初めて会話したときに、iの名前を思い出せたことは奇跡だと思っている。

 仮入部期間が終わるまで、部での自己紹介が無く、女子同士が下の名前を確認する場面にも遭遇していなかった。

 今でこそeが同級生の女子を名前で呼び合い、男子を名字呼び捨てにしているが、あの頃はまだ女子同士も名字呼びだった。


 oはiの名字を全く覚えていなかった。但し体験入部のときから気になっていたので、潜在意識が覚えていた可能性は否定しないものとする。

 記憶を整理しながら眠りに就いたからか、特に夢を見ずに朝を迎える。


 アイドルはiであると確定した空気の学校を過ごす。同じクラスのdが、珍しくクラスメイトに囲まれている。dなりにiについて聞かれたことを答えていた。

 oもクラスの男子からiについて聞かれたが、「めっちゃ美人」「まさかアイドルだったとは」など、同じ部活でなくても思うような当たり障りのない返しをする。


 iがアイドル活動を「ダンスの習い事」と表現していたことや、男子でありながらoがiとコミュニケーションを取っていたことは話さない。

 iが隠し事をしていたのは事実である。そのiがアイドルだと知らなかったとはいえ、たまに二人きりで会話をしていたoは、共犯関係にある。


 中間テストの勉強は、昨日とは打って変わって燃えた。初めて出来た推しに元気を貰えた気がする。

 部活停止期間が明けるまで、iに会う手段はクラスへの突撃くらいだが、そんな野暮なことはしない。今出来ることはテスト勉強だけだ、といった思考回路である。


 テストが終わったのは金曜日。やっと部員らがiと対面する。先輩たちへ謝るi。

 アイドルオーディション合格後のダンスレッスンを、ダンスの習い事と言い替えていたとのこと。


 C中弓道部の結束力はむしろ深まった。普段から接してきた身内に有名人が居た、そんな優越感を共有している点は否めない。

 二人きりになるチャンスを待てなかったoは、「応援するね」と皆が居る前で伝える。「ありがとう」と、照れくさそうにはにかむi。


 部活終わり、iは女子の先輩や同級生に「それではアイドル活動行ってきます」と挨拶をし、戦場へと向かう。oはそれを遠巻きに見つつ、弓道場の前で見送る。


 iの母の姿がある。普段から金曜は車で迎えに来ていたらしく、今日は件のことがあったからか、弓道場まで顔を出しにきたようだ。

 久しぶりに会うその顔を、oは全く覚えていなかったが、会釈をする。容姿について触れるのは失礼だが、iの母だなあと思った。


 土曜の部活。先輩も同級生もi不在の中で状況を整理する。

 先輩の一人から「なんで部活やってるんだろうね」という疑問が漏れ出たが、推測を口にしない一同。

 上京せずに地元に残っている点は、家族の都合でもあるのだろうと、詮索はしない方向になった。


 ダンスの習い事と称していたことを嘘だと言う者もおらず、夏休み以降は部活動よりもそれを優先していたことも、むしろアイドル活動だと判明したことで腑に落ちた面もある。そんな共通認識が形成される。


 急に自慢の後輩が出来た女子の先輩たちと、なんか楽しそうなe。dや無口な女子に、「凄いよねー」と普通の感想を述べる同級生女子も居る。

「支えなきゃ」と決意を固めたのはc。流石iのクラスメイトだ。

 

 どぎまぎを隠せないのは男子陣。oもその中に紛れ込んでいたが、少し冷静だった。

 楽しい学校生活が待ち受けていると確信している。今このときも、iはアイドルを頑張っているのだろう。活力が湧く。


 帰宅後、改めてiについてパソコンで調べる。どこぞの事務所のアイドルプロジェクトの一期生らしい。


 四人組のアイドルグループで、iは小文字のアルファベット一文字で活動している。ほかのメンバーはもう少し名前の体を成しているものの、全員芸名のようだ。

 都内で活動しているにもかかわらず、メンバーの出身地をアピールすることでローカルアイドルらしさを出し、iはK県在住を武器にしていた。


 この夏、着実にグループとして成果を上げていたらしく、K県K市にまでその名が轟くのは時間の問題だったようである。


 世はA康プロデュースの大人数アイドルグループに続けとばかりに、アイドルグループが乱立する、《アイドル戦国時代》らしい。


 iはその中の一つのグループで、しかも中心メンバーのようだ。

 そんな子にoはアイドルを目指す切っ掛けを与えたような気がしているが、あの公園での会話は、よく思い出せない。

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