糸
戦いのコツはこうだ。
できるだけの人数、それもある程度の質で遠距離でぶっ潰せる戦力を持って数で殴る。
なぶるだけなぶったら念入りに死体撃ちをして、死体が残らない程度にやってやっと確認をする。
そうすることで相手は遠距離からの攻撃に灰になりぶっ殺されることだろう。
それが異世界の勇者の戦い方かと魔物に文句を言われたこともあったが知ったことではない。
ちなみにこの戦法が効かなくなることが二パターンほど存在する。
一つ目は集団の中の数人がカスであること、純粋に火力が足りないし包囲網が突破される危険も存在する。
そしてもう一つ目は相手がこちらの集団の暴力をものともしない化け物という場合でーー
「キリキリ逃げろ、足を止めたやつから殺してやる」
じゃあこちらが集団でもなければ、三人のうち戦えそうなのが一人、大怪我をした瀕死の女が一人、カス以下の戦闘においてゴミである男が一人。
絶望的にも程がある。
全力で走り背後に迫る死の気配を全力で避けながら、入り組んだ屋敷を駆け回る。
「結局殺すんだったらさっきの処刑場で殺せばよかっただろ!」
「死にたいのなら足を止めるんだな。それに民衆の前で教会の関係者を殺したとなれば問題となるがーーまあこうやって一眼のない場所で消して仕舞えばいい話だ」
「殺す理由は!?」
「一つ。不審者。二つ。異世界の勇者が嫌いだ。三つ。特にそこの異世界の男、お前が嫌いだ。顔を見るだけで背筋が凍る、王族の宰相のような気持ち悪さがある」
「殺す理由になってないだろ!?牢獄にでも放り込んでおけよ!」
角を曲がり、柱の背後を駆け回り三人揃ってゴキブリの気分だ。
中庭を走り抜け、できるだけ遮蔽物を多いところを走り抜けるがーー魔術で一つ一つ、潰してくる上に、何より相手の魔術が見えない。
俺が今のいままで生き残っているのは、魔力の動きが見えるアメリーと、どうやら気配を感じ取れるあの男が叫ぶ方向にそれはもうゲームのチュートリアルで動かされる主人公のように足掻くことだけだ。
「『精霊よ、爆炎を生み出したまえ』」
アメリーが詠唱する必要もないのにわざわざ言っているのが聞こえた。
しかも黒い、確かに詠唱しているようだが速度を一ミリメーターほどはやくする補助だし、意味はないに等しい。
生み出された火炎弾は真っ直ぐと青い薔薇に向けて全身。
辺境伯が両手を振るえば、爆風が突き抜け、火炎弾は霧散、生み出された鎌鼬が俺の頭上を切り裂いた。
「限界なんじゃないか?そろそろ諦めたらどうだ?」
成る程、状態は最悪だ。
誰も彼もが疲れ果ててる上にアメリーは重症、大丈夫と言った時も真っ黒の嘘つきだった。
少なくとも戦えるように見える男も何か企んでいるのか、一向に戦うか、戦えるようにも見えない。
考えろ、考えるんだ。アメリーとあの男が助けに来てくれたと言うのに死んでしまえば三人揃って無駄死にだ。
エルに対する仕返しも、光輝の顔面をぶん殴ることも、どっちもできなくなっちまう。
そりゃあダメだ、なんとかしなけりゃいけない。
いま俺にできることは。
真っ黒な空間、赤い糸が空から垂れてクラスメイトやエルの腕に糸が巻かれてるのが見える。
そして、それらに割かれている俺の魔力、言語理解を保つために浪費されている莫大な魔力が溶け出しているのが見えた。
これを全て引きちぎって仕舞えば、才能も、力もない俺でもアメリーに魔力を叩き込むことができる。
できるかどうかはわからない、けれど魔力を流す感覚は常に感じているものだ、その量を増やすことぐらい雑作もないことだ、やってみるしかない。
タグれるだけの赤い糸を手繰り、全力で引っこ抜こうとしてーーエルの腕を見て、躊躇して。
裏切ったのはあいつだ、何を躊躇する。
処刑されかけ、いまだって死にかけている。
けど、なぜか心の底から憎むことができない。
そっと、その一本を残し、クラスメイトにつながる赤い糸を全て引きちぎった。




