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辺境伯

「結局のところ貴様らは何者だ?」


屋敷は広い、入り組んだ構造に様々な施設から騎士団の詰所ーーまるで一つの城と言われてもああ、そうですかと頷くほどだ。


騎士たちが見回りを常にしているし、通りすがるために顔に出しはしないが疑いの視線を向けてくる。

そりゃあそうだ、俺が処刑されそうになってるところに突然空から飛び込み、ギロチンを吹き飛ばした理解不能な二人。


しかもあの頭がとち狂った教会の連中、そう宣言しなんと説得力があるのだから、笑い物だ。


中庭を歩きながら、前を歩く辺境伯がこぼした言葉にそっと俺は後ろの二人に視線を向ける。

方や俺の幼馴染、方やその幼馴染ともうすでに俺ら長いですって感じの雰囲気を出す男、イケメンだ、重要じゃないが。


おい待てお前ら何二人してお前が答えろって感じで口閉じてるんだ、


「えっと……もっと具体的に?」


「どこの関係者だ?著名なパーティーに来ていた記憶もない。かといって有力な権力者の名前は全員記憶してるが覚えにない」


「異世界の勇者といえば納得していただけますか」


「ああ、そうか、お前ら二人に話してるんじゃない。隣のその男だ」


ひどく不愉快そうに男はため息を吐いて背後に視線を向ける。


ああ、俺に話しかけてるのかと作り笑いを浮かべてイケメン野郎はにこりと笑った。


「お初にお目にかかります。正教教会の司教であるリンクス・トーバーと申します」


「ふむ、新人か?この街には新しいのか?」


「はい。最近この街の支部に派遣されてきたものです」


「嘘をつく時はもう少し賢くするんだな。今回お前らを見逃しているのはひとえに国賓とやらと異世界の勇者が気に食わないからだ。余計な勘違いをしない方がいい」


……流石にバレるだろうな。

このボロいローブに変な形の剣を持ってて司教と言われても信じようがないだろう。


「異世界の勇者が気に食わない?勝手に読んだのはそっちでは?」


もし召喚されてなければ太朗とケーキ屋に行っていたのにとアメリーは頬を膨らませる。


これだから、とひどく面倒くさげにため息を吐いて辺境伯は足を止める。


「ガキに剣を握らせ蹴り付けなけりゃあ救えない国なら滅んじまえと思っているだけだ」


「……」


「ケーキを食うとか喚いてるクソガキに頼らなけりゃいけないほどこの国の歴史は、力は陳腐で拙いものなのか?これだから王族は嫌いなんだ、あいつらは伝承やら星の動きやら、魔術師の戯言で物事を決める」


葉巻を取り出し咥え、懐から取り出した火魔石で点火。

ふっと息を吐き出せば煙が宙を舞い、爽やかな風が中庭の庭園を突き抜けていく。


薔薇の香りが鼻腔をくすぐり、風上を見れば、噴水の周りに青色の薔薇が植えられているのが見えた。

なぜかアメリーの俺の手を握る力が強くなり、その顔を見ようとも思うがなんとなく自然にしていろという圧力を感じる。


「ーー薔薇の庭園ですか?」


青い薔薇なんて珍しいものを見た。

確か研究所が遺伝子改良してかなんだったかでやっと作ったんだったか、さすが異世界まさか自然に育つものがあるなんて。


「ああ…….妻が好きだったんだ。もう二十年ほど前に実家から帰るときに襲われ死んでしまったがな」


「すみません……」


「何謝ることじゃない。過去は過去だ。もう気にしちゃいない。ただこうして哀愁を感じ流のも悪くないだろう」


「本当に奥さんが好きだったんですね」


「違う、まだ愛している。過去形にはさせないし、する気もない」


正直、壮絶に気持ちが悪いと思った。

いやぶっちゃけた話美しい話には聞こえるけれど、言語理解で伝わってくる感情がとても複雑で、どちらかといえばどす黒いものだった。


言語理解は勝手に感情を察して伝えてくれる。

嘘をついていたらある程度わかるし、本当のことを言うならその感じもわかる。


だから俺はエルを信じた、少なくともあいつは嘘を言っていなかった。

未来を見ていると言うのも、将来死んでしまうと言うのも、どれもこれも真実で本当に心から出てきたものだった。


けれどエルは嘘をつかずに俺を裏切った。

正直に、素直に、誠実に、ただひたすら本気で、心からそう信じ裏切った。


慎重にいこう、そう決めた。


辺境伯は、少なくとも真実を言っているーーそれはわかるけれどその、言語化できない気持ち悪さと悍ましさがある。


人間は本当に気持ち悪い、その点アメリーってすごいよな、嘘つかずに俺と本気で、脳みその底から俺と付き合ってると思ってるもん。付き合ってないけど。


なんかもう一周回って凄いよな!


「そういえば」


そう辺境伯がつぶやいて。


「国賓を犯したーー強姦したと言うのは嘘だろう?」


白、ブラフじゃない、本気で言ってる。


「嘘、ですね。エルが勝手に言ってる戯言です」


「やっぱりか。いくらお前のが短いイチモツだろうとあんなガキに入れられるはずがないからな」


白、ただ下品で、本気で言ってる。

もしかしてこの人信用できたりするか?


「……じゃあなぜタロウを処刑しようとしたんですか?」


んなわけなかったわ、俺殺されかけたんだ。


「決まってるだろう?国賓が犯したと言ったなら犯したことになるんだ。今同盟国と摩擦ができることは避けなきゃ行けない。まあ適当に事故でも起こして始末していく予定ではいたが」


真っ黒になり、真っ白になり、いや本当になんだこの人気持ち悪いな。

それよりも。


「そんなことを俺らに話してもいいんですか?」


「何を聞きたい?いやわかりきった話をする必要はないだろう?」


「……?」


いや一体どう言う意味だーー


「「馬鹿殺しに来るに決まってんだろ」」


首根っこが掴まれ、すぐに浮遊感。

自分が立っていた場所が抉れ消え去っているのが見え、目を閉じて開いた後には辺境伯との距離が十数メートル空いていた。


杖が向けられる、アメリーとリンクスと名乗った男が構えるのが見えた。


「いやちょっと待ってくれ、俺戦えないからちょっと一抜けたしていい!?」


叫ぶ。

全力で叫ぶと、辺境伯はニッコリと笑って。


「抜けられるならやってみるんだな!」


「「走れ!!」」


またしてもやっぱり首根っこが掴まれ体が勢いよく引っ張られる。

いつも通りの展開だ、戦えない俺が巻き込まれる、そしてやばいなぁと思いながら全力で足手纏いになる。


髪をかすめた魔術に息を吐いて、俺は走るのであった。

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