終わり
「つまり、こう言いたいんすか?」
半壊したエルビス商会の建物を風魔術で瓦礫を吹き飛ばしながら、アメリーとリンクスの二人は散策していた。
本拠地の警備兼護衛、そのための戦力はあらかた初見で吹き飛ばした上に、あの戦いを見た後にまだ戦おうとする人間などいなかった。
妨害一つ受けることなく二人は廊下を歩きながら、リンクスは疑問を投げかけた。
「エルビス商会に送られた監視役、それが商会側から多額の賄賂を受け取り、拒否の情報を報告していたと」
「あらかたそのへんだと思っているよ、それにほら」
廊下の先、一際豪奢なドアが開け放たれ、中年太りした男二人が飛び出してくる。
花につく薔薇の香水の匂いにアメリーは露骨に嫌そうな顔を見せ、二人を睨みつけた。
二人ともさぞや高価なアクセサリーと豪奢な貴族装束。腹が出ているせいで、すらっとした男性向けの装束はひどく醜悪に見える。
両手にはカバンを抱え閉まり切らないそれからはアクセサリーがこぼれ落ちそうになっているのが見えた。
「さて。証拠なら前にある、もし間違っていたとしても洗脳して冤罪だろうと作り上げれる」
杖をまっすぐと向ければ二人は血相を変えて叫び始める。
「かっ金ならいくらでもある!いったいいくらほしい!?何億でも払うぞ!」
「わしもじゃ!そうだ、異世界の勇者の情報に辺境伯のスケジュールもつけよう!その手の人間に売ればかなりの額になる」
「おお、悪くない話じゃないか」
にっこりととても整った顔の口角が上がり、二人は安堵の顔をこぼす。
そのあまりにも醜い姿を見て思わずリンクスは口を開いて。
「いや、悪の親玉っつうから、どんなヤバい奴が来るかと思えばただの三下じゃないすか。それに片割れは辺境伯が送り込んだ監視役ですよ」
「…….同感だ、いや……うん、やっぱり自白はさせよう。何かがおかしい」
自白、つまりは拷問や尋問をこれからこの悪魔は行おうとしている。
そう理解し血相を変えて二人は膝をつき涙を流し、必死に訴える。
「金なら払うと言っとるじゃろう!?一体何が不満なんじゃ!」
「今からする質問に正直に答えて欲しいんだが。太朗、いや黒髪の、私と同世代の少年を攫わなかったかい?」
杖の先が光る、莫大な魔力が放たれ、二人の脳裏には先程の爆裂魔術、キノコ雲が思い返された。
もしあれを生身で食らえば一瞬で塵芥に変わり死んでしまうことだろう、と。
嘘をつけば殺される、確実にこの女はやばい。
全身から冷や汗が滴り落ちるのを感じながら、男二人は慎重に言葉を選びその言葉を吐いた。
「しっ、知らない!最近入った商品は若い娘ばかりだったはずだ!男は拐ってない!」
その言葉にアメリーは首を傾げて。
「……気持ち悪い、本当に気持ち悪い。なんで君らは逃げようとしているんだい?」
「いや、そりゃあ拠点の前であんな爆発があって、警備が皆殺しにされたら逃げるでしょう……」
「そんなことはわかってるんだが、わざわざ廊下に出てくるのが違和感あるんだ。隠し通路の一つでも用意して脱出できるようにしているはずだ」
「単純に作り忘れていたとか?」
「悪党は姑息だよ。保身のためならそれこそ天才並の頭の回転速度で考えられる。いや、そうか保身か…….」
顎に左手を置いて、熟考すると何を思いついたのかアメリーは魔力を杖先に集中。
二人が飛び出して来たドアに向けて爆風を投げつけた。
「「ああああああああ!!??」」
見逃すんじゃなかったのか、そんな嘆きの声を出すまもなく二人の男を巻き込みながら爆風はドアを粉々に砕きその部屋の中をあらわにする。
完全に勘だった、確証も何もない、けれどアメリーの鼻には確かにバラの香水の匂いがついて離れない。
二人の男からするのは薬品と血の匂いだ、薔薇の香水の香りじゃない。
「ーーやっぱりそうか」
駆け込んだ二人の視界には嗜好品や、趣味の悪い置物が並ぶ豪奢の部屋。
そして、動かされた本棚。
それに隠されていたであろう階段に、微かに残るバラの匂い。
部屋に残された三つのグラスに明らかに高そうなワイン。
「なあ暴漢くん、エルビス商会のトップの顔は知っているのかい?」
「…….そこの二人が、一応表向きのトップっす。新商品がなんだかと喚いてるのを見たことがある」
「三人目か、うん面白くなってきた。多分もう逃げてるだろうし、今から追っても無駄かなぁこれは」
「目撃情報探れば何かしら分かりそうっすけど。どうっすかね?」
「うん頼むよ。けどまあこういう事案は光輝がどうにかするものだ。私じゃない。正義の味方に丸投げが一番楽だし、ぶっちゃけ太郎関係ないなら私が襲撃した意味も意義も正当性もないからね」
エルビス商会からすれば悪夢でしかない、言いがかりで建物を吹き飛ばされ、警備は全滅。
まあ誰が逃げたかとか、犯罪の証拠とか、そういうのは全て二人から聞き出せばーーそう思い、地に転げる二人に視線を落とせば。
「いっいやだ、死にたくない!ここまできてわしゃあこんな理不尽で死ぬのか!?」
豪奢な金色のネックレス、緋色の特大の宝石がつけられたそれは淡く明滅を繰り返し、そして。
「いっーー」
あまりにも、静かに、ピーッと、電子音を溢しながら内側へと向けて爆散。
咄嗟に貼った防御結界の外側に、生ぬるい血液が飛び散り、部屋は一瞬で緋色に染まった。
転げ落ちた生首、足元にこぼれ落ちた肉片を見下ろす。
「まずいっ!暴漢、文句言わないでくれよ!」
「えっ?」
返事を求めちゃいない、杖先から放たれ魔術は窓を突き破り、アメリーは暴漢の首根っこを掴むと身体強化魔術を重ねがけし、全力で向かいの建物へと飛んだ。
建物内、その中央部にある巨大なルビー。宝とかには興味がないと、二人が無視したそれは確かに緋色の輝きとともに、明滅を繰り返していて。
宙を舞う二人の背後、今今いた建物が静かに、音もなく爆散した。
ーー防御結界には弱点がある。
発動者と対象が止まっていなければ貼りにくい上に、効果も薄い。
一つの座標に固定するから意味があるのであって、それこそ宙をまう人間を囲うようにするのは無理だ。
だからこそ咄嗟にアメリーは自分たち含め、向かいの建物を守るように防御結界を展開。
自身が動いているため効果は薄い、けれど数発の瓦礫を防ぐ。
けれど、まるでこちらに逃げるのを予想していたかのように爆発の方向はこちらに向くように仕向けられていた。
四散した瓦礫の山が結界を殴りつけ、突き破り、一際大きい瓦礫がアメリーの背を殴りつけ、窓へと激突。
割れたガラスがアメリーの柔肌を切り裂き、壁に叩きつけられた体からは、人から鳴ってはいけない音が溢れた。
折れた肋骨が肺を突き刺し、溢れ出た血は容赦無く肺を満たしていく、内臓を突き破った一部の鋭利な瓦礫は肉に突き刺さり、鈍い痛みを広げている。壁に叩きつけられたことで肩甲骨が割れている。
「かっかい……ふ…….ゴホッ…….」
声を吐こうにも、肺が血液だらけで、咳き込んで。
頭を切ったらしく、段々と思考が鈍化していって。
その意識は、ゆっくりと暗転していった。




