20自重を捨てて騎士団を調教しよう!②
「私たちが砦に到着する少し前に来たそうです、時期が不自然ですわ、ユノ様」
「もしスパイなら、こちらの領地のことが筒抜けになってしまうわね…」
そっか、レン王子はアスランが第一王子の護衛だと気づいたから、見てたのね
「理由をでっちあげてでも、今すぐ追い出すべきですわ!」
わたしもなりふり構わないほうだが、レン王子のことになると、アメリは容赦ないよね。でもアメリのそういうとこ好きよ
元々アメリとは「レン王子!至上主義」で意気投合して、仲良くなったからね
「レン王子の害になる者は、殺られる前に殺るか駆除ですわ、ユノ様」
「そうよねぇ」
いつもならアメリに賛同するのだが、わたしは少し考え込んでしまった。あのアスランという兵士が、スパイっぽく見えなかったからだ。
「待て待て待て! 何の証拠もないのに駆除はやりすぎだろ」
わたしとアメリが話していると、レン王子が背後から慌てて割って入ってきた。
「ですが…」
「いいか、ユノもアメリもまだ勝手なことはするなよ!」
納得できない様子のアメリ。そして、なぜかわたしにまで、釘を刺すレン王子。
「レン王子がそうおっしゃるのでしたら、わかりましたわ」
「は~い」
わたしとアメリは顔を見合わせて苦笑し、渋々返事をした。
「ユノ一人でも大変なのに、アメリとつるむとますます過激になるな…」
レン王子は額に片手をあてると、深く溜息をついた。
え!? 過激なのはアメリで、わたしはいつも穏やかなのに!? 混ぜるな危険の「危険物」みたいに言われるのは、解せぬ…
◇◇◇
数日後の騎士団の練習場。アメリに言われてから気になってしまい、アスランという兵士をよくよく観察してみた。
だが見れば見るほどスパイには向いてない、というか見えない。
隅のほうで一人で黙々と訓練するアスランに、砦の兵士が話しかけに行った。だが会話にならず、すごすごと引き上げていく砦の兵士。
「あちゃ~、そんなに周りに壁作ってたら、仲良くなれないわよ…」
アスランは見ていて心配になるぐらいのコミュ障ぶりだ。完全に孤立している、スパイなら落第点だ。
「うん、違うね。スパイなら、わたしたちに取り入ろうとするはずだ」
でも、ならどうして第一王子の護衛がこんな辺境にいるんだろ…?
王族の護衛に選ばれるくらいだから腕は立つ。第一王子が捨てたのなら、レン王子の兵士にもらってもいいよね?
わたしがそんなことを考えているうちに、何やら背後のほうで騎士団が騒がしい。なぜか騎士団長とレン王子の模擬戦が始まろうとしていた。
「何があったのアメリ!? 騎士団長が稽古でもつけてくれるとか?」
慌てて駆け付けると、互いに睨み合って、レン王子と騎士団長が剣を構えていた。
「いえ、それが、些細なことで口論になりまして…剣で決着といいますか…」
アメリが言いにそうに口籠った。だが口論の内容は教えてくれず、なぜか目を剃らされた。
「レン王子が口論なんて、珍しいわね…?」
レン王子の周りには護衛の老兵団がいたはずだ。老兵グレイル・バルザーに尋ねるように、私は振り返った。すると、老兵グレイル・バルザーは、バチンと片目を瞑ってウインクしてきた。
「止めるな」と目が笑っている。きっとこれも王子の鍛錬の一環だと考えているのだろう。喧嘩なら止めるが、模擬戦なのでまずは見守ることにした。
始まった試合を、隣でアメリがハラハラした様子で心配そうに見ている。
「アメリ、心配しなくても、レン王子は以前よりずっと強くなってるよ」
「そうだとは思いますが…」
騎士団長とレン王子の模擬戦は、一見すると五分五分にみえた。レン王子の剣戟を、指南役のように騎士団長が受けているからだ。
「第三王子、不敬を承知で申し上げます。強くなったら戦場に送って皆殺しにされる、私はそんなことの為に、兵を鍛えたくはありません」
「私が兵をそのような使い方をする人間だと、いいたいのか?」
「わかりません。ですが私は、自分よりも弱い相手には忠誠は誓いません」
レン王子を子供だと思ってバカにしているのか? 騎士団長は初対面のときから「俺は誰にも忠誠を誓わない」という態度がありありと出ていた。
「やっちまえ団長~!」
「団長~! これまで通り楽に過ごせれば~俺らはどっちでもいいですよ~」
ヤル気のない態度で、囃し立てる騎士団員たち。
北の砦の民たちとは違い、騎士団とはこれまで打ち解ける雰囲気にはなれなかった。それは、この騎士団長の存在が大きい。
だから、わたしとレン王子もついつい、騎士団問題を後回しにしてしまっていたのだ。
背後に魔の森がある環境で、どうやってこれまで北の砦を守ってこれたのかしら? 不思議だわ…
レン王子と言葉を交わすのを終えると、それまで指南役のように剣戟をただ受けていた騎士団長が、突如攻撃に転じた。
長身で細マッチョな身体はリーチが長い。大人と子供の体格差だけでもかなりのハンデだ。最初は剣と身体強化だけで剣戟を凌いでいたが、力負けしたレン王子が豪快に弾き飛ばされる。
わたしとアメリは思わず息を飲む。
剣戟を受けた反動で吹っ飛び、地面を二回転するレン王子。だが無様に転ぶことはせず、即座に体勢を立て直し反撃に出る。
身体強化と剣だけではパワー負けすると、判断したのだろう。レン王子は剣と魔法に戦い方をシフトさせていた。
身体強化は老兵グレイル・バルザーがコツを教えてくれた。旅の途中からレン王子の剣の師匠となってくれた彼。最初は渋ったが、頼みこんでわたしも一緒に剣を教えてもらってきたのだ。
この頼れるお爺ちゃん騎士の存在がなければ、わたしもレン王子も安心して眠ることすらできなかっただろう。お爺ちゃんには感謝してもしきれないよ
本当はグレイル・バルザーに騎士団長を倒してもらうつもりだった。でも模擬戦で、レン王子に騎士団長をフルボッコにしてもらうのが、騎士団を従えるには一番いいのよね
「んんっ!?」
『心眼』で騎士団長を視ていたわたしは、ハッとした。
この人、魔力持ちだわ、なのに魔法は使わずに剣だけで勝負している。何か意図があるのかしら? 手を抜いてこれなら、実は相当強いのかもしれない
あれ? 騎士団長って意外に強い…?
わたしは少しだけ騎士団長への認識を改めた。
一際激しく剣がぶつかる音が、騎士団の練習場に響いたのは、ちょうどその時だった。
レン王子は騎士団長の剣戟を確かに躱した。だが剣先が僅かにレン王子の頬を撫でた。
「きゃあ!?」
「レン王子!?」
ボタボタと頬から血が流れ落ちるのを見て、わたしとアメリは思わず大声を上げた。
「大丈夫だ」
服の袖口でグイッと血を拭うと、振り返らずにわたしとアメリを声で制すレン王子。
レン王子はどうやら、怪我をしても勝負を続けようとしているようだ。
「なんだよ、ちょっと頬が切れたぐらいで大げさだな~」
ぷークスクスという顔で、騎士団長がニヤリと笑った。
「ちょっとですって!?」
それを見たわたしは激怒して叫んだ。
手を抜くほど余裕のある騎士団長の手元が、狂ったとは考えられない、明らかにわざとだ。だが、そんなことを許すわたしではない!
わたしはアメリの差し出したタオルを引っ掴むようにして、レン王子の頬の傷を抑えた。タオルがみるみるうちに赤く染まっていく、思ったよりも傷が深いようだ。
「アメリ、レン王子の応急手当を頼むわね」
「ユノ!? 私はまだ戦えるぞ!」
戸惑うレン王子を尻目に、後ろで同じく激おこぷんぷんしているアメリに、レン王子の手当てを任せた。
「治療の間、選手交代よ、わたしが相手になるわ!」
わたしは騎士団長の前に仁王立ちし、ガン睨みして選手交代を宣言する。
激おこスイッチがONに入ったよ、調教してやるから覚悟しろ!
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