17自重を捨ててお金を稼ごう!①
「うおおぉ~!? 遠くの山々までくっきり見える!」
「何が起こったんだ!? 寝たきりだった爺さんが、片手で腕立て伏せしてるぞ!」
臨時の治療所の前で、大騒ぎしている北の砦の民たち。炊き出しのメニューがようやくバーベキューになった。今日で全ての領民を100%状態まで治療が終わったからだ。
うん、いつもの如くいろんなところを回復させすぎちゃったみたい…、てへぺろ
「レン王子、塩は国の専売じゃないですよね?」
「ああ、そうだが。それがどうかしたのか」
「少し気になることがあって」
治療した老人から興味深い話を聞いた。
「今でこそ荒野だが、ひい爺さんの時代には、川があり湖もあったそうだ。不思議なこと湖の水がしょっぱかった」、そんな昔話をしてくれたのだ。
その話を聞いてピンときた。もし、わたしの推測が正しければ、アレが手に入るかもしれない
◇◇◇
整地した領地を確認して回る、わたしとレン王子。今日は領館の仕事が一段落したので、アメリも一緒だ。
畑と用水路だけでまだ緑はない。ここに緑を生やすのが今日のわたしのメインの仕事なのだ。その間レン王子には、用水路に沿って上水と下水を錬金してもらう予定だ。
マギサーチで領地をマッピングした画面を出す。一応、水脈以外の物を細かくサーチをかけてみた。
だが、サーチに時間がかかるのか? 何もないのか? ヒットしなかった。
「さぁ、ジャンジャンバリバリ植樹していくよ!」
わたしは画面を指でタップして、道路の両脇を等間隔で指定し、空間収納のリストから「シイの木」を選択する。
すると、金色の光の粒子が立ち上り、一瞬で道路の両脇に街路樹が出現した。
同じ要領で、街路樹の間に、木イチゴ、コケモモ、アケビ、かりん、クロマメノキなどの果樹を植えていく。
食用となる果実のなる木ばかりなのは、完全にわたしの趣味だ
空間収納のリストは、この世界の言葉と日本語の両方で表示される。だがわかりやすいので、日本での名前で発音することにした。
クロマメノキは日本版ブルーベリーだ。一本の低木からかなりの実が取れる。
シイの木はドングリがなる常緑高木。渋味がないので生で食べられる。炒って食べると香ばしく、お菓子に入れても美味しい。
「何度見ても、驚きの光景だな」
「本当ですわ、何もない所に一瞬で木が生えて実がなるなんて…」
それを見ていたレン王子と侍女のアメリが、感嘆の声をあげる。
「ハイ次、ハイ次!、オラ次~!」
2人を尻目に、わたしは空間収納から、出せる限りの物を吐き出した。畑の一部には、薬草をポンポンと植えていく。
畑では農作物だけでなく、薬草も育ててもらうことにした。もちろん食料優先だけどね
ああ、空間収納の物を出すだけだと楽だわ~。質量置き換えするのは、緻密な魔力操作がいるから、魔力をごっそりもっていかれるからね…
「第三王子様!」
「ありがとうございます、王子様!」
レン王子の姿に気づき、農作業の手を止め、声をかける北の砦の民たち。開拓した耕作地には、民総出で作物を植えてもらっている。
小さな声にも耳を傾ける、気遣い王子のレン王子の人気は上々だ。愛くるしい美ショタ少年王子の微笑みは、老若男女問わず魅了している。
しかし、なぜかわたしを見る、民の様子がおかしい。
畏怖? 遠巻きに見て、手を合わせて拝んでいる人までいるよ! なんで!?
「なんか…すれ違う人から、女神様って聞こえたような?」
「聖女は王都で保護されるため、地方の者は噂でしか聖女を知らない。だから、地方は女神信仰のほうが強いのだ」
わたしがプルプルして困惑していると、レン王子がそう説明してくれた。
「ああ、そうか! この黒い瞳と黒髪のせいね」
わたしはポンと手を叩き、ひとり納得した。
「いや、それだけではないと思うのだが…」
「物凄いことをやってのけたのに、ユノ様にはまったく自覚がないのですね…」
わたしを見て、レン王子とアメリが苦笑する。
「だって魔の森で頂いてきた物を置いているだけで、わたしが生やしているわけじゃ…」
そう言いかけてハッとした。
そうか! 民からすれば、何もないところに植物が突然生えたように、見えたのだろう
うわっ、完全に「豊穣」詐欺だわ…すみません…
本当に豊穣の力があったら、この領地をレン王子の髪色みたいな、一面の金色の麦畑にしちゃうのに…
ヤバイよ、わたしって役立たずじゃない…!?
「そんなことよりレン王子、大変です! お金がないです!」
「ああ、わかっている…」
わたしが物凄く悲壮な顔でそう言うと、レン王子が困った顔で答えた。
あのクソ王が物資も金も出さなかったせいで、領地はとても貧乏な状態なのだ。錬金は何もない無から、無尽蔵に作り出せるわけではない。
旅の途中で、レン王子のスキルを知ったわたしは、砦に来る途中の町で、老兵団が狩った魔物を売り換金した。
だがお金は、錬金のための石灰石や領地に必要な物を買ったら消えた。しかも整地で使ったので、底をついてしまったのだ。
「魔の森で狩った魔物、薬草を売って当座をしのごう」
「お金を生み出す名産品を作らなければ、貧乏領地のままですよ…」
「どうしよう…、ポーションでも作って売るとか? あっ、エリクサー作れるようになりたいな! できれば砂糖と香辛料と種もみも欲しい…」
欲しい物ならいくらでも言えるが、名産品の案が出てこない。気持ちばかり焦り、欲望だけが口から駄々洩れしていく。
不測の事態が起こったときに、わたし一人では対応しきれない。欠損治療やエリアハイヒールのような大掛かりな治癒の魔法が使えない不安は、いまだに払拭することはできていない…
「そうだ! もう一度死にかけたら、豊穣や治癒スキルが増えないかしら」
これまで死にかけたときか、魔力切れのタイミングで、スキルが開花している。ならまだ増やせるはずだ。わたしはそんな思い付きを呟いた。
「絶対に危険なことは許さぬ! ユノはもっと自分を大事にしろ」
すると、それを聞いたレン王子が、顔を青ざめさせて怒った。
「魔力切れを起こすような、過度な魔法は今後は禁止する!」
「ええ~!? そんな…」
やだね、自重なんてしないよ! そんなことしたらレン王子の魔力血栓の治療が出来ないし、領地も豊かにできないもん!
「ユノ!」
わたしがそんなことを考えていたのが、顔に出ていたようだ。レン王子の宝石のような青い瞳が、めちゃくちゃ怒っているのがわかる。
「反省できるように、少し私と話をしようか?」
「うっ…」
わたしを座らせると、レン王子がコツンと自分の額を私の額に押し当てた。至近距離で睨まれビクッとする。
「目が怖いです…レン王子」
「怒っているんだから当然だ!」
怒った顔も可愛いな~と不謹慎なことを考えたが、そんなこと言ったら火に油を注ぐので言わない。お口チャック!
そしてこの後、滾々とお説教された。
レン王子は穏やかに見えるが、意外と性格がハッキリしている。嫌なことはNOと断ってくるしね。
そして怒らせると怖いことが、今日よくわかったよ…
「ユノに何かあったらと思うと胸が張り裂けそうだ。私がどれだけ心配しているか、わかってもらえただろうか?」
お説教が終わると、レン王子がわたしの手を取って、熱い眼差しでそう言った。
「反省してます、今後はもうちょこっと自重します」
わたしがそう答えると、レン王子が小さく溜息をついた。どうやらお怒りは解けたようだ。
不意にレン王子がわたしの手を引き寄せ、自分の頬にあてた。手から王子の体温が伝わってくる。
「いなくなったら困る、ユノにずっと傍にいてほしい」
至近距離で、青い瞳に真っすぐに見つめられ、一瞬ドキンとした。
『先生がいなくなったら困る』という意味よね? まるで愛の告白みたく聞こえるなんて、自意識過剰で恥ずかしいわ…
でも、ここまで好かれると嬉しいね、よっし! レン王子のためにもっと頑張るよ!
頬を赤らめた自分が急に恥ずかしくなり、わたしは急いで立ち上がり、気合いを入れ直した。
その瞬間、ピコン!と電子音がした。
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※「18話 自重を捨ててお金を稼ごう!」は、文字数多くなってしまったので①②で分割して更新します。