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独立行政法人人物価値選定所  作者: レイジー
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カレンの初仕事とやり甲斐

 突然カレンは先輩であるザキルから仕事を一任され慌てふためく。


「そそそ、そんな!む、無理ですよぉ!私なんかがあんな…。ザキルさんみたいにヤクザ張りの声も出ないし、ザキルさんみたいに極悪人顔でもないですしぃぃ…」

「…テメェ。さり気無く無礼かましてんじゃねぇぞコラ」


 カレンの悪気無き失言に突っ込みを入れるザキル。

カレンは先程までのザキルの脅迫ぶりを見てとても自分には全う出来ないと敬遠するも、ザキルがカレンにさせようとしていたのは少し違う内容の仕事だった。


「勘違いすんな。テメェにさっきのが出来ねぇのは分かってんだよ。やってもらうのは別のことだ」

「え…?」


 そして2人はとある保育園に到着した。

車を降りザキルと共に園内に入って行くカレン。

すると2人は数人の親達に対し必死に頭を下げる園長らしき人物と保育士達の姿を目の当たりにする。

そこではいわゆるモンスターペアレンツと称される理不尽な親のクレームが飛び交っていた。


「ちょっと!毎日毎日うちの子の体操服が汚れてるんですけど?お宅一体どういう管理してらっしゃるの?」

「いえ、お外で遊ぶので汚れるのはある程度は仕方無いので…」

「ならお宅が汚してるも同然なんだから洗濯はそちらでやるのが当然でしょ?そんな常識も分からないのぉ??」

「は、はぁ…」

「あの!先日のお遊戯会拝見しましたが、どうしてウチの子が主役じゃないの?ありえないと思いません?」

「そ、それは。皆それぞれ役割があることなので…」

「運動会のかけっこで順位をつけるなんて一体どういうつもり?あんな事してウチの子が可哀想でしょ?自信を失って卑屈な子に育ったらどう責任を取ってくれるっていうの?」


 理不尽極まる親達のクレームにただただ頭を下げ続ける園長と保育士達。

するとザキルはカレンに対し行動を促す。


「あれだ。行って来い」

「は、はい!」


 緊張で顔も体も凝り固まっている様子のカレン。

そんなカレンはザキルの指示通り集団の前に姿を見せ声を掛けた。


「あ、あの。お取り込み中のところ失礼致します。私、人物価値選定所の者ですが」

「!?」


 カレンの登場に驚く一同。

突然現れた国家最高権力の使者に唖然とする面々だったが、すぐさま親達が雄弁に口を開き出す。


「選定所の方?丁度いいところに。ちょっと聞いて下さる?この保育園たら子供達に虐待紛いな教育してるのよ。こんな人達とっとと点数を引いてやってちょうだい!」

「そうそう。今日いらしたってことはその勧告か何かかしら?いいタイミングだったわぁ~」


 するとカレンは猛弁を振るう親達の横を素通りし、園長並びに保育士達に向かい笑顔で告げた。


「おめでとうございます。皆様のご活躍が高く評価され、皆様には一律8点の点数を加点させていただくことが当選定所で決定致しました」

「え!?」

「はぁぁ!!?」

「なっ、何ですってぇぇ??」


 驚く面々。

カレンは続ける。


「皆様の園では常時定員をオーバーして人手不足の状況にも関わらず、積極的に園児を受け入れていらっしゃいました。また本来なら受け入れを拒否したくなるような理不尽な親を持つお子様達のことも見捨てず勇気と愛を持って受け入れていらっしゃる姿勢が高く評価されました。”子供に罪は無い”と、まさに博愛の極みと言えると思います」


 カレンの演説を聞き心から熱いものを沸きあがらせる園の人間達。


「こちらが通達書です。お収め下さい」


 園の人間達はその書類内容を確認するとこれまでの苦労が報われたという気持ちから一気に涙を溢れさせ始める。

カレンはそんな姿を見て心を温めていたが、すぐに背後の親達からの猛追が始まる。


「ちょっと?一体どういうつもり?こんな人達の点数を上げるなんて。しかも8点も?アンタ達選定所は一体どういう基準設けてるのよ?」

「そうよ!保育園が子供を受け入れるのは当たり前でしょ!人手が足りないのは確保出来てない保育園が悪いんじゃない!それにこんな人達の点数上げるんじゃなくて、その理不尽な親ってのの点数下げるのが先なんじゃないの?」


 すると突然親達の背後からザキルの怒声が響いた。


「そりゃテメェらだコラァァ!!!」

「きゃぁぁ!!!」


 怒声の主であるザキルは手に持っていたコーヒーを親達の背中にぶちまけた後、高い身長から親達を睨み見下ろした。


「オイコラ、くそばばぁ共。自覚が無ぇたぁ恐れ入ったぜ。その理不尽な親ってのは他の誰でもねぇテメェ等の事だろうが!!」

「ひっ…」


 ザキルの悪人面と迫力が炸裂する。


「ガキ共が不憫でならねぇ。テメェ等みてぇなクソ親のせいで何度も保育園変えられてダチもまともに作れねぇたぁな。いいか?今後テメェ等の事は徹底的にマークしてやる。あと1度でもふざけた事抜かしやがってみろ。2度とその趣味の悪ぃパーマも当てられねぇ生活に叩き落としてやるからなぁ?分かったかコラァァァ??」

「きゃぁぁぁぁ!!!」


 ザキルの迫力に怯え一目散にその場を去って行く親達。

カレンは園の人間から何度もお礼を言われ照れながらも喜んでいる様子だった。

後ろ髪を惹かれる様にしてその場を後にし車に戻ったカレンはとても嬉しそうな表情を浮かべている。

気付いたザキルは声を掛ける。


「何ニヤついてやがる?」

「えへへ。何か、あの人達とっても嬉しそうだなぁって。何だか、私も幸せな気分になっちゃいました」

「ふん。めでてぇ野郎だ」

「ザキルさんて優しいんですね!」

「あぁ?何だと?」

「だって。あの加点通知っていわば選定所で働く職員の醍醐味じゃないですか。努力が報われた喜ぶ顔見れる場面っていうか。それをわざわざ私にやらせてくれるなんてと思って」

「勘違いすんな!性に合わねぇってだけだ。俺ぁ死神の方がやり易いんだよ」

「ふふふ。そうなんですね」

「テメェ!何がおかしい」

「何でもありません!さ、次行きましょー」

「…っけ」


 ザキルは怒りを噛み殺す様に車のエンジンを掛けた。

次の目的地に向かう最中、カレンから質問が漏れる。


「そういえば、この選定所って誰が作ろうって言い出したんですかね?」

「あぁ?」

「いやぁ何かこう、凄く大きな改革だなぁーって思って。思いついた人大胆だなぁーって思いません?」

「どっかのイカれた理想主義者だろ。数値として評価されねぇもんもきちんと評価する。人として本当に大切なものを見失わないためにってのが選定所本来の発足思念だとよ。さっきのがいい例だろ。同じ数のガキを受け入れても貰える金と評価は一緒、それが大人しいガキ100人でも問題児のガキ100人でもな。だがこの制度があれば明らかに労力が必要な後者の方に高い評価が貰えるってな」

「なぁ~るほどぉ~!」

「めんどくせぇ世の中になったもんだぜ」

「私は素晴らしいと思いますけどー」

「言ってろ。お陰で俺達選定所の人間は仕事に殺されかけてんだよ」

「うふふ。頑張りましょうよ。その”理想”のために」


 こうしてザキルとカレンはどこかの理想主義者が打ち立てた構成の小さな礎を築くべく、次の目的地へと向かって行くのだった。

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