見せしめと啓蒙活動
新人職員のカレンが入所した翌日。
カレンは早速業務に当たっていた。
しかし慣れない仕事にミスを連発し都度ザキルに叱りを受ける日々が続いていた。
「ザキルさん!出来ました。チェックお願いします!」
「あぁ」
ザキルはカレンから受け取った資料に目を通すと、やがてミスを見つけ眉間にシワを寄せる。
「バカヤロウ!ここは半角のスペース空けろって言っただろうが!」
「あぁぁ!!す、すみません!!」
「人ひとりの人生懸かってんだぞ!気合入れやがれ!」
「は、はいぃ!すみませんー!」
ザキルから資料をつき返されたカレンは慌てて席に戻り訂正のため再度パソコンを操作し出す。
その様子を眺めていた他の職員達が小声で会話を始めた。
「ひぃー。やっぱり想像通り鬼教官だなぁ、ザキル君。カレンちゃん可哀想」
「しかしカレンちゃんもめげずによく頑張るよねぇ。愚痴のひとつも言わないでさー」
「が、頑張れ、カレンちゃん!」
一進一退を見せながら必死に仕事に食らいつくカレンの姿を見て職員達は影ながら声援を送っていた。
そんなある日、ザキルは必死に書類整理に奔走するカレンの自席を訪れ外回りへの同行を命じる。
「行くぞ」
「え?行くって、どこにですか?」
「俺達の仕事はただ送られてくる書類待つだけじゃねぇ。積極的に世直しみてぇなこともしねぇといけねぇんだよ。まぁ要は見せしめ活動だ」
「み、見せしめ!?」
「とにかくさっさとついて来い!モタモタすんな!」
「はっ、はいぃぃ!!」
カレンは仕事を中断し慌ててカバンと上着を取ると足早に去るザキルの背中を追って走って行くのだった。
ザキルが運転する車の助手席でそわそわした様子のカレン。
行き先を告げられてないカレンはそれとなくザキルに”外回り”の詳細を聞き始める。
「あの、さっき”見せしめ”って言ってましたけど、その…何か穏やかじゃないですね…?」
「公正な評価で正しい世の中を作るのが俺達のしのぎだ。いくら点数で規制しようがのさばる奴はいるもんなんだよ。選定所が人不足で全国民を常時監視出来ないことを知ってて付け上がりやがる。そんな連中に思い知らせんのさ。”何時何処で俺達選定所が見てるか分からねぇぞ”ってな」
「そ、それって”啓蒙活動”って言うんじゃ…?」
「いーや、”見せしめ”さ。まぁ見てろ」
するとザキルはあるコンビニの駐車場に車を停め降りた。
鬼の形相を携えそのコンビニに入ると突然大声で怒鳴り始める。
「選定所の者だぁぁ!!」
「!!?」
お昼時、客と店員でごった返す店内にザキルの怒声が響き渡る。
全員の注目を集めたザキルはそのままレジ打ちをする男に目を付け一目散へと歩み寄る。
「おい、てめぇが店長か?」
「へ!?あ、は、はい!」
するとザキルはカバンから数枚の用紙をレジ台に叩き付け再び店長の男を睨み付けた。
「おいコラ!テメェの接客態度が悪いってあちこちからクレームが来てんだよ。これが証拠だ!」
「えぇ!?」
店長の男は大きく驚き置かれた資料にかぶりつく。
下がった頭に向かってザキルは顔を近付け迫力を保ったまま警告を告げる。
「給料変わらねぇからってダラついた仕事してっと点数下げるぞコラァ。テメェこの店舗任されてる分際で愛想の無ぇ接客かますたぁどういう了見だ?あぁ?」
ザキルの脅迫を極めた表情に涙目になる店長の男。
その様子を他の店員や客達は怯えながら見守っていた。
「だいたいこれだけのクレームが発生してんだ。当然本社にもいってるはずだろ。なのに会社はテメェに教育的指導のひとつもしねぇのか?あぁ?それとも何か、形式的な始末書や連絡だけで済ませてるってか?どっちみち許される事じゃねぇな。こりゃあ企業のお偉いさん呼び出して話つけるしかねぇなぁ…」
その言葉を聞いた店長の表情は更に青ざめていった。
「そ、そ、それだけはぁ!すみません、本当にすみません!以後改めます!!報告も減点もどうか許して下さい!!!」
「なら次の客から気合入れやがれぇ!!!」
「は、はいぃぃ!!い、いらっしゃいませ!ようこそおいで下さいました!こちら温めは宜しいですか?おしぼりはおいくつお付けいたしましょう?お箸とスプーンはどちらが宜しいでしょうか?」
ザキルの脅迫を受けた男は先程までの不愛想から打って変わり太陽の様な笑顔とハキハキした物言いで接客を再開した。
その様子を暫く観察した後ザキルは店のドアを乱暴に開け店内から立ち去って行った。
一部始終を観察していたカレンは唖然としていたがやがて正気を取り戻り、慌ててザキルの後を追う。
「分かったか?こいつを啓蒙活動って呼びたきゃ好きにしろ」
「は、は、はは、はい…」
「次行くぞ」
こうしてザキルは車のエンジンを掛け再び走り出した。




