弔い合戦
翌日9時、選定所に出所したザキル。
カレンの自席は空席だったが、そこにあるコンピューターの電源が入っている事に気付いた。
近くの同僚職員に問い掛けるザキル。
「おい。カレンの奴ぁ来てやがんのか?」
「あぁ、さっきまで居たよ。外回りに行ったみたいだけど」
「…っち。あの馬鹿が」
ザキルは荷物を置きすぐさま選定所を出て行った。
車に乗り訪れたのはゲンリュウ邸宅前。
ザキルの予想通りカレンはこの日も玄関先でゲンリュウに対する説得を続けていた。
「ゲンリュウさーん!おはようございます~。美味しいお菓子持って来ましたー。よかったら一緒にいかがですかー?」
カレンが中に居るであろうゲンリュウを必死に呼び掛けていると、その背後にザキルが歩み寄る。
「おい」
「わ!びっくりした!…っは!ザキルさん!おはようございます!」
「おはようじゃねぇ。テメェ何でこんな所にいやがる?」
「大丈夫です。ご心配お掛けしました。1日寝たらすっかり熱も引いたので」
「…ぶり返しやがっても知らねぇぞ」
「はい、大丈夫です!」
カレンはいつも通りの元気な表情を取り戻していた。
心の中で安心するザキル。
するとザキルは玄関先を見つめ大声で呼び掛け始めた。
「おい、ジジイ!居るんだろ?聞け!今日は頼み事に来たんじゃねぇ!」
「え?」
ザキルの言葉に反応を示すカレン。
「嫁さんの弔い合戦だ!出て来い、ツラ貸しな!」
「…」
それから数分後、やがてゆっくりと家の中から足跡が聞こえてきた。
扉1枚挟んだ向こう側にその存在を確信したザキルは引き続き言葉を続ける。
「お前の嫁さんは不可抗力の事故なんかじゃねぇ。殺されたも同然だ。今からそのクズ野郎共を地獄につき落としに行く。手ェ貸しやがれ」
そして扉の向こうから静かな声が聞こえてくる。
「…一体どういうことじゃ?」
「やっと聞く気になったか?嫁の仇を討ちてぇならここ開けろや」
それから約10秒後、沈黙を破りその扉は開けられた。
中から出て来たゲンリュウは未だ睨むかの様な猜疑心の目を2人に向けていた。
ザキルはそんなゲンリュウに対し静かに真相を語り始めるのだった。




