「法じゃ救えねぇ連中を全うにしてやるのが俺達選定所なんだよ」
数日後、ザキルの携帯端末に着信音が鳴り響いた。
「俺だ」
<よぉ。お前さんの読み通りだったぜ>
「よし!ザイゼンの野郎は追ってるか?」
<あぁ今目の前に居る。今から来れるか?>
「あぁ」
<よし、位置を送る>
ザキルは電話を切るとすぐさま車に乗り込み端末に送られて来た位置情報が示す場所へと向かって猛スピードで車を走らせた。
やがて到着した場所はとある繁華街。
ザキルはアウトロを見つけ駆け寄った。
するとアウトロは1軒の高級クラブを指し示す。
「あの店だ。中に奴がいる」
「行くぞ」
ザキルとアウトロは店の中に突入して行った。
出入り口でボーイの男に声を掛けられる。
「いらっしゃいませ。2名様ですね?ご指名はございますか?」
睨みを利かせたザキルが言い放つ。
「選定所のモンだ。通るぜ」
「え?!」
ボーイの男がフリーズする中、アウトロが声を掛ける。
「どもども~。今日はちょっとばかし野暮用でね。あ、俺様この選定所様の男と仲良しなの!今度また来るからその時は割引してね」
あっけに取られるボーイをよそに2人は店内へと入って行った。
煌びやかな店内。各座席では露出の高い女性達がそれぞれ男性客の接客をしている。
そんな中、ザキルは目的の人物を見つけ一目散に向かって行く。
その席では1人の男が4人の若い女をはべらせ上機嫌に酒を飲んでいた。
「よぉ。ちょっくら邪魔するぜ」
「ん~?…っひ!!」
目の前に現れたザキルの姿を見て表情を青ざめさせたのはクリス病院医学部長のザイゼンだった。
後ろから顔を出したアウトロが女達に声を掛ける。
「お嬢さん達~。ちょっとここの席空けてくれるかな~?俺達このおじさんに大事な用があってねぇ。大丈夫、安心しなって!今日の分の指名は今度俺様が店に来て4人まとめて面倒見てあげちゃうから~。楽しみにしててねぇ~」
ザキルの迫力も相まって女達は素直にアウトロの指示に従いその場を去って行った。
怯えるザイゼンの隣をザキルとアウトロが陣取る。
ザキルは胸ポケットから葉巻を取り出し口に咥えた。
そしてザイゼンが手に持つグラスを取り上げ中身の匂いを嗅ぐ。
「コニャックかぁ?いい酒飲んでるじゃねぇか。この店ぁ確かチャージ料だけでも数万じゃなかったか?」
「あ、あ、あの、一体何のご用件でしょうか?」
するとザイゼンの肩に手を回しアウトロが耳元で声を掛ける。
「だーいじょうぶ。そう悲しそうな顔すんなって。女の子達はまたすぐ戻って来る。ちょいといとばっかし俺達の質問に答えてくれりゃまたカワイ子ちゃんのセクシーな谷間を拝めるぜぇ。俺も同席していいかな?」
「し、質問?一体何なんだ?大体誰だ君は?」
「名乗る程の者じゃねぇさ。しかしここは良い所だよなぁ。女の子はみーんなレベルが高い。お宅さん毎晩ここ来てんの?ずいぶん羽振りがいいんだねぇ。流石はお医者様」
「アッ、アナタには関係無いでしょ!」
「別に卑下してる訳じゃないって~。バリバリ働いてガッポリと稼いで美味い酒を飲みながらいい女をはべらせるのが男道ってもんですわ。ましてやお医者様、日夜人様のお命を救ってらっしゃるんだ。若いおねぇちゃんのおっぱい肴に高級な酒を飲んだってバチなんて当たりようもないですとも~。いやぁ~ご立派!」
アウトロの饒舌をただ静観しているザイゼン、目線を下げ横耳で聞いているザキル。
そしてひと呼吸おき少し声のトーンを下げたアウトロが再び喋り出す。
「しかしだねぇ。逆にもし仮にその命を奪ってたんだとしたら、そりゃお天道様もお怒りになられるってもんでしょう?」
「何だと?一体何の話だ?」
するとアウトロはポケットから取り出した携帯端末の画像をザイゼンに見せ付けた。
その画像を見た途端、ザイゼンの額には脂汗が滲み始める。
「ア、アンタ!どこからこれを!?」
「アンタん所の資料を色々と拝借させてもらったよぉ。いやぁ大変だったぜぇ。何てったってとんでもない量だったからなぁ。けど聞いてくれよ~、こんなに働いたのにそこに座る選定所のお方は追加料金を払ってくれないって言うんだぁ。この極道面が報酬を上乗せしてくれないからその分はアンタから頂くしかねぇよな。ってことで、このコニャックは俺様が頂くぜ」
アウトロはテーブルに置かれているグラスの酒を一気に飲み干した。
「ん~。さすが。芳醇な香りと爽快な喉越しがたまらないねぇ~」
すると今度はザキルが静かにその口を開き始める。
「ザイゼンさんよぉ。俺ぁ今回の件にゃちーとばっかし頭にきてんだよ。頼むからこれ以上怒らせないでくれ。大人しく吐いちゃぁくれませんかぁ?」
「な、な、何のことでしょうか?」
「おかしな話じゃねぇのか?調べじゃゲンリュウの嫁が亡くなった日もその前後数か月も医者が不足してたって記録はどこにも無ぇ。こいつぁ一体どういうことだ?あぁ?」
「し、し、知らない!私は何も知らない!記録の事なんていちいち管理してない!それに、その辺は現場の人間でないと分からない!」
「ほーう、そうか。いいだろう。んなら明日から毎日テメェの病院の中で徹底的に聞き込みしてやるぜ。報道連中が群がる程派手に暴れやろうじゃねぇか」
「こ、こんな捜査不当だ!この証拠なんて何にもならない!」
「捜査?証拠?勘違いすんじゃねぇぞ。テメェ言ってたよな?俺達ぁ警察じゃねぇって。その通りさ、俺達は俺達の基準で勝手にテメェ等を査定する。証拠の法的効力なんて知ったこっちゃねぇんだよ」
「うぅぅ…」
「違ぇねぇ事実がそこにあんのに世の中ぁ世間体だ法律だのって色々うるせぇからな。例えばだ、遺言ってやつぁ映像じゃ効力を発揮しねぇって話しってるか?きちんとした書面でないと法的効果を発揮しねぇ。目の前で本人が喋ってるってのにだ。そのせいで遺産を相続出来なかった哀れな奴もいやがる。法じゃ救えねぇ連中を全うにしてやるのが俺達選定所なんだよ」
「…くぅ、うぅ…うぅ…」
ザキルは加えていた葉巻の先端を歯で噛み千切りザイゼンの足元に吐き捨てると、その腕力を持ってザイゼンの胸倉を掴み上げその任侠面を至近距離まで近付けた。
「大方予想はついてんだ。点数根こそぎぶっこ抜かれたくなかったら吐きやがれ!!」
「うぅぅ…うぅっぅ…」
ザイゼンは観念したかの様に大きく首を落とし、真相を語り始めたのだった。




