真相の匂い「ひどく匂いやがる…」
翌日の午前9時、出所時間になってもザキルは選定所の中に姿を見せていなかった。
外回りが多いレベル1の同僚職員達は特段気にする様子もなくそれぞれが自身の業務を開始していた。
その頃ザキルはとある病院の受付に居た。受付の看護師し声を掛ける。
「選定所のもんだ。偉いさん出しな」
その後、会議室の様な場所に案内されたザキルは窓から外を眺めながら先方の到着を待っていた。
やがて60代程の白衣を着た男が部屋に現れた。
「お待たせ致しました!医学部長のザイゼンです!」
「まぁ座りな」
だだっ広い会議室で対面に座り合う2人。
選定所から来たザキルの用件をとても気にしている様子のザイゼンという男。
ザキルは静かに口を開き始めた。
「まずぁハッキリさせときたい。この病院じゃ点数の高ぇ患者を優先して手ぇつけてんのか?」
「えぇ!?」
突然の質問に驚く医学部長のザイゼン。
慌しく口を開く。
「い、いえ!決してそれだけを基準にしている訳ではありません!在籍医師や患者の容態、オペ内容の専門性有無等を総合的に見てオペの順番や診察を判断しております!」
「つまりだ、そいつの査定点数を基準に入れてるってこたぁ否定しねぇ訳だ?」
「えっ…え、えぇ…。まぁ少なからずは。し、しかし、それは貴方方選定所の方針に従っての事です。失礼ながら申し上げますが今は現金至上主義で査定されてるきらいがあるじゃありませんか。つまり、そういった人間を社会では生かすべきという風潮がある。どの病院でもそうです。万が一点数の高い患者さんを救えず選定所に睨まれては我々とて不都合が多い!」
「落ち着きな。別に今日はそれを咎めに来た訳じゃねぇ」
「はぁ?」
「ゲンリュウってジイさんの嫁をここで入院させてたな?」
「!!」
その言葉を受けザイゼンは明らかに顔を引きつらせた。
その様子にザキルも気付く。
「手術が間に合わなくて手遅れになったって話しだが、違ぇねぇのか?」
「え、えぇ。その通りです。急に容態が急変されまして、その時たまたまメスを握れる医者がおりませんでして…」
「話じゃ本来もっと前に手術する予定になってたはずだ。そんなに何度も予定がずれ込んだのか?病院内あちこち見て回ったが、そこまで慌しい雰囲気でもねぇ様だが?」
「と、時と場合です。医療現場では常に想定外のことが起こるものなんです!」
取って付けた様なその場しのぎに強い違和感を感じるザキルは核心的な要求を突き付けた。
「患者の名簿を見せろ。今から10年分遡った分全部だ」
「えぇぇ!?」
ザイゼンはザキルの要求に再び驚きを見せる。
「む、無茶言わないで下さい!あまりにも量が膨大だ」
「時間は掛かってもいい。とにかく用意しろ」
「…いえ、お断りします!何をお疑いかは存じませんが、これは患者のプライバシーにも関わる問題です。いくら選定所のお方でも裁判所から発行された礼状も無い上でそんな権限は無いはずだ。貴方は警察でもないでしょう!」
「…っち」
ザイゼンの言う通りだった。
選定所でもそこまでの要求を通す権力までは無かった。
渋々病院を後にするザキル。
(間違いねぇ。ひどく匂いやがる…)
車に乗り込むとすぐさま電話を掛け始めた。
「俺だ」
<おー!ザキルか?どうした?何か用か?>
電話の相手はアウトロだった。
「頼みたい事がある」
<どんな事だ?>
ザキルはアウトロに要求内容を伝えた。
<おーけーおーけー。お安い御用さ。んじゃ貸しひとつプラスな?>
「ほざけ。このネタがアガリ出してねぇんだ。取り引きの延長上だろうが」
<わーったよ。古いよしみでそういう事にしといてやるよ。で、いつまでだ?>
「出来るだけ早くだ」
そう言うとザキルは電話を切り車のエンジンを掛け選定所へと走り去って行くのだった。




