「この制度で0点になるにゃ悪魔を超えないといけねぇってこった」
必要手続きを終えタケシという子供を施設に届けた後、ザキルとカレンは再び車で何処かに向かっていた。
車中ではカレンが話題を切り出す。
「ザキルさん、子供お好きなんですね」
「あぁ?」
「さっきタケシ君を見る時のザキルさんの顔、なんかとっても優しかったですよ」
「…小娘ぇ、おちょくってってとバラすぞコラァ」
「うっふふふふ」
もはや自身の脅しには一切怯えなくなっているカレンを見て苦虫を噛み潰した様な表情を見せるザキル。
ふとカレンから制度についての疑問が沸き上がった。
「そういえば!もし0点になっちゃった人ってどうなるんですか?」
「あぁ?」
「聞いたこと無いですけど、やっぱり結構厳しいことになっちゃうんですかね?」
「…厳しいなんてもんじゃねぇ。もはや人間としての生活は出来なくなるぜ」
「えぇぇ?どういうことですか?」
「万が一0点なんかになっちまったら就職すら出来ねぇ。そんな奴雇う企業があると思うか?」
「確かに」
「部屋も借りれねぇしクレジットカードもパスポートも作れねぇ。金だって借りれねぇし関わろうとする人間もいなくなる。事実上の飢え死に宣告みてぇなもんだ」
「ひやぁ~、大変!今まで0点になった人ってどれ位いるんですか?」
「前例はねぇ」
「え?そうなんですか?」
「制度をよく考えてみろ。悪事に対して点数差っ引くばかりじゃねぇ。いいシノギにゃ加点だってしなきゃならねぇだろうが。そいつがどんな悪党だろうが例えばどっかで働いてりゃその分は考慮されるし、細けぇこと言やぁ”親より先に死ななかった”なんてのも加点対象になるご時世だ」
「ほへー!なぁ~るほどぉ~」
「この制度で0点になるにゃ悪魔を超えないといけねぇってこった」
そうしているうちに2人はとあるスラム街に到着していた。
車を降り2人が向かったのはとあるバー。
中に入るとそれぞれが吹かすタバコの煙で景色はぼやけおり、いかにもガラの悪そうな客層で店内には不穏な空気が流れている。
「ザ、ザキルさん、なんか怖そうな人達ばっかりですけど…」
「黙ってついて来い」
するとザキルは店の一番奥にあるVIPルームと思しきドアをノックした。
鍵が開錠された音が聞こえドアが開くと躊躇無く入って行くザキルとついて行くカレン。
すると突然見張りのギャング系の男達から頭に銃を突き付けられたザキルとカレン。
「ひぃぃぃ!!?」
「…」
カレンが酷く驚く横でザキルは一切表情を動かさず佇んでいる。
部屋の中央ではテーブルの上でトランプゲームを楽しんでいるギャングの集団があった。
やがて真紅のスーツに身を包んだ男が立ち上がりゆっくりとザキルの元へと歩いて来る。
「オイてめぇ。一体何の用だ?どこの組の物だ?あぁ?」
ザキルが睨みを利かせ答える。
「選定所の者だよ。随分な挨拶かましてくれんじゃねぇか。この狼藉で点数差っ引くぞ?あぁ?」
全身を震わせながら行く末を見守るカレン。
「ザ、ザ、ザ、ザキルさぁぁぁん!!!」
「おぉ~?そのお譲ちゃん手土産に俺達と取り引きでもしようってのか?」
「テメェ等にそれ相応の用意があるんなら考えてやってもいいが?」
「えぇ!?えぇぇぇぇ!!?」
驚くカレン。
やがて至近距離まで近付いたギャングの男とザキル。
互いに睨みを利かせ合いながら緊張の糸が張り詰め極まった、その時、
「っく、くくくくくく」
「ふふふふふふ」
「へぇ!?」
「ひゃーっはははははははははは」
突然ザキルとギャングの男達は高らかな笑い声を上げ、それと同時に2人に銃を突き付けていたギャング達もそれを懐にしまい笑みを見せ始めた。
「ったくテメェは相変わらずこの流れ好きでいやがんなぁ。映画ヲタクに付き合うのは骨が折れるぜぇ」
「へへへへへへ。あの映画今度続編の製作が決定してご機嫌って訳よ。元気か?ザキル」
「おうよ。相変わらず趣味の悪ぃスーツ着てやがんなぁ、アウトロ」
先程の緊迫が2人の芝居だったとカレンが気付いたのは約5秒後の事だった。
「あ、あ、あの、その、お、お2人って…お、お知り合い、なんですか…?」
「かっはは。ちびったか?カレン。こいつぁ俺が売人やってた時の連れだ。今じゃ情報屋として持ちつ持たれつよ」
「は、はは。そ、そうなんですね…」
「ザキル、このお譲ちゃんは?」
「選定所の新人だ。今は俺がお守りしてんだよ」
「そーか。お譲ちゃんも運が無いねぇ。まさかこんな天下の悪人面の大悪党の下でしのぎせにゃならんとは。変なイタズラされてねぇか?」
「ほざけ。悪党はどっちだ?それに俺ぁロリコンの趣味は無ぇんだよ」
「ひひひひひひ。まぁ立ち話もなんだ。座りなよ」
そして2人はアウトロと呼ばれたギャングのボスと共に部屋奥のソファに腰を下ろした。
早速ザキルが話を切り出す。
「で?どんな調子だ?」
「あぁ、こいつだ」
アウトロは手に持っていた数枚の用紙をザキルに手渡した。
目を通すザキル。
「細々したものが多いが、いくつか大学病院での黒い噂や警察組織内での搾取が上がってる。どれも選定所が活躍出来そうなグレーなヤマばかりだな」
「そうか。この前の情報も大方そのままだった。相変わらず使えるなテメェは」
「そんじゃ、そっちも頼むぜ。俺達の点数の事」
「任せろ。カタギにだきゃ手を出すんじゃねぇぞ?」
「分かってるよ。安心しな」
「よし、行くぞカレン」
「は、はいぃ!」
「何だもう行くのか?せっかく可愛い子ちゃん連れて来たんだし1杯やってけよ」
「アホか。こちとらまだ仕事中だ。天下の選定所に飲酒運転させるつもりか?」
「また今度ゆっくりしていけよ?その時はちゃーんとその子も連れて来る様にな!あ、お譲ちゃんカレンちゃんだっけ?そのスカート、もう少し短くてもいいんじゃないかな?」
「は、は、はははは」
こうしてザキルとカレンはバーを出て車に戻った。
未だ心臓の鼓動が鳴り止まぬカレンはザキルに声を掛ける。
「ザ、ザキルさん、本当に裏社会でお仕事してたんですね!」
「だったら何だ?」
「いやっ、あの。ザキルさんのことがよく分からないとうか。ザキルさんはどうして選定所で働く事にしたんですか?」
「決まってんだろ。金と権力さ」
「えぇ!?そうなんですか?」
「当然だろ。男が仕事する上でそれ以上の理由なんか無ぇ。この仕事が一番の近道だ。政治家の連中でさえ俺達には低い腰を見せやがるからな」
「そ、そうなんですねぇ~」
「よし、今日はこんなもんだろ。戻るぞ」
「はい!」
ザキルとカレンは選定所に戻り着いた。車を降りたカレンはザキルに向かってハキハキとした声で礼を述べる。
「ザキルさん!今日は本当に色々と勉強になりました!ありがとうございます!これからも宜しくお願いします!」
「あぁ?…おう」
ザキルは自席へと戻って行くカレンの後姿を不思議そうに眺めていた。
(…変わった女だ。あそこまで人見しらねぇ奴も珍しいぜ)
やがてザキルも自席へと戻りその日の報告書類を作成し始めるのだった。




