三色 新たな敵
「紅蓮さん大丈夫ですか?」
自室で眠る紅蓮の傍らに、不安な表情を浮かべる白。
「大丈夫だ。少し力を使いすぎて疲れただけだ」
彩呀の言葉で白は安堵の表情を浮かべる。
「そうだ!美味しいものを沢山作ってきます!」
白はそう言って部屋を出ていく。
「しかし、しばらくは力を使えないか。
六魔将…それほどの強さを持っているとは」
部屋を出て事務所へ戻ると、中には蒼司達が集まっていた。
「社長、紅蓮大丈夫なの?」
「少し疲れただけだ。安静にしておけば大丈夫。
だから、静かにな翠」
「はーい!」
「しかし、奴等の目的は何なんだ?」
黄理の言葉に全員が沈黙する。
「今は考えても仕方ないだろう。白を狙っているなら、守ればいいだけだ」
「カッコいいね蒼司」
「茶化すな藍麻」
彩呀はデスクに戻り、イスに座った。
「魔の事も大事だが、来週末のライブもしっかり頼むぞ!」
蒼司達は頷き、事務所を出ていく。
「蒼司どこ行くんだ?」
一人下に降りる蒼司に藍麻が声を掛ける。
「ライブ会場の下見だ。
奴等がいつ襲って来るかわからないからな」
「じゃあ、僕も行こうかな」
「ナンパはするなよ」
「了解!」
二人はライブ会場へと向かい、会場に着くと二人に気付き、一人の男性が話し掛けてきた。
「やあ!蒼司君、藍麻君!今日はどうしたんだい?」
「総監督、お疲れ様です」
「お疲れ様です。今日は可愛いアシスタントいないんですか?」
「藍麻!」
「あははは、あいにく今日は別の現場に行っててね」
「それより、実は魔の事なんですが」
蒼司の言葉に、総監督から笑顔は消え、厳しい顔付きになる。
「そこが問題なんだよ。前より魔が凶暴化してるって噂が広まっていてね。
君達がいるから安心出来るんだが、ライブが中止になっちゃうだろ?どうしたものか…」
「俺達の歌を聴きに来てくれているみんなに申し訳ないですからね」
「じゃあ、歌いながら戦っちゃえば良いんじゃない?」
藍麻の言葉に二人は驚く。
「簡単に言うが、戦いながら歌うなんて危険だぞ」
「練習すれば良いんじゃない?」
「それはそうだが」
「いい…いいよ藍麻君!
メンバー分の巨大モニターを設置して、映像は無人カメラを使えば出来る!」
「はぁ…練習はしてみますが、上手くいかなかった時は知りませんよ?」
「大丈夫大丈夫!じゃあ本番頼むよ!」
総監督は生き生きとして去っていく。
二人は事務所へ戻り、全員に事の次第を伝え、翌日から特訓が始まる。
「ふぅ、ハードだが問題ないな!」
「黄理、水分補給」
「サンキュ、紫劉」
「皆さーん!」
全員が休憩していると、手を振り駆け寄る白と紅蓮がいた。
「皆さん、お弁当作ってきましたよ」
「うまそう!」
「もう動いても大丈夫なの?」
「ああ、動かないと体が鈍るからな」
翠の頭を優しく撫でる紅蓮。
「だが、あまり無理はするなよ。力の方はどうだ?」
「ありがとう蒼司。力はまだ使えない…使おうとすると激痛が走ってしまうんだ」
「筋肉痛みたいたなもんだよ」
「上手いこと言うな藍麻」
「あれ」
紫劉が全員に指差した方を見るように言うと、お弁当を一人食べている黄理がいた。
「黄理!」
蒼司の言葉を無視し食べ続ける黄理を見て、全員が慌てて食べ始める。
そしてライブ当日、全員がステージの脇で円陣を組んでいた。
「さあ、みんなの心を俺達の色で染める!
We are… 」
「COLORS!」
声を揃え全員がステージへ進んでいく。
ライブは順調に進み、最後の一曲だけになった。
「よし!このまま問題なく」
「大変です!魔がこちらに向かっているそうです!」
スタッフが慌てて駆け寄り、ステージへ行こうとしていた六人を呼び止める。
「ラストで来るとはな…好都合だ!」
「黄理油断禁物」
「紫劉の言う通りだ。
俺はステージに残るが、みんな頼んだ」
「紅蓮の分まで僕頑張る!」
「最初から全力でいくぞ」
「僕の可愛い子達には触れさせないよ」
全員はステージへ上がり、紅蓮を残して五人は散っていく。
観客がざわつき、巨大モニターに五人が映し出されると、歓声が上がる。
「心の空へ~!」
紅蓮の歌い出しで、会場は更に盛り上がった。
「暗闇に覆われた~そんな世界に一滴~流れ落ちる君の声」
蒼司の周りにいた魔が一瞬で凍り付く。
「届く事なく消えていく~けれど君は叫ぶ事を止めない」
藍麻は回転しながら、高圧の水で魔を切り裂いた。
「こんな世界に何を伝えたいの?~君の胸に耳を当て、鼓動から伝わる想い」
空へ紫の弾を撃つと、紫劉の周囲に雷が降り注ぐ。
「あの綺麗な空を見たい~全てを優しく包むあの青を~そして僕は君の声を、想いを世界中へ伝えていく」
手にした石の槍を付きだし、魔の群れへ突き進む黄理。
「いつしか君の声は~消える事なく世界に広がり~歌となり闇を壊す」
無数の竜巻で、魔をバラバラにしていく翠。
「僕を探して叫ぶ君へ~今、僕の想いを伝えるよ~心の空へ~」
蒼司達は順調に魔を排除し、ステージへ戻ろうとする五人の前に、苦しむ人の顔が浮かび上がる羽を持った女が現れる。
「うぬらがダフムの言っていた戦士か。わらわは六魔将が一人、麗毒のシュメル」
五人へ妖艶な笑みを向けるシュメル。
「六魔将…」
「ダフムにあれほどの手傷を負わせるとは、なかなかやるでわないか。
奴め怒り狂っておったわ!フフフフ」
「お前もそうなりたくなければ消えるんだな」
「おお、怖い怖い。
じゃが、あまり舐めぬ方がよいぞ」
シュメルは舞うように空を飛び、風に乗って光輝く小さな粒が降り注ぐ。
「なんだ?」
「みんな触れちゃダメだ!」
翠の言葉で全員が下がり、風を起こして、粒を払う翠。
粒が木や地面に付くと、一瞬で腐敗していく。
「木が…地面も毒沼みたいになってやがる」
「黄理、あいつに直接攻撃は禁止だぞ」
「そんなの蒼司に言われなくてもわかってるぜ!」
黄理が地面を殴ると、シュメルの下から尖った地面が上がり、シュメルを突き刺す。
「よっしゃ!」
「クックックックッ…毒は腐らすだけではないぞ?」
突き刺したと思った地面が溶けていき、シュメルは傷ひとつ付いていなかった。
「くそっ!」
「全員で一気に片付ける!」
蒼司の言葉で、全員が一斉に攻撃する。
攻撃は直撃し、地面に落下するシュメル。
「やったか?」
蒼司が一歩踏み出した瞬間、羽がシュメルを覆い、膨らんでいく。
「おい、なんかヤバそうだ!」
黄理がそう言って、全員がその場から離れようとした時、シュメルを覆った羽が弾け、周囲に毒の雨が降り注いだ。
「黄理、土で壁を作れ!それを覆うように藍麻の水を巡らせて俺が凍らせる!」
黄理が地面に触れ、土でドーム場の壁を作り、外と内側に藍麻が水を巡らせ、蒼司が一瞬で凍らせる。
「あ、あぶねぇ…翠」
「黄理わかってるよ。…もう大丈夫みたい」
風で周囲を探った翠の言葉で、ゆっくりドーム場の壁を崩していく黄理。
「こ、これは!?」
全員の目に映ったのは、一面に広がる毒の世界だった。
「うぬらの攻撃に驚いて羽が暴れてしもうたわ」
「驚いて…効いてないのか?」
その頃、ステージでは映像が消えてしまい、観客がざわめき始める。
「何が起きてるんだ…このままじゃ」
紅蓮はステージ脇にいるスタッフに曲を流すように指示した。
曲が始まり、観客が再び歓声が上がる。
「燃え咲き誇れ灼熱の華~」
一方、蒼司達は、力の差に戸惑っていた。
「しかし、わらわの相手をしていて良いのか?」
「どういう事だ」
「向こうは魔で溢れておるぞ」
全員がライブ会場の方を向き、目を凝らすと無数の魔がいる事に気付く。
「しまった!急いで戻るぞ!」
「させぬ」
シュメルが息を吹くと、毒の竜巻が現れる。
「くそっ!翠、紅蓮に連絡だ」
「うん!」
風に声を乗せ、翠は紅蓮に全てを伝えた。
「(そうか…わかった)」
すると、紅蓮は何かを決意し、回転して止まると同時に右手を掲げると、会場の外が炎で包まれる。
「あいつ何を!?」
「彩呀社長、紅蓮さんはまだ」
「まだ痛みがあるはずだ。何を考えてる」
紅蓮を心配そうに見つめる彩呀と白。
「あのばか!」
紅蓮の炎を見て、五人は駆け出していた。