1 エピローグからの
新連載開始です。
よろしくお願いいたします!
随分と長生きしたものだ。
沢山の人に囲まれながら、老婆は自分の年を数える。
年はいくつだったか。八十を過ぎて、九十近かったはず。産まれは覚えているけれど、今の年がわからない。
今の西暦は何年だったか。年号を三つほど跨いだ気がする。
見慣れない部屋。ベッドで横になっている自分を囲む人たち。すぐに名前は出てこないけど、大切な家族だとちゃんとわかっている。顔も名前もわかっているのに、すぐ一致させることができなくて、全員の名前を呼んだ。
夫には先立たれたけど、子供たちが居てくれた。
孫にも恵まれた。
何ならひ孫だって、可愛い顔を見せてくれた。
残念なことに日付を忘れてしまったけれど、産まれた瞬間は覚えている。いつだって、産まれたての命の輝きのなんて尊いことだろう。
今、全員ではないけれど、愛しい家族に囲まれている。
枯れ枝のような手に、腕に、縋る様な熱を感じる。
ああ、なんて。
なんて幸せな、終わりだろう。
音は遠く、視界も悪く、覚えていられるものはほとんどない。
今日がいつで、ここが何処で、自分がいくつなのか。
傍に居てくれる家族の顔も名前も、惚けた頭では一致させることができない。
それでも、枯れ木の様な自分の手を握る温もりだけはしっかり伝わって来る。
随分長生きをした。
ああ、幸せだ。
勿論辛いことはあったし、楽しい思い出よりも失敗ばかりの思い出が先に出てくる。
それでも、ああ――幸せな終わりだ。
だってこんなに暖かい。だってこんなに穏やかだ。
さっきまであんなに寒くて息苦しくて、ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返していたのに。
死に怯えて、喚いて、泣いてしまうかと思ったのに。
「お母さん」
子供たちの声がする。
どうして泣いているの?
もういい年した大人なのに。子供に、孫に笑われてしまうよ。
「死なないで」
……やだねぇ、くそ婆なんて暴言を吐いたその口で、そんな可愛いことを。
ああ幸せだ、幸せだ、私は本当に幸せだ。
私の手を握って泣いている我が子がいるのに、そんなことを思う私は母親失格かしら。
未練が無いとは言わないわ。どれだけ生きても我が子が可愛い。孫やひ孫がとても可愛い。
彼らが成人して自立するところを目に焼き付けたい。もっともっとと生にしがみ付きたい。
でもね、私はもう十分生きたのよ。
もっとなんて言い出したらキリがない。
私は十分生きた。
この未練に縋りつくには、年を取り過ぎている。
欲張り過ぎちゃいけない。
だから、この手は握り返さないわ。
暖かくて暖かくて、泣いて縋りたくなるほど愛おしいけれど。
さようなら、私の可愛い子供たち。
さようなら――――……。
「おめでとうございます! 可愛い女の子ですよ!」
「ああ…! トニョ! 私のトニョ! 抱いて頂戴。私達の宝物よ!」
「ああアダ…! 愛しのアダ! よく頑張ってくれた! なんて素晴らしい! 産まれてきてくれてありがとう、私達の宝物!」
「おぎゃ……」
……神様。
死んでから産まれるまでの期間が短すぎじゃないかしら??
終わったと思ったら即開始。




