王宮からの使者
「王宮からの使者です」
私は思わず立ち上がった。
なぜなら、ついさっきまで王のことを考えていたからだ。
「シオ、案内して」
「はい」
とシオは短く頷きながら返事をするといつもより速足で歩き出した。
私はその後に続く。
廊下を歩きながらも、頭の中は落ち着かなかった。
カイから聞いた話。
王のこと。
そして、なぜ王宮から使者が来たのか。
こないだ婚約の件で呼び出されたばかりだ。
王宮から手紙が届き、こちらが赴くのならまだなんとか分かる。
だが、わざわざ使者が屋敷まで来て話す理由は何なのだろう。
重要な話何だろうがわざわざこの屋敷に出向いてまで。
そんな考えばかりが頭の中をグルグルと巡っていた。
気が付けば、使者の待つ応接間の前へと到着していた。
シオが扉を三度叩く。
コン、コン、コンと。
「失礼いたします」
と言うのと同じタイミングで扉が静かに開かれる。
応接間へと足を踏み入れた私は、先に入口の両脇に立つ二人の護衛に視線が向いた。
ただの伝言ではなさそうだな。
そして、その奥に座る二人の人物を見る。
一人は見覚えがあった。
先日、婚約の件で説明(話)をしてくれていた人だった。
だが、もう一人は知らない。
知らないはずなのに。
なぜだか分からないが、どこかで見たことがあるようなそんな気がした。
「お久しぶりです、玲様」
使者が丁寧に頭を下げる。
綺麗な礼だな。さすが王宮からの人だな。
「本日は重要なお話があり、こさせていただきました」
私は静かに前の席へと着いた。
使者は一拍置いてから口を開いた。
「まず一つ目のお話です」
部屋の空気が少しだけ張り詰めた気がした。
「最近、国王陛下についての様々な噂が流れていることはご存知かと思います」
私は黙って頷いた。
「実は先日の件なのですが、陛下は王宮におられませんでした」
「……」
「そのため、手紙による伝達のみとなっておりました」
やっぱりそうだったのか。
王は本当に姿を消していたのか。
「我々も所在を把握できておらず、捜索を続けておりました」
だからか、窓から見た時に町の人達が変だと思ったのは。
そして使者は続ける。
「ですが、一昨日。無事に陛下を発見いたしました」
私は思わず顔を上げた。
「発見……?」
「はい。現在、陛下はご無事です」
胸の奥にあった不安が少しだけ軽くなる。
だが、使者はさらに言葉を続けた。
「そこでお願いがございます」
「お願い?」
「今回の件は公にはしたくありません」
「……」
なるほど。その為か。
「既に一部では噂になっておりますが、これ以上の拡散は避けたいのです」
だが何か変だというような隠しているそんな気もした。
そんな違和感が胸に残った。
話はその後もしばらく続いた。
その間、私はもう一人の男の方が気になって仕方がなかった。
男は自身をキトと名乗った。
変わった名前だな。とそう思ったが。
話し方も声も穏やかで落ち着いている。
姿も、カイとはまるで違う。
だが、どこか何か引っ掛かる。
そんな時だった。
キトが何気なく手を動かした。
指先を軽く机へ置き、肩をすくめて体を少し前にするような仕草。
その瞬間。
私の脳裏にカイの姿が浮かんだ。
無意識に言葉が漏れる。
「……カイ?」
部屋が静まり返る。
キトは不思議そうに少し首を傾げた。
「カイ?」
「誰のことでしょうか」
自然な反応だった。
演技には見えない。
「私はキトですが」
とそう言って穏やかに微笑む。
私は慌てて首を振った。
「ごめんなさい。なんでもないです」
だが胸の違和感だけは何故か消えなかった。
その後、話は終わり、使者たちは帰っていった。
私は見送りを終え、部屋へと戻ろうとする。
その時だった。
「玲様」
と後ろからシオに呼び止められた。
振り返ると、シオは少し迷うような表情をしている。
珍しいな。
「どうしたの?」
「先程の……カイという方ですが」
私は目を瞬かせた。
「カイがどうかしたの?」
「その方は、どのような見た目をされていますか?」
あまり、いつものシオらしくない質問だった。
どこか落ち着かない様子にも見えた。
「灰色の髪かな」
私は思い出しながら答えた。
「全体的に灰色で、少しだけ黒が混じってる」
シオは黙って聞いている。
「目の色はシオに少し似てるかも。でも全然同じじゃないよ」
「……そうですか」
「それと、外套を着てたかな」
シオは話を聞き終わると僅かに目を伏せた。
「ありがとうございます」
「知り合いなの?」
と私が尋ねる。
だがシオは小さく首を振った。
「いえ。少し気になっただけです」
そう言うと、それ以上は何も語らなかった。
その日の夕方。
鴻が屋敷へと戻ってきた。
使者が来たことを聞いた途端、表情が険しくなる。
「どういうことだ」
低く重低音が少しある声が響く。
「王宮の使者が来ただと?」
「うん」
「なぜ俺に知らせなかった」
私は困ったようにシオを見る。
シオも少し考えるような素振りをしてから。
シオは静かに頭を下げた。
「申し訳ありません。鴻様は遠方へ向かわれておりましたので」
鴻は大きく息を吐く。
「まあ、それは仕方ないか」
腕を組みながら天井を見上げる。
「今回の件はよしとしよう」
そう言ったものの、その表情はあまり納得しているようには見えなかった。
王。
キト。
カイ。
そしてシオの反応。
新たな疑問だけが、静かに増えて積み重なっていくのだった。




