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第17話 おまけ。長い夜。

「ジス!!大変よ!!授業を受けている場合じゃないわ!!!」


バーン、と開かれたドア。

午後の経済学の授業中、珍しく母がアカデミアの校舎に乗り込んできた。

ここのところおとなしかったから、久し振り。


目を真ん丸にして驚いている教授に詫びを入れてから、母と教室を出る。


「どうしましたか?お母様?今日は公爵家のお茶会に行っていたんじゃないんですか?」

「ど、どうもこうも…アリーが出て行ってしまいましたわ!!セリアが泣きながら出ていくアリーを見て、すぐに連絡をくれたのよ!」

「え?」

「何をしたの?ジス?」

「な、なにもしていません!!どこに行ったんですか?なんで?泣くようなことがあったんですか?」


「ぐずぐずしないで探しなさい!!」


走り出す。

どこ?実家に帰るなら停車場?高等部の友達のところ?何て言ってたっけ、その子の名前…。

高等部に行ってみたが、入館した様子はない。

どこ?停車場?


下町の停車場に急ぐ。

「すみません。黒髪の女の子を見ませんでしたか?このぐらいの背格好で、」

乗合馬車を待っていた親子連れや、おばあちゃんや職人ぽい人たちに聞いて回る。

「女の子?それくらいの帽子をかぶった少年なら、少し前に、ごろつきみたいな男たちに絡まれて…」

「ど、どこに行きましたか?」

「向こうの路地に連れていかれたよ。知り合いっぽかったけど?」


ごろつきの、知り合い??


おばあちゃんに聞いた路地を曲がる。

まだ明るいうちから開いている路地裏の酒場?その先は行き止まり。


連れ込まれた?血が引く。指先が凍るように冷たい。

酒場のドアを思いっきり開ける。


カウンターに座る見慣れた後ろ姿。足元にはうなりながら転がる男たち…。

「アリー!!」

強面の店主が救いを求めるようなまなざしで僕を見る。

「お願いです!お代はいりませんから、その子を連れて帰って下さい!!!」


「おい。おやじ。もう一杯。」


箒の柄を握りしめながら、アリーが静かに酒を飲んでいた。




*****


「あれ?…お父様、お母様。短い間でしたがお世話になりました…。」


待たせていた馬車に乗せて、屋敷まで何とか運び込む。僕に…触られることをかたくなに拒んでいる。泥酔しているのに…。

領地から急いで戻った父と、あちこち探しまわっていたらしい母が、アリーの手を取っている。


「どうしたの?アリー?何があったの?ジスが何かしたの?」


「何か…した?いえ、何にもしてもらっていません。日替わりで女の子とキスしてたくせにねえ。へへっ。なあーーーんにもです。」

「・・・・・」


酔っ払い…。


セリアが運んできた水を、美味しそうに飲んだ。


「・・・すみません、もともと2年の約束なんです。ジスランちゃんは良い子なので、ちゃんとお母様の言いつけを守って…王女様と結婚するんです。おめでとうございます。」

「は?」

「・・・わ、私だって…お父様とお母様がさみしくないように、子供の5人や6人は産もうと思ってましたよ?そしたら、さみしがってる暇もないでしょう?えへへっ。そしたら…先を越されちゃったんです…。」

「え?」


「・・・も、もともと、そういうんじゃないんです…すみません…。なんだかジスの隣もこの家も居心地がよくて、このまま続くのかと、夢を見てしまいました…。ほんと、分不相応な…ご、ごめんなさい…。」


泣き出したアリーに手を伸ばすと、触らないで、と拒否された。


「触らないで!!王女様を抱いたあんたに、触られたくなんかない!!あーーーん。」


「え?」



セリアが侍女を2人連れてきて、なだめながらアリーを部屋に運んで行った。付いて行こうとすると、


「ジス?話し合わなければいけないことがあるようだね。座りなさい。」


・・・と、父と母に椅子を勧められた。



*****


「どういうこと?王女と寝たの?で、子供ができた、と。」

「あの子の話からすると、そういうことみたいですわね。」

「やったのか?ジス。本当なら…責任を取るしかないな。」

「・・・・・」


黙らないで!お母様!やってませんから!!


「やってませんから!!この前の舞踏会で言い寄られましたけど、婚約者がいるからとちゃんと言いました。あんまりしつこいのでダンスは踊りましたけど。」

「それだけか?」

「・・・どうしてもどうしてもと手を放してもらえなかったから、2曲踊る気はさらさらないし、指先にキスをして振りほどいてきましたけど?大体、あの夜は一緒に帰ってきましたでしょう??」

「ふむ。まあ、ちょっとの時間でもやる気があればできるがな。」

「あなた?」



「・・・日替わりキスの相手ってのは?」

「・・・それは…アリーに会う前です。上級生に呼び出されて…。別に自分の意志でしたくてしていたわけじゃありません。仕方なく、です。」

「へええ。仕方なく、ねえ。」

「・・・・・」


「まあ。貴方も高等部時代はオモテになってましたもんね。上級生にちやほやされて。」

「は?いや…。今は、ほら、ジスの話だし。」

「本気になった、何ておっしゃった?2つ上の伯爵家のお嬢さまに私、婚約解消しろって言われたこともございましたわね?」

「ま、待て。話を逸らすな。」


「それから、ジス?あなた、何もアリーにしてないの?キスさえ?こんなに長く一緒にいるのに?いつも二人でいるのに?」

「そうだぞ?キスしたい、とか、抱きしめたい、とか…ないのか?アリーが好きじゃないのか?」

「い…だって、お父様が!結婚式まで手を出すなって言うから!ぼ、僕もアリーを大事にしたいし。我慢も大事かなって。今まで軽かった分。」

「・・・あなた?」

「いや、一般論を説いただけだ。一般論を。」


「ジス…じゃああなた、プロポーズもしていないのね?」

「え?でも指輪は渡したよ。」

「なんて言って?」

「え?…お誕生日おめでとうって…。」

「・・・・・」

「・・・・・」


「それで?2年の約束って言うのは?お前の希望通りの王女ってのは?」

「それは…。」

「それは、昔の話ですわ!あの…ごめんなさい。そう思い込んでた時期があったものですから。でもでも、もうアリーがうちの嫁ですし。」

「じゃあ、2年の約束ってのは?」

「それも昔のことなんです。僕はアリーと結婚しますから!!結婚したいんです!!」

「・・・全力で拒否られてるけどな?」

「・・・・・」


はああっ、と大きくため息をついた父が、

「まず、ジス、お前は全力でアリーの誤解を解け。それから、明日にでも王城に乗り込むぞ。」




*****


そっとアリーの部屋に入って、付き添ってくれていたセリアと席を換わる。


「アリー様は二度ほど吐きました。幾分、すっきりしたようです。着替えもしておきましたので。」

「うん。ありがとう。」

「あの…。」

「大丈夫だよ?心配かけてごめんね。」

「・・・・・」


水差しの水が随分減っている。


濡らしたタオルが目に乗せられている。随分泣かしてしまった。ごめんね。

絞りなおして、もう一度のせる。


言葉足らずだったかな?僕の気持ちはわかってくれていると、一番理解してくれていると…甘えてたね。アリーの気持ちまで考えなかった。ごめんね。





*****


目が覚めると、見慣れた部屋。ん?これは、時間の巻き戻しかなんか??

第3王女に呼び出されたのも夢?だったり…だったらいいな。


起き上がろうとしたら、腰のあたりをがっつりと抑え込まれている。

ジス?なんでジス?


よくわからないので、よく眠っているジスの顔をまじまじと観察する。

いつも撫でまわしている金色の癖のある髪。長いまつげ。すらりと通った鼻筋。

・・・私だけが知らない、綺麗な唇。順番にそっと触ってみる。


あむっ、と指をくわえこまれた。な????

ぱっちりと青いきれいな瞳が私を映す。起きてたの??


「僕は、王女に子供ができるようなことは何もしていない。僕がしたいと思うのは、アリアンだけだよ?」

「・・・・・」

「高等部の頃のことは…ごめん。でも、アリーに決めてから、他の子には絶対にしていない。」

「・・・・・」

「指輪だって…ちゃんと婚約指輪のつもりで渡したのに…。」

「へ?」

「2年の約束は、無しにしてくれる?一生大事にするから、春になったら結婚してほしい。」

「え?」

「何にも言わなくても、アリーが僕の事一番理解してくれてると思ってた。これからは何でも言うし、我慢もしないからね?」

「ん?」

「体調は大丈夫?これから…シテもいい?」

「はい??」


さっきから…髪やおでこや鼻先や…キスが降っておりますが…。


「ジスラン?」



「はーーーーい。お取込み中失礼します。ささっ、アリー様は湯あみでございます。坊ちゃまもお支度を始めてください。王城に11時だそうですよ!!!」


「王城??」


バタンとドアが開く。

がばりとジスランが引きはがされる。セリアさん…強いわ。

問答無用で、部屋から出されている。



「あ…。やられた。」

「え?」

「ドレスを選びなおさなくちゃあああああ!!!」


セリアさんの絶叫がお風呂場に響く。


湯に入ろうと寝間着を脱いだ私のからだ中に、花びらが散っていた。


・・・え???





















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