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大人たちだけで盛り上がってます。疎外感ハンパないです。

「新美先生」

「はい、どうしましたか?」

 娘としての勘は当たりました。先生と口にした途端、母は目をぱちくりさせています。わたしと新美先生を、交互に目玉が動きます。楽しいです。

「最後まで残って、撃って倒しました。母が『バカ』と暴言を放ちました」

「――最初に倒されたの、私です」

 話かみ合わない。新美先生は、後頭部の手を置きながら、自嘲気味じちょうぎみに笑っています。母は無言になり、わたしと新美先生のやりとりを、情報を逃さないようにと、盗聴しています。

「お母さん、わたしバカなの? 新美先生、うちの高校で書道の先生で、撃ち合い部顧問だよ。わたしをバカと呼んだら、ギルド長に失礼でしょう」

 母は、目を限界まで開いてから、ゆっくりまぶたを通常モードにします。知らなかったんだ。わたしは、試合に負けても、母に情報で勝てて、うれしいです! エヘンと咳払いをしてから、母の前で、手を腰の後ろ組みます。

「お母さん、新美先生と、知り合いなの?」

 母の瞳には、動揺の色が宿り、視線がビュンビュン泳いでます。わたしが勝った。貸しを作れたぞ。脳裏の片隅で叫びます。

「うん、以前、eスポーツ関係の大会でチームをご一緒させてもらって、新美さ……、先生に、大変お世話になったの」

 今、“さん”とうっかり呼ぼうとして、先生と言い直した! わたしは心のなかで、飛び上がります。腰に両手を当てます。どうた、参ったか。情報量で母に勝り、嬉しいです。

「新美さんが、娘の通う、赤沢学園第二高校で先生をなさっていたのを、存じませんでした。いつも娘がお世話になってます」

「いえいえ、とても素直な生徒さんで、撃ち合い部、入部したばかりですが、とても熱心に私の話を聞いてくれるんです」

 母、わたしを完全スルーして、邪険に少し肘でどかしました。ムッと頬が膨らみます。許せない。人をバカ扱いしたのです。娘が自分を追い越したら喜ぶべきことです。

 中学で英語の先生が、アメリカに数年住んでいた子に発音で負けたときのようです。わたしが、あの子の立場なら、わざと発音をヘタにします。ここは、会話の主導権を奪うことにしました。

「いつもお世話になってないよ。新美先生、書道の先生で、わたし、教わってないよ。1年の担任でも、副担任でもないよ」

 母は表情を変えず、わたしに、膝を軽く当てました。黙っててと、動作で語っています。

 だって、新美先生、やっと正社員? 教諭になれたって言ってた。しかも、顧問してる、撃ち合い部も、強くないから。職員室での発言力、多分弱いよ?

「撃ち合い部で、娘がお世話になり……」

 お母さんの分からず屋! ムカついてきた。

「タミヤ自動車、撃ち合い部の植田です」

「植田監督、ご無沙汰しています。最近のご活躍も、常々《つねづね》試合をネット観戦して存じております」

 新美先生と話終ったら、植田監督と母が会話してます。頭を下げて、互いに、ゴツンとぶつかれば良いのに。

「おい、お母さん、高名な方なの?」

 怖いお姉さんが、手持ち無沙汰なのか、絡んできました。

「eスポーツ関係の仕事してます」

「そうだったんだ」

 怖いお姉さんは、口を半分開いています。うっかり本当のこと言っちゃった。母は一瞬、ヘンなのに絡まれたのかと、わたし見ました。

「知らない人と撃ち合いしたかったのに、あの人たちが、現実で知り合い同士で、話の輪に入れないから、迷惑ですよね」

 植田監督に聞こえないよう、わたしはひそひそ声です。

「ん? そうか」

「そうですよ」

「あのなー、あたし、一々《いちいち》気にしてねーよ」

「そ、そうですよね」

 母、わたしと怖いお姉さんのやり取り、チラチラ見ています。娘が絡まれないか気にしてるの? いざとなったら、わたし、怖いお姉さんに勝てるって。いつまでも子ども扱いしないでよ。

 怖いお姉さんが、だるそうな足取りで、母に向って行きました。eスポーツ関係の仕事は、お金持ちと勘違いされやすいのです。

 どうしても、びっくりするような賞金を得た選手さんが、ニュースで目立つからです。母はいつも家で、お金ない、お金ない、と言っています。

 娘として、母が暴力振るわれたら心配です。マシンガンをいつでも撃てるよう、ぎゅっと手で握ります。試合終了後に撃つのは、ルール違反でもあり、完全なマナー違反です。ちなみに、試合中の軽い暴言はルール上はOKです。ヘイトスピーチは重い処分がくだされます。どこからが、ヘイトかは、審判が判断します。誤解があった場合は、連盟に説明をしたして、処分なし、もあります。

 処分は、『共トレ』の運営さんから、アカウントを削除されたりします。日本撃ち合い競技連盟から、除名処分を受けたりします。でも、誰かを、特定されればです。

 連盟は、捜査機関でないので、不良プレイヤーの特定は難しいケースも残念ながらあります。連盟の処分は怖い。しかし、母を守るためなら……。

「ねえねえ、ねえねえ」

 わたしは、新美先生の背中越しに、怖いお姉さんをじっと見ていました。背中から、ネエネエ先輩の声がしますが、気づかないふりです。

「ねえねえ?」

 指を肩に置かれたので、渋々、ネエネエ先輩に顔を巡らせます。

「先輩どうしました?」

「新ギルド副長と、ギルドのNPCが話したがってるの。セバスチャンや、NPCたちと話してあげようよ」

 ネエネエ先輩は悠長ゆうちょうな表情をしています。ギルドのNPCたちは、山小屋の前で、定規で測ったかのように、横一列で整列しています。

 怖いお姉さんは、ネエネエ先輩に弱い。わたしが、撃ち合い選手として処分をされないよう。ネエネエ先輩に託すのもありです。

「先輩、もし、あの怖いお姉さんがわたしのお母さ……、母に指一本でも触れたら、止めてくれますよね」

「え、大人の皆さん、仲良く話し合ってるよ」

 先輩と視線の先が重なれば、円になって談笑しています。怖いお姉さんまで、屈託のない笑い顔。まるで、良い人のようです。母は、撃ち合いのコーチなので、お金を貰わなければ、技術を教えません。

 ですが、親しくなければ別です。ゲームログアウトしたら、怖いお姉さんに無料で技術を教えないよう、母に伝えることにします。

「ねえねえ、セバスチャンやギルドNPCのトコ行こうよ」

「はい、先輩」


***

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