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敵はあの人でした……。

 怖いお姉さんとネエネエ先輩は、セバスチャンとモニカさんの後ろを走っています。みんながダッシュをしても、同じスピードなので、こうなるんですよ。

「面倒だな、責任重くて嫌だな。たかがゲームジャン」 

 わたしは誰にも気兼ねなく、本音を漏らせます。みんなが走る背中に、マシンガンを構えていました。

 最初に倒れたのは、セバスチャンでした。『共トレ』では、マテリアルライフルを撃つのは難しいのです。撃った選手の場所が、ピカッと光り、ゼロカンマ数秒見えるときあるんです。

 三回に一回の割合です。どんなに木の枝が生い茂っていようとも、壁に隠れていようとも、光ります。

 プレイヤー有志が、何百回、いえ、何千回も試した統計上の結論です。

 モニカさんも倒れましたが、光は見えませんでした。見落として、わたしの責任にされたら困ります。必死に目を凝らしながら、森の木々を睨みます。

 ネエネエ先輩も倒れました。怖いお姉さんも倒れました。光は見せません。三階に一回の割合なのに。ランダムはこういうことあります。

 わたし一人になりましたが、この状況で白旗揚げて撃ち合い終了……、できねーよ。

 もう、やけになるしかない!

 わたしは、頭を低くしながら、みんなが倒れた場所へ猛ダッシュです。山小屋のある小高い丘に向って逃げました。時短じたんしなかったのです。1秒でも長く、試合時間を伸ばすためです。

 頑張りましたが、残念ながらを、強調しないと、立場が危うくなるケース多く知ってます。

 撃ってきません。もしかしたら、敵選手は場所バレした勘違いをして、ポジション変更かもです。

 敵陣地に背を向けるようにしました。Uターンしながら、さっき掘った穴の裏側に回りこんでいました。背中を向けて撃たれたら、かなり責められます。撃たれなくて安堵しました。

 マシンガンを肩から吊り下げ、片腕で持ちます。

 片腕で保持して撃つことは可能ですが、両手保持に比べて、命中率はガクンと下がります。

 両手保持の場合30パーセント。片手保持の場合、限りなくゼロパーセントです。ただ、相手選手との距離が間近なら、別です。

 木々の間をジグザグに進みます。下生えをブーツを、幾度か踏みました。なぜか、丘の上に立てました。片腕で保持しながら、マシンガンを連射します。

 どこに撃って良いのか分かりません。ゲーム開始時に乗った軍用ヘリが飛んでいたので、そこに向けてドンドン撃ちます。味方なら弾をすり抜け、HP減りません。弾は重力の関係で、弓なりになって、丘の下の森に落ちて、葉っぱが文字通り、木っ端微塵になります。

「ヤッホー!」

 カイカーン! 森の枝木があちらこちらで折れ、根元から倒れたりしてます。

 弾も1日200発までは無課金で補充されます。しかし、それを越すと、課金するか、翌日まで待つかです。はっきりいって、一分間に650発撃てるマシンガンで、連射すれば200発など、20秒もせず、無くなります。

 すぐ弾がなくなるので、プレイヤーさんは課金して弾を買うのです。200発近く撃ったら、撃つのをやめよう。心で決めます。

 残り10発になりました。顔の前で虚空に、残りの弾数が、ゲージが現れキッチリ分かります。それも、ゲームだからです。引き金を引くのを止めましたが、相手選手は撃ってきません。

 まぐれ当たりしたのかも? でも、確立を計算すれば……。

「降参して欲しいの」

 マテリアルライフルを手にした、相手ギルドの選手さんが、ゆっくり近づいてきます。美人です。余裕の歩みに、勝者のおごりがあります。

「時短で良いですよ。わたしを撃ってください。ですが、わたしが撃って良いといったことは、アイテム使って音声データーに残さず、オフレコでお願いします」

 一応、声は消しても、映像データーとして残る可能性もあるので、マシンガンは相手選手さんに構えています。

「ゲームと分かっていても、娘を撃てるわけないでしょう」

 母なの? 顔や容姿は違います。しかし、話し方や雰囲気が似てます。わたしは頭にカーッと血が上ります。

「お母さん、ドッジボールゲームで対戦したとき、わたしを平気撃ったでしょう。卓球ゲームのときも、球をわたしに当てた」

「あれは、武器でなかったでしょう。ボールだったから当てれたの」

「じゃあ、剣術対戦ゲームでわたしを斬ったのは、あれ完全に日本刀だったよ」

 日本刀を使って、道場内で、斬り合いをするゲームがあります。『ザ・真剣使い。あなたも剣豪オンライン』です。

 木刀や竹刀は、ありません。

「あれは竹刀だと自分に言い聞かせて、振り下ろしたの」

「お母さんが、わたしを弓で撃ったときあったよ」

『ザ・弓使いオンライン』です。すぐにサービスが終了しました。古今東西の弓が登場して、こんなに弓に種類があるんだって、びっくりしました。

 クロスボウと呼ばれる、ヨーロッパ発祥だったけ。機械仕掛けの弓で、母にひたいを撃たれたことあります。

「あった!『ザ・弓使いオンライン』懐かしい」

「思い出してくれた? わたしが小学生の頃。すぐサービス終了したゲーム」

 母の銃が発射されました。撃たれて試合終了ですが、HPが残り1になったところで、注射器が虚空に浮かんでいます。

「お母さんが用意したの、HPゼロになる前に、注射で回復して欲しいの」

「ありがとう」

 左腕の裾を捲くります。宙に浮かぶ注射器を右手で取ります。注射針のカバーを前歯で引き抜きます。

 HP1でも、動けるのです。しかし、腕の動きが遅く、額から嫌な汗が頬の輪郭を流れています。

 腕に自分で注射を打ちます。

「うっ、くっ……」

 針が痛く、薬液で、腕の表面が少しがぷくっと膨れます。1秒も経たず、体が軽くなりました。HPが50パーセント戻りました。

「ごめんね、痛いことして」

「注意! 不正試合の可能性あり」

 唐突に男性の声が響きます。注意カードを手にした審判が、母とわたしの中間地点に、いきなり登場しました。審判は視界を遮らないよう、半透明です。

八百長やおちょうでは、ありません。対戦相手が、わたしの母なのです」

 わたしは、マシンガンを地面に捨てます。後ろ手で、審判にアピールします。

 審判は眉一つ動かさず、首を横に振っています。わたしのアピールは認められません。反則になるのを避けます。

 上体を水平に倒しながら、マシンガンを拾いました。

 慈悲深い顔をして、腕を見ている母がいます。弾丸は審判の額を貫通して、すり抜けてしまいました。母の眉間を撃ち抜きました。条件反射でした……。

「ナイスショット、立派になった……」

 か細くなる母の声がします。両耳を塞ぎます。最後の唇の動きが、バカって形をしてたかな?マシンガンを投げ捨てながら、審判に伝えます。

「審判をわざと撃ってません」

 審判の立ち位置が悪いのです。審判は、いやーな顔をしながら、照明弾を打ち上げました。上空には、“試合終了”の四文字が、描かれます。

 審判の頭を狙ったのですが、わたしの直線上にいた、母を撃ってしまいました。銃とは恐ろしいモノです。


***


1秒くらい目の前が暗くなりました。気がつけば、山小屋付近で、横一列に並んで整列しています。ヘリで移動じゃない。撃ち合い開始はヘリ。帰りはワープ。矛盾してます。運営さんのエラーか、まだヘリ関係のプログラムが不完全もです。

「カサカーさんに負けました」

 新美先生と母が握手をしています。相手チームの皆さん、整列してお互いににこやかに、握手をします。

 勝ち負けは審判の判断です。母がギルド長をするギルドがアピールしたのですが、くつがえりません。口の悪いプレイヤーのあいだでは、NPC審判のエラーとも言われています。

 ギルドがあれば、勝ったギルドは、斉唱することになってます。なお、ギルド歌は、課金かきんが必要です。しかし、カサカーにはギルド歌は、ないようです。

 アニメ版『共トレ』の主題歌が流れ、ギルドがポールを昇って行きます。選手同士が、談笑しあっており、歌をわたししか聞いてません。やはり、主題歌の歌手はアニメ版と違う方です。

 運営さん、安く済ませてます。

「お母さん、運営さんってケチだね」

「それは違うよ。運営さんは少しでも費用を節約して、プレイヤーさんの経済的な負担を、少なくしようとされてるのです」

 敬語で叱られちゃった。周囲にプレイヤーさんがいるので、母がかなり自分を作ってます。学校の保護者参観日に、同級生のお母さんと話すような雰囲気です。教科書的な、ううん、教科“建前”の模範解答が飛び交う場でしょう。

「新美君、立派になられましたね」

「その節は、お世話になりました」

 新美先生が、母に頭を下げてます。しかも、“その節はお世話になりました”です。

 相手が目上っぽいとき、誰でいつお世話になったか覚えてないときの、マジックフレーズ使ってます。

 新美先生を“くん”で読んでるのが、謎です。母の性格なら、少なくともわたしの前では、“先生”と呼ぶはずです。

 また、娘が通っている高校の教師なら、もっと、下から目線で接して、を得ようとするはずです。母は新美ギルド長が、わたしの通う高校の先生と知らないかも?

 話し込む、母と腰が低い新美先生の、会話に割り込みます。

「あの……」

 母は目をしかめていました。人が話している最中に、声かけないでよ。親として子どものしつけ、できてないって思われるでしょう。などと顔に書いてあるようです。でも、あとでビックリするでしょう。

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