審判の合図で試合が開始直後、超長距離狙撃を受けました。
パーンと音がしました。照明弾が垂直に上がって、青い空の中央を、花火のようにピンク色の煙で染めます。
試合開始! と煙で青空に漢字が描かれます。ちなみに、反対側に陣取る、相手チームから見ても、試合開始です。現実で、飛行機が空に絵を描くのとは、違います。
蜘蛛の子を散らす散らすように、バニーガールメイドさん三人組と、迷彩服門番二人組は、森の中に消えます。忍者のようです。穴にネエネエ先輩と、怖いお姉さん、わたしの三人で入れば、かなりきついです。無線機からギルド長の声がイヤホン越しに聞こえます。
〈こちらギルド長。フォーメションDにて、試合を開始せよ〉
わたしは、両手を掘った穴の淵にかけて、顔をひょっこり出します。銃声を聞くためです。目を閉じて耳を澄ませば、木の枝が揺れ、葉が擦れる音がするだけです。
風の流れは頬にふわりと優しく、体の内側に取り込まれているようです。頭を下げました。試合中なので、瞼を限界まで開きます。
穴組の残り二人は、声を潜めてくれています。首を横に振り、特に異常なしと伝えます。
ピシッと大気を裂くような、音がかなり遠くでしました。方角は右側、ギルド長こと新美先生と、植田さんなど、男性プレイヤーがいる方向です。わたしは、無線で伝えます。
「報告、男性陣がいる方向でピシッ音が一回しました」
返事がありません。怖いお姉さんは、苦い虫を口から吐き出しそうな勢いです。
返事がありません。怖いお姉さんは、苦い虫を口から吐き出しそうな勢いです。
「チッ、ライフルで狙撃されたんだろう」
「ねえねえ、ギルド長、聞こえていたら、無線で状況を報告してください」
ピシッ音は立て続けに、数回しました。これ以上、わたしが声を出すのは位置バレするので危険です。
木の枝を踏む音が右でしたので、慌てて頭を引っ込めます。
ネエネエ先輩が、体育座りで土壁を背にしながら囁きます。
「男性陣、倒されたんだと思う」
「常に最悪の事態を想定するのが、撃ち合いの鉄則だな。それにしても、倒されるの早すぎだぜ」
わたしは、二人の顔を交互に見ます。
「木の枝を踏む音。右方向でしました」
「それを先に言え!」
怖いお姉さんがわたしの頭に片手を置きながら、体を浮かしました。反対の手でライフルを提げています。
「執事のジイサンじゃねーかよ」
わたしとネエネエ先輩が顔を出せば、セバスチャンが見えます。ライフルを体の前で、両手で保持しながら、黒いタキシードで走って来ます。
穴の手前でスピードを落さず、突然、伏せます。辛そうに表情を歪めていて、転んだかと思いました。砂煙が少し上がります。セバスチャンは転んだ判定され、HP少し減ってました。
「私めを除いて、男性は皆様お倒れなさいました」
「執事じいさんはどうやって、ここまでやってきたんだ」
「何故か、私めだけは、撃たれませんでした。皆様と合流するため、走って参りました」
セバスチャン。どうみても、敵さんが、わたしたちの位置を把握するためです。怖いお姉さんが、握った拳で、自身の太ももを叩いています。自分で自分のお尻叩けばいいのに。
「バカヤロー。どうして無線で状況を報告しなかったんだよ」
「それが、無線が使えないのです」
「またバグかよ」
21歳以上サーバーは、最近、無線が使えなくなるバグ多かったんです。ですが、改善されたんです。それでも、バグを逆手に取ってるプレイヤーもいます。審判はバグの存在を認めない傾向があります。
「ねえねえ、それぞれ無線がバグッてるか確認して」
ネエネエ先輩、顔が青ざめています。四人でメッチャ近いのに、無線で話し合います。
〈セバスチャンより、聞こえますか〉
「先輩、無線バグッてません?」
「もしかして、チート技か?」
「ねえねえ、無線を使えなくするチート技、聞いたことある?」
誰が無線で喋ってるのか、地声なのか、全然分かりません。ネエネエ先輩が無線機を、近くに放り投げます。わたしは、もぞもぞ、地面を這って無線機まで辿り着きました。ネエネエ先輩の無線機に荒い息が止まらない唇を近づけます。
「マ、マイクテスト。本日も21歳以上サーバーは晴天なり」
「オーケー、聞こえてるぜ」
怖いお姉さんが答えます。わたしは同じ手順で穴まで戻り、無線機を先輩に返します。セバスチャンも含めて、四人で穴はぎゅうぎゅう詰めです。
森の枝木が揺れました。バニーガール姿のモニカさんが現れます。血相を変えて走ってきます。
「女性NPCは、私のほかは、全員倒されました」
「どうやって倒されたんだよ、そこ重要! 答えろよ」
怖いお姉さんが、モニカさんの胸倉を掴んで揺らしています。その都度、肘がわたしの体にビシバシ当たります。どさくさに紛れて、怖いお姉さんのお尻にパンチをしました。
モニカさんは、バニーガール衣装がずれます。胸の先端、突起部とでも言うべき場所は、ギリギリ外気に触れませんでした。多分……。
仮にポロりしても、気づかないふりです。淑女としてのマナーです。モニカさんは胸をバニーガール衣装越しに、手で押さえています。豊かな胸に手が沈んで、羨ましいです。
「長距離狙撃です」
あ、思い当たる節あった! わたしは指を立てながら、横に振ります。負けで終わったわ。
「マテリアルライフル使いでしょう。かないませんよ」
「ねえねえ、対抗する方法ないの?」
「マテリアルライフル。別名『対物ライフル』と呼ばれるライフルです。マシンガン並みの大型な、狙撃ライフル。『共トレ』では、扱いづらくて不人気です。しかし、上達すればほぼ無双です。遠くから隠れて相手の選手を倒せるからです。ただ、上達するにはかなりの時間が必要です。しかも、時間をかけても、うまくならないプレイヤーも……」
「マシンガンの嬢ちゃん、短くまとめろよ」
「わたしで例えれば、中学のとき、全力を尽くして勉強し、やっと今の高校に入学です。同じ時間勉強して、もっと偏差値が上の高校に行けた子もいるはずです。諦めて、白旗揚げるのが賢いでしょう。撃ち合いの試合も時間短縮できます。無駄は省きましょう」
省エネ人間です、首を傾けながら、つけ加えました。女子力満開で笑顔なわたしを、怖いお姉さんが目尻を上げながら、睨んでます。
「人は人、自分は自分! な、嬢ちゃんよ。オメエが頑張ったならそれを誇りにしろ。頑張った自分に自信を持て! もし、第一志望に受からなくても、努力した自分を褒めてやれ。そもそもな、受験のチャンスや勉強する環境になかった人もいるんだぞ! 自分で考えてみろ。時短するかは、姐さんの判断だろうが!」
セクシーランジェリーをあれだけ集めた人から言われても、説得力ありません。怖いお姉さんは、『共トレ』21歳以上サーバーで、どれだけランジェリーガチャに現実マネーを、課金したのでしょう。
プレイヤー用語で、時短とは時間短縮の略です。ネエネエ先輩は、あごに手を沿えて考え込んでいます。白旗をあげる前にポーズを取って、苦汁の決断アピールしたいのでしょう。
「ねえねえ、私自ら、囮になって突撃するから、敵選手の位置を把握して。そして、敵の選手を撃つの」
できるかできないかを、聞いて欲しいです。先輩風ふかしてるのか、強引です。
「あのー、先輩、マテリアルライフルと同じ距離まで弾が届くの、わたしのマシンガンだけですが?」
「分かってる」
コクリと明るく頷きながら、わたしの肩に手をのせています。怖いお姉さんまで、ジト目をしてます。わたしは、NPCに、助けを求めることにしました。
「セバスチャン、モニカさん」
「分かっております。副ギルド長の盾となり、1秒でも多く時間を稼ぎます」
違うってばー。素直に負けを認めて、時短したいの。わたしは、左腕の袖を限界まで引っ張り、腕時計を見つめます。時短の再考を、ジェスチャーで求めていました。
「ねえねえ、分かった。その腕時計の合図で飛び出す。タイミングを教えて」
違うってば。もう、やけです。
「わたしの合図で全員飛び出して走ってください。5秒前、4、3、2……、って、フライング!」
セバスチャンと、モニカさんが先に駆け出しました。




