ランジェリーも課金アイテム。マップのモデルにした場所は存在しないそうです。
下のほうにありました。清楚な高校生にふさわしそうな、デザインの下着が複数見つかりました。
わたしが、お気に入りの色とデザインのを選んで、手にしながら、怖いお姉さんに頭を下げます。
「これ貰います。ありがとうございました」
「どーせ余ってたヤツさ。いいってことよ」
「ねえねえ、バスタオルを!」
いきなり、わたしの全身の迷彩服が消えてました。自身の体を見下ろせば、裸でなく、ブラジャーとパンツは履いてます。サイズはAIが勝手に合わせます。サイズまであったら、課金して体型変えたらお金かかりすぎだからです。さっと、ネエネエ先輩が大きなバスタオルで、わたしを包みます。マジシャンのような、馴れた手つきです。
マントのように首から下を隠されました。またロッカーからさっきの迷彩服を出して、ズボンと上衣を着ます。ブーツは最後に履きますが、しっかりニーハイソックスがありました。
Tシャツ、デニムの青短パン、サンダルはロッカーの中に揃えて置かれていました。まるで定規で測ったかのような綺麗な並べ方です。
手品師のアシスタントさんのように、マント状の大きなタオルをばさっと音を響かせながら、わたしは、床に落とします。
先輩のロッカーで大きな鏡を覗けば、しっかり、灰色を基調とした迷彩服を着用しています。
「素晴らしいお召し物です」
拍手の音が更衣室内に響きます。NPCメイド三人組でしたが、全員バニーガールの衣装を着ています。モニカさんがわたしに近寄ってきました。おっとりした瞳に、わたしの口を半分開いた顔が、映りこんでいます。頬をほんのり染めながら、指先ですーっとおなかから、唇までなぞります。
「ちょっとやめてよ。セクハラだよ」
えいっと手の甲で、モニカさんの腕を払いのけました。
「すみません、彫刻のような、あまりの美しさに目を奪われてしまって、触ってしまいました」
いきなり人を触っていい理由になってません。かっとなり、目の端がつっぱって吊り上がります。
「あのさー、触らないでくれない。失礼じゃない。わたしメッチャ怒ってる」
「ご不快な思いをさせてしまって、申し訳ございません、お怒りをおさめていただけるなら、何でもします」
モニカさんはうろたえて涙が頬を流れています。体の正中線上で両手を合わせて、頭を下げています。
謝るなら、最初からするな、泣いたらゆるされることじゃない! わたしの声はまた出せません。怖いお姉さんが、クールな表情です。手のひらを見せつけて、わたしを制したからです。
モニカさんは、両膝をつき、涙目でわたしを拝むかのようです。
「嬢ちゃん、NPCはな、同じギルドのプレイヤーに、惚れこむ設定になってるんだ。許してやれよ」
下ろした手のひらで、モニカさんを払いのけそうに、なってました。わたしは、チッと大きな舌打ちしてから、腕組みをします。
ふくれっ面になり、顔を背けながら、ぐいっと横目でモニカさんを睨んでやりました。
「今回は、怖いお姉さ、でなくて、ギルドメンバーに免じて許してあげるけど、次回はないよ」
「我が身をもって償いをすべき不埒な振る舞いでした。お許し、いただけるのですか?」
モニカさんの瞳がぱっと輝いて、両腕が開きます。わたしにまた、抱きつきそうになります。ステップを踏むように避けました。ネエネエ先輩の胸に、モニカさんが、慈悲深い、とか言ってる顔がぶつかります。抱きつきながら、二人が、よろけました。
衝撃で仰向けに倒れた先輩の腰に、モニカさんがバイクのように跨っています。どこかいらやしく感じるのは、わたしがいやらしいからでしょうか。
モニカさんは、ドジッ子のふりをしているのでしょうか。それともドジか、判断に迷います。
わたし役を演じたのです。例えれば、ファンだったタレントさんがいるとします。ところが、反社会的勢力と親交があるのを、偶然見てしまったような気分です。
あとで、安全な位置からバッシングとか、してやりたいです。
モニカさんは、立ち上がり、床に広がったスカートの裾を手で直しています。パンツが直接、ネエネエ先輩の体に触れてたのかよ。
仮にエロいとしても、法律やマナーを守り、変態の矜持を忘れて、いけない。
ネエネエ先輩は、モニカさんの助けを借りながら、立ち上がりました。白い歯を見せますが、頬は真っ赤です。
「ねえねえ、モニカさん、わざとじゃないって分かってるから謝らないで」
「うん、先輩に謝らなくて良いよ」
わたしもネエネエ先輩に合わせましたが、怖いお姉さんが、わたしの額に人差し指を押し当てます。
「嬢ちゃんよ。オメーが言う立場にねーだろ」
「つい、尊敬する先輩に、釣られて言ってしまいました」
***
戦闘準備を終えた、女性陣は山小屋を出ます。丘の上で、深呼吸をします。新鮮な空気で肺を目一杯満たします。
辺りを見ます。プレイヤーで、迷彩服を着ているのは、わたしとネエネエ先輩の二人だけ。門番NPCの女性兵士二人は迷彩服です。怖いお姉さんは、白いドレス姿でメイド三人組はバニーガール姿です。
しかも、私服四人組は、ブーツを履かず、ハイヒールです。わたしは、視線を四人の白い足に下ろします。
「動くのに支障ないんですか?」
「ねーよ。どれも課金アイテムだから、ブーツと変わらない速度で走れる。あたしに因縁つけるより、嬢ちゃんこそ、コンバットブーツ、速度アップしてるか?」
課金ガチャで、斬り合いゲームみたいな下駄が出ることもあります。下駄履きで戦うプレイヤーもいます。
「課金して薬振りかけてあるので、通常のコンバットブーツより、1.2倍の速度で走れます」
ネエネエ先輩も頷いています。1.2倍の速度で走れる薬がアイテムとしてあり、消耗品です。全員、歩くのも走るのも、アイテム使わなければ、同じ速度です。
靴裏に違和感があります。片足を上げながら、地面に視線を落とします。小石がなく、やけに平らで硬いです。おかしいな? 運営さんがマップの細かい点を変えたのかも知れません。
こういう情報こそが、プレイヤーとして貴重なのです。
「2機のヘリがお迎えに上がります。男女別々にご用意させていただきました。こちらに、お越しください」
セバスチャンが、黒いタキシード姿で、軍用ライフルを背にしていました。ネエネエ先輩が、目を丸くしながら、胸の前で軽くガッツポーズをしています。
「ねえねえ、ヘリが実装されたの?」
また、セバスチャンが、内ポケットに手を入れ、紙を取り出そうとしています。わたしは、怖いお姉さんみたいに、ビシッと手のひらをみせます。
「表書状みたいな紙、一々読み上げないで答えてよ。ヘリ実装聞いてないよ?」
セバスチャンは片耳のイヤホンを押さえています。
「GM神によれば、本日よりヘリを実装したとのことで御座います」
「困っちまったな、あたし、聞いてないよ。嬢ちゃん、ヘリに関する情報ある?」
「ありません。先輩は、ログインするとき、利用規約読んでたみたいですが、知ってたんですか?」
「ヘリについては、全く書いてなかったよ。ねえねえセバスチャン、利用規約には、書いてないでしょう」
セバスチャンは、額にうっすら汗の粒が浮かんでいます。
「利用規約には、『予告なく変更する場合があります』と書いてあるそうです」
ヘリの情報がなく、プレイヤー三人で顔を見合わせました。みんな困惑しています。
「ケッ、使い慣れてるマップ勝手に変えたら、困っちまうだろ」
怖いお姉さんが、白いハイヒールで、地面を蹴っています。スカートはまくれながら、太ももまで露出しています。しかし、パンツはどんなに激しく足を上げても見えません。
これも、現実との違いです。エアサッカーをひとりしている人のようです。現実なら、かかわっては、いけないタイプの人でしょう。
セバスチャンは、額の汗をハンカチで拭いながら、深々と頭を下げます。
「私めには、いかようにもしがたく、申し訳ありません」
「ねえねえ、セバスチャンは悪くない。ヘリに連れてって」
ネエネエ先輩の傍らに、セバスチャンがつきます。セバスチャンの案内を受けながら、わたしは先輩の背中を追いかけます。
振り向けば、怖いお姉さんは頭の後ろで手を組んで、不機嫌そうです。バニーガールメイド三人組と、NPC門番は、申し訳なさそうな表情を浮かべています。
「ヘリがやって来て、男女別々に乗るんだってよ。いつもなら走って移動なのに、困っちまったなー」
新美先生こと、ニーミギルド長や男性陣も、かなり不満げな顔をしながら、輪になっていました。
男性陣はセバスチャンを除いて、全員迷彩服姿です。タキシード姿のセバスチャン、場違い感がハンパないです。
わたしは、授業中に発言をするときのように、片腕をしっかり上げます。
「困っているのは、撃ち合い相手のギルドも同じだと思います」
全員がわたしに視線の集中砲火を浴びせます。緊張が体を走り抜けます。これは、現実と一緒です。どーせ、わたしが言わなくても、誰かが言うので黙ってれば良かった。
見渡す景色は、夏の北海道をイメージしたような気がします。セバスチャンに意地悪な質問をします。
「セバスチャン、このマップは、北海道?」
「GM神に寄れば、日本の環境をイメージしました。参考にした場所は、あるそうですが、実在する場所とは無関係です」
「参考にした場所、教えてよ」
わたし、分かんなーい、とあざとく、首を傾けながら、ハンカチで頬を押さえるセバスチャンを見つめます。
「GM神の言葉をそのままお伝えします。日本が世界に誇る美しい名所です。過去にサミットやオリンピックなどが、行われた場所をイメージして……」
「え?! そんなのあり? 地元の許可貰ってるの?」
一瞬セバスチャンが、後ろ歩きをして、狼狽しています。額から噴出す汗を拭いながら、つらそうにしています。
「GM神によれば、モデルにした場所は存在しないそうです」
「さっき、『日本が世界に誇る美しい名所』。『サミットやオリンピック』って言ったじゃん」
完全にわたしに論破され、セバスチャンの喉がゴクッと鳴りました。所詮は、AIが動かすNPCなのです。人間じゃないんです。高校1年のわたしでも、言い合いに勝てそう。続けます。
「モデルにした場所は、あるんでしょう」
「仰る通りです、GM神は矛盾してます。妙ですね?」
セバスチャンも不思議そうにしています。耳のイヤホンを押さえてます。まるで、音が小さくて聞こえづらそうな、体をなしてます。眉間に皺が軽く寄ります。
「GM神は、コメントは差し控えたい。とのことです。なお、21歳以上サーバー、お客さまお問い合わせフォームから、お問い合わせをいただいても、同じ回答になることを、ご了承ください、とのことです」
「ご了承できない。地元に許可とってなければ、迷惑でしょう。離れた場所なら、どうでも良いですが、わたしの家の近所がモデルなら、絶対嫌です」
「お屋敷のご近所? 天上界のことは、存じませんが、GM神に、また、尋ねてみましょう」
あの、普通の家をお屋敷って、現実なら皮肉です。そんなことより、近所で撃ち合いなんて、縁起でもないです。だから、全年齢サーバーの運営さん、苦労して、地元の許可をもらったり、法律上、許可がいらない場所を、マップのモデルにしているんです。母から聞きました。




