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「ギルド戦開始!」の前に更衣室で着替えて、装備を整えます。

 わたしは、小高い丘の上に立っています。遠くにも小高い丘があり、十五人の人影がありますが、豆粒くらいの大きさです。その後ろは地平線まで、林が続きます。

 空は春の過ごしやすい晴天です。大地を見下ろせば林になっており、所々、開けた場所があり、池や木製の建物が立っています。

 絶好のキャンプ日和じゃなくて、撃ち合いの場所です。不公平にならないよう、敵陣側と完全対象のマップです。

 一見すれば、自然そのものですが、ありえない人工的な場所です。このマップは頭の中で刻み込まれています。

 酔っぱらいモードから覚醒したニーミギルド長が、ガラケー型コンソールで対戦相手のギルドと話しています。

「時間は承知しました。ルールも承知しました」

 わたしも、唇をぎゅっと接着したつもりで、ガラケー型コンソールを耳に当てています。ルールを聞くためです。ギルドの代表をのぞいては、ガラケーで話したりしていけません。ギルド戦に、間違えて入って来る関係ないプレイヤーがいたりします。その人に、挨拶したりしたらトラブルの種です。

 挨拶したから、撃ち合いしてくれると思って、ほかのギルドメンバー集めたんですよ、とか、言われてます。

 相手がガラケーで、わたしに先に挨拶をして来た場合に限り、挨拶をします。それなら、相手のせいです。こういうのが、プレイヤー間で取り決めらられた暗黙のルールです。

 小高い丘の上に立つ、二つの山小屋を指します。二つは全く同じ作り、木の年輪や染みまで一緒な、現実で、存在しえない山小屋を指差します。

「女性は右側で撃ち合い前の更衣と試合後のシャワーをしてください。男性陣は左側です」

 女性プレイヤーはわたしのほか、ネエネエ先輩と怖いお姉さんの三人だけです。21歳以上サーバーのAIが操作するNPCは、美人メイド三人組と、門番のお姉さん二人組です。

 わたしが指を指して、数えれば、女性は八人です。

「行くぜぇ!」

 威勢よく、汚い言葉遣いで、ネエネエ先輩が、山小屋に早足で向います。わたしも背中を追いかけます。怖いお姉さんがすぐ後ろにいるので、ネエネエ先輩の背中を押しそうになりました。

 NPCの五人は、プレイヤーのわたしたちに気を使って、そのあとをついてきます。山小屋の扉を開けば、内側全部が更衣室です。撃ち合いの試合後は、屋内全てがシャワールームに変形します。

 現実でないとプレイヤーは、分かります。しかし、21歳以上サーバーの住人である、NPCは別です。彼、彼女らにとっては、これが現実なのです。


***


 ネエネエ先輩から離れれません。今のわたしはS極にくっつくN極の磁石のようでしょう。

 背後から怖いお姉さんが声をかけます。

「そんなにビビらなくていいっす。あねさんの友人で、同じギルドメンバーだから、ビビられると逆に疎外感を感じるっす。青い顔してビビッてますよね?」

「全然ビビッてないっす。疎外感を感じって、意味分かるけど、日本語としてヘンだとか、怖いとか、怒らせたら何するか分からないとか、ガラ悪そうとか、全然思ってませんっす」

 わたしの話し方、どこか変です。一瞬だけ振り向きます。

 下品なジョークを男子生徒に言われて、キョドりながら、ふて腐れる顔を意識します。

 顔の表情を引き締めたり、緩めたりします。美顔を作る筋トレの逆です。中学時代、教育実習生の先生の顔マネです。

 ネエネエ先輩も、急にこっちを見ます。ぶつかりかけました。くっつきすぎて、後ろ髪が数本、口に入ってしまいました。喉に引っかかり、上体を少し前屈みにして、咳をしてました。

「おい大丈夫か?」

 怖いお姉さんが、不意に背中をさすります。せっかく収まりかけた吐き気が、強くなります。緑色のマフラーを取り出して、鼻と口を防護するように巻きました。

「ねえねえ、怖がりすぎだよ。仲間には優しい方だよ」

 つまり、仲間でなければ怖い人です。ネエネエ先輩に言われなくても、もう経験済みです。やっとむかつきは治りました。わたしは、回れ右をして、怖いお姉さんに敬礼をします。

「よろしくお願いします」

 怖いお姉さんも、やけにヒールが高いブーツの踵を鳴らしながら、気をつけです。わたしに、敬礼をしていますが、少し顔を傾け、キザです。

「気持ち悪さ止まりましたか? こちらこそ、よろしくっす。この手でする敬礼の由来しってます?」

「不勉強で知らないです」

「昔、現実の歴史で、騎士がバイザーみたいなのがついたヘルメットを被っていたのです。騎士がすれ違う時、バイザー上げて顔を見せた動作の名残という説もあります」

 急に敬語です。現実の殺し合いなど、興味ありませんが、胸の前で手を鳴らしていました。

「歴史にお詳しいんですね、賢い方と知り合いになれて嬉しいです。これからも多くのことを教えてください」

 戦争関係の話を、自慢げに話すなんてお断りです。かなりむかつきました。この前、高校で具合が悪くなり、担任の先生に尋ねられたことを思い出します。

「むかつきはある?」

「体がだるくて、イライラしてます」

 そうじゃなくて、胃のむかつきを尋ねていたようです。でも、先生は、わたしの不満を、端折らず聞いてくれました。

 そもそも、武器など『共トレ』みたいな、撃ち合いeスポーツ内や、関連グッズ、アニメ、マンガ関係だけで、不自由しません。平和が一番! 戦争反対!

「詳しくないっす。図書館で本を読んだりして、知ってるだけっす」

「図書館に武器の専門書あるんですか?」

「ないっすね、専門書は一般向けの本ででも、武器について書かれていたりします。探して読みます」

「暇なんですね」

 うっかり本音を漏らしました。ヤバいので、ネエネエ先輩の横を歩きます。仲良しさをアピしますが、方が触れます。

「ねえねえ」

「はい? 体触れましたが、わざとじゃありません、チカンじゃありません」

「分かってるけど……」

 聞く必要ないこと聞かないでくださいよ。


 壁の一面いっぱいにそれぞれのロッカーが並んでいます。ロッカーの上座は、『共トレ』では、奥です。

 ネエネエ先輩が、一番奥のロッカーを開いています。わたしはその隣、怖いお姉さんはその横です。

 怖いお姉さんと、肘とかあたらないよう、ネエネエ先輩の体温が伝わる距離になってしまいます。

「ねえねえ、ゴメン、自分のロッカーの前に立ったほうが良いよ。装備チェックあるから」

 ネエネエ先輩は、怖いお姉さんに慣れっこなのでしょう。21歳以上サーバーで一目置かれるのが、自慢になるのか、ならないのか、分かりません。ここ治安が悪すぎます。

 わたしの背丈ほどある、金属製で灰色のロッカーを開きます。武器収納用で頑丈そうです。ロッカー内の目線には、Aと虚空に書いてあります。

 アルファベットは、装備の種類です。『共トレ』で武器は、基本3個を装備です。銃と接近戦用の殴打武器バールやバット、ナイフ類。それから、予備の拳銃。多くの武器を持っているプレイヤーさんはいます。

 いちいち取り替えるのが面倒だったりします。

 例えれば、クローゼットに多くの服があるとします。パーティーごに、組み合わせを決めていたら時間がかかります。

 プレイヤーさん向けサービスで、ロッカー内で、AからZ26セットまで、事前に組み合わせて置けるのです。わたしは21歳以上サーバーでは、この複数が入れ替わる、ロッカーサービス使ってません。

 愛用のマシンガン、拳銃、ナイフを使います。武器変更も撃ち合い中でもできたりしますが、課金すればです。

 つまり、わたしが、ロッカー開くのは相手チームに、自分の武器を知らせるためです。

 スポーツマンシップに則った行為です。

 わたしは振り向いて、天井にある防犯カメラみたいなのに、ピースサインをしています。両手でマシンガンを頭上に掲げ、飛び跳ねています。

「マシンガンです。わたしは、ときには隠れ、ときには味方を犠牲にして、全力で戦わせていただきます」

「ねえねえ、わたし着替えてる途中……」

 隣のロッカー前にいるネエネエ先輩を忘れてました。迷彩服の上衣を脱いでました。幸い、緑のタンクトップを着てました。ブラジャーの紐がタンクトップの背中越しでも、浮かんでいます。ブラジャーの色などは、見えなかったようです。

 ズボンは履いてません。パンツにかもしかのような素足なのにびっくりです。思わず片膝をつき、マシンガンの肩に当てる箇所床に立て、屈んでいました。

「下駄履いてない、しかもパンツ。デニム短パンじゃない!」

 ネエネエ先輩のくるぶしから、おへそまで、舐めるように見上げます。ネエネエ先輩は、頬が真っ赤染まっています。嫌そうに眉間に皺を寄せています。迷彩服の上衣で腰の周りを覆います。

「ねえねえ、じろじろ見られたら恥ずかしいでしょう」

「そんなことより、どうしてパンツで素足なんですか?」

 わたしは、迷彩服を脱いだら、下駄に短パンなのです。

「課金したの」

「素足とパンツとブラジャーわざわざ、現実リアルマネー出して、買ったんですか?!」

「うんうん」

 わたしは、立ち上がります。不思議思考な、ネエネエ先輩の顔が鼻先にありました。バツが悪そうに、砂漠用のカーキの迷彩ズボンを、足を交互に上げて履いてます。同色の迷彩上衣に袖を通しています。着替えるのが素早すぎです。呆然として立っている、わたしがうっとうしそうです。ロッカー内で、突如出現した鏡に映る姿を見ています。

「どうしてです?」

「だって、21歳以上サーバーでは、最後にシャワー浴びるとき、課金してないと、Tシャツ、デニムの短パンとサンダル脱げないんだよ。下着買えば、Tシャツ外せるし、サンダル脱げるよ。さっぱりした気がしないから」

「わたしも買います」

 前、21歳以上サーバーでゲームしたときは、シャワーは服着たまま浴びました。どーせゲームアバターだからです。

 でも、先輩を見習わないと。背後から肩に手を置かれました。

「ランジェリーなら新品余ってるから、上げるよ」

 振りかえれば、怖いお姉さんは、白いドレスのまま立っています。

「ほら、新品だから好きなの持って行きな」

 怖いお姉さんは、ロッカーに手を突っ込み、デパートのような紙袋を出しました。受け取り、上から覗けば、ビニールに包まれた新品のランジェリーが、いっぱいあります。本当に新品なんですか? 疑問の言葉は、唇の内側で止まりました。

「嬉しいですが、セクシー過ぎます」

 赤いTバックや、黒いビニール製の競泳水着みたいなまであります。身につけるのが、恥ずかしくて、頬が熱くなります。

「下にお子さま向けのあるよ。ランジェリーガチャ何十回もして、気にいったの出るまで買い続けたからね」

「ランジェリーにどうしてそこまで、拘るんですか?」

「色々ほかのプレイヤーと遊んでるから。現実では、してないよ。現実できないこと、やりたいからね」

「現実でてきないことて何です?」

「あのな、カマトトぶるなよ」

 不意にネエネエ先輩の腕が、ガサガサと紙袋に突っ込まれます。

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