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ネエネエ先輩のバイト先まで一緒に歩きます

 先輩のバイト先、コンビニが視界に入ります。先輩は駐車場前で立ち止まりました。

「じゃあここで、またねー」

「失礼します」

 手を振る先輩に一礼をしてから、立ち去ろうとしました。コンビニのポール型の立て看板に“お酒”“たばこ”“ATM”と書いてありました。先輩はコンビニの店先で、制服のまま屈んで、落ちていたゴミを拾っています。

「先輩、『共トニック』ってタバコやお酒は、ゲーム内で……」

「うんうん、二十一歳以上サーバーの一部は、喫煙可や飲酒可なんだ」

 わたしも、先輩と一緒にゴミを拾います。手にしたのは、割り箸が入っていた空袋でした。

 袋の端切れが、落ちてしまうのは許せます。これは明らかに、わざとポイ捨てされたのです。

「先輩のお話うかがってて、母から、聞いたことを、思い出せました。eスポーツなのに、飲酒、喫煙ができるのが、問題になっているって」

「ねえねえ、その件は、運営さんにお任せしよう」

「それに、『共トレ』運営会社が、お家騒動で、複数の運営会社があるみたいです。それぞれが、『共トレ2《ツー》』とか、『ニュー共トレ』とか、ほぼ同じシステムなのに名乗ってます。アニメで『共トレ』が放送されたときも、それぞれの運営さんの許可もらったとか」

「うんうん、その件も、プレイヤーに関係ないから、放っておこう」

 大学生だった無口ならイケメン先生が、当時二十一歳以上だったのか、多少は気になります。ここは大人の対応で、詮索しません。

 わたしが、『共トニック』の二十一歳以上向けサーバーに、ログインすることは技術的に可能です。

 運営さんは禁止していますが、正式な競技大会や、賞金かかってないサーバーなら、プレイヤーは、まず問題にしません。

 わたしも二十一歳以上限定サーバーに、母の予備アカウントを使って遊んだことも、あります。

 コンビニ前のゴミ箱に、ネエネエ先輩と、拾い集めたゴミを捨てました。

「先輩、いきなりですが、今日バイト終ったら、わたしの家に来て欲しいんです」

「良いの? マジ! マジかー? 門限は大丈夫! お母さまは、高名なFPSの先生だから、むしろうちの両親、私がeスポーツのコーチと親しくなれるって喜ぶぞ! 国際大会やオリンピック狙おうとか、言い出しそう。な、な!」

 ネエネエ先輩、かなり浮かれています。白い歯を見せながら、わたしの肩を軽く叩いています。

 わたしが、喪中ハガキをうっかりといえ、先輩に送ってしまいました。かなり落ち込んだのかもです。その反動が出たのでしょう。すみませんでした。

 今にもガッツポーズしそうな、ネエネエ先輩を、コンビニの通用門に消えるまで見送ります。バイト募集中のポスターが目に入りました。高校生は時給が安いようですが、先輩頑張ってる!

 対照的に、肩をがっくり落とすわたし。辞書で読めない漢字を調べなかったこと、切手の貼り忘れ、度重なる軽率な行為を、猛烈に反省中でした。

 コンビニに入れば、心地よい温度です。ATM向かい、自分の通帳からお金を下ろします。五千円を出すつもりでしたが、四千円と二千円、二回に分けました。

 千円札で確実に出てくるからです。小銭が少ないので、税込み二十円のおいしい棒を、一つだけ買います。レジに並びます。

 店員さんは、ネエネエ先輩ではない、大学生らしき女性店員さんです。

「お次でお待ちのお客さまどうぞ」

 隣のレジカウンターに、コンビニ制服に着替えた、ネエネエ先輩が立ってます。

 わたしの後ろにお客さんはいません。いれば、お先にどうぞ、と促せたのです。半ば走るように、ネエネエ先輩の前で、おいしい棒と千円札をトレーの上に、両手で出します。

「千円札ですみません、あいにく小銭を切らしているんです」

「いえいえ、合計二十円になります。ありがとうございました。またお越しくださいませ」

 ネエネエ先輩は、わたしがコンビニを出るまで、頭を下げている気配があります。お越しくださいませ、の、「くださいませ」の部分は、ドアが閉まるとき、聞こえたからです。

 おいしい棒は、コンビニの駐車場で食べました。おいしい棒の包装紙は風で飛びやすいのです。ぎゅっと真ん中で何度か結んでから、コンビニ前のゴミ箱に捨てました。

 ネエネエ先輩に悪いことをしてしまった。一人になれば、幾度となく喪中ハガキを出したのを、思い出します。うな垂れながら、一人帰路につきます。


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