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ネエネエ先輩から『モチュウハガキ』見せられました。

 ネエネエ先輩の背中を追いますが、猫背です。俯く動作は、廊下に落ちている硬貨を探すかのようでした。階段を上がり、ひとけのない、踊り場に出ました。もし、タカられたり、絡まれたら、逃げれるように、心を身構えました。

「ねえねえ、もし、私に至らない所あれば謝る。でもね、私に言いたいことあれば、話して欲しいの。私が嫌な思いさせたなら、教えて。改めます」

「先輩を嫌って思ったこと、全然ありません?」

 わたしは首を傾げながら、指に頬をそえました。もしかして、母が作ったトンカツがミニサイズだったのを、誤解したのかもしれません。わたしは膝に額がつくほど、頭を下げます。

「トンカツのことは、小さいサイズになり、すみませんでした。でも、先輩に限らず、あの日の夜、わたしの家族みんなが、あの大きさだったんです」

「――これのこと」

 わたしの鼻先には、先輩が手にしたハガキがありました。撃ち合い部に、入部することが、わたしの直筆で書いてあります。

「あの夜は、金曜日でした。今日、月曜日までに先輩にハガキを送ろうと思って、夜、速達で投函したんです」

「ねえねえ、これ、モチュウハガキなんだけど、もしかして、モチュウハガキ知らないの?」

 ハガキを手に取ります。“喪中”と見たことはあるのに読めない漢字が、確かに印刷されています。それを線で消して、空白部分にわたしが、入部することをペンで書きました。

「モチュウって読むんですか、先輩頭いい。家に余っていたハガキがこれしかなくて、モチュウのへんの印刷された文字列を適当に線で消して、使いました」

 先輩は、ほっとしたように溜息をついてから、足を交差させています。長い睫毛を下に向け、くっと白い喉を鳴らして、いきなり美人度アップです。

「喪中っていうのは、どなたかがお亡くなりになってね、喪に服している期間のことなの。喪中ハガキを使うのは、身内に不幸があった年に、年賀状を辞退するときに使うの。めでたくないでしょう」

「一昨年おばあちゃ……、祖母が亡くなって、もしかしたら、そのときの余りかもしれません」

「速達なのに、追加料金の切手も貼ってないでしょう。もしかして、私が失礼なことをして、嫌われたのかと心配しちゃった」

 わたしは開いた口が塞がりません。ポケットに手を突っ込み、小銭入れを出していました。

「意味知らずに、ハガキ使ってすみませんでした。速達代金は支払います」

「うんうん、受け取る」

 先輩は笑顔で速達代金分の硬貨を、受け取ります。

「ねえねえ、少し歩こうよ、ついて来てくれない」

 先輩が階段を上がります。わたしも歩調を合わせました。空き教室が多い階で廊下に出ます。生徒の姿はまばらです。しかも、全員二年や三年の女子生徒です。

「ねえねえ、この先にね、二年や三年でも一部の生徒しかしらない、秘密の場所があるの」

 ひみつ、その三文字をネエネエ先輩は、一文字づつ区切るように発音します。

 わたしの胸は先輩に聞こえそうなくらい、鼓動が高鳴っています。ネエネエ先輩からは、暴力的な雰囲気は感じられません。むしろ、頼りになるお姉さん然としています。

 先輩の背中に隠れるように、廊下を前に進みます。女子生徒同士の社交場でしょうか?

 同性同士が恋愛相手を探す場所。それとも、賭けでもして、負けたら、一定期間、犬やネコのような扱いをされるとか。

 脳裏で不安と緊張が交差します。

「口硬いから大丈夫」

 ネエネエ先輩が、片手に缶ジュースを手にした、わたしが名前を知らない、女子の先輩と話しています。

 わたしは、頭を右へ左へ下げっぱなしです。

「ねえねえ、どれが飲みたい?」

「え?!」 

 先輩の背中から顔を出せば、奇麗な大型自販機が数台並んでいます。有名メーカーの缶ジュースの自販機。四角い紙パックの自販機。紙コップ式の自販機。さらには、パンの自販機もあります。

 どれも、学食にある自販機なら、生徒が先を争い、行列を作って買い求めるものです。

 列の後ろだと、自分の順番になったら、赤い文字で売り切れだらけって、こともあります。わたしの手は無意識に、コーラを指差しました。

「うんうん、コーラだね」

 先輩はさっき渡した硬貨を、全部自販機に投入します。コーラを二本手に取り、わたしに柔らかい表情で渡します。

「うれしいですが、もらえません。これは郵便代の不足分として……」

「ねえねえ、わたしも少しは、先輩らしく格好をつけたいの。もらってやってくれない?」

 何度か辞退しましたが、コーラを二つ受け取りました。先輩に一本渡そうとしたのです。

「私じゃなかったら、『先輩におごるなんて、生意気』って言われるかも、ジョークだよ、あはは」

 人差し指をピンと立てています。格好良すぎ。わたしも来年二年になったら、後輩に同じことマネする。

「ねえねえ、ここの自販機コーナー、知らない人多いんだ」

 つまり、口の軽い人には言わないのでなく、誰にも言わないのが賢明でしょう。

 自分の教室に戻ったわたしは、自分の席で、プシュっと音を立て、コーラを飲んでました。余った一本は、生温くなってしまいます。コンバットオーナーの子が、廊下に出たのを見計らい、渡します。

「さっきの二年の先輩が、迷惑かけたから、渡してって言ってたの」

「もらえないよ。私、迷惑かけられてないし」

「ねえ、コンバットオーナーのマスコット可愛いね」

「コンバットオーナーって何?」

「マスコットの拳銃の正式名称」

「へー、知らなかった。教えてくれてありがとう」

 コンバットオーナーの子は、トイレに行ってしまいました。わたしは二本目のコーラは、廊下の曲がり角で、隠れて飲みました。

 ネエネエ先輩、コンビニに引き続き、おごってくれて、ごちそうさまでした!


***


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