3 力の正体
「確かにお前は強い──」
パワーも、スピードも、自分より上。
それを認めたうえで、ルネの闘志は折れない。
戦闘力で劣るなら、劣るなりの戦い方を模索するのだ。
一撃ごとに鋭さを増すラグディアの斬撃を必死で凌ぐ。
凌ぎながら、敵の動きを分析する。
攻撃のパターンが単調だ、とすぐに気づいた。
いくら圧倒的なパワーやスピードがあっても、ラグディアの攻撃は基本的に力任せなのだ。
剣術の動きではなく、明らかに素人のそれである。
パワーやスピードが圧倒的なだけに、ラグディアはほとんどの相手をその身体能力だけで押し切れるだろう。
だがルネは、自分よりも力が勝る相手と、何度も激戦を繰り広げてきた。
打ち倒され、敗北し──そのたびに敵の強さを学習しながら、己を磨き上げてきた。
「慣れてるんだよ、俺は──俺より強い奴との戦いに」
ラグディアの一撃をかいくぐり、一気に相手の懐まで飛びこんだ。
防御を捨てた捨て身の突進──ルネが幾多の強敵との戦いを通じて編み出した、得意戦法の一つ。
「くおおおおおおおおおっ!」
咆哮を上げ、亜光速で疾走。
相手の胸元を狙い、砲弾の勢いで大剣を突き出す。
ラグディアは攻撃直後で体勢が崩れた状態だ。
その硬直状態を狙った、必殺の刺突。
「くっ、この……!」
常に飄々としていた中年兵士が初めて焦りの表情を浮かべた。
「僕が、やられる──!? いや、まだだ! もっと速く!」
無理やり体勢を立て直し、バックステップの動作に移るラグディア。
さすがに、すさまじい身体能力だ。
そして、すさまじい成長速度だ。
だが──、
「無駄だ! お前が成長するよりも速く、俺の剣がお前を斬る!」
『戦いの中で成長する』のは、ルネとて同じ。
砲弾のごとき刺突がさらに加速する。
「まずい……!」
「お前の負けだ、ラグディア!」
跳び下がるラグディアに追いつき、撃ちこむ──、
「そこまでだ」
横合いから放たれた魔力弾がルネを吹き飛ばした。
「くっ……!?」
後ずさりながら、ルネは怒りの視線を皇帝に向けた。
「邪魔するんじゃねーよ……今いいところだったのに」
「余は『軽く手合せをせよ』と申したのだ。殺し合ってどうする」
「……ちっ」
舌打ちするルネ。
「想像以上に素晴らしい戦いだった。ラグディアはかなり成長できたようだ。そしてお前もな、ルネ」
「いやー、危なかった。君、すごいね」
ラグディアはあっけらかんと笑いつつ、ルネを称賛する。
「今のは僕の負け。でも、いずれもっと強くなって、次はリベンジしたいな」
「上等だ」
ルネは牙のような犬歯をむき出しにして笑った。
「なんなら、今からもう一戦やるか?」
「そうだね。じゃあ──」
「待て待て。余がお前たちに望むのは、互いの強化だ」
血気盛んな戦士たちに、皇帝は苦笑したようだった。
「焦らずとも、お前たちが戦う場はいくらでも用意しよう。存分に鍛錬せよ。互いに磨き合い、最強を志すがよい」
「……ふん、いずれな」
「ああ、またね」
ルネとラグディアはようやく剣を収めた。
「陛下、ラグディアの力は一体……?」
ミジャスが皇帝にたずねた。
「彼が、超魔戦刃の試作型として圧倒的な戦闘力を備えていることは存じています。ですが、今のような力は持ち合わせていなかったはず──」
「うむ。異常なまでの成長速度は、ラグディアが新たに発現したものだ。そしてもう一つの力も」
「もう一つの……力?」
ミジャスが、そしてルネも眉を寄せる。
「ラグディアは、わずかながら因果の外に在る力を発現した。それが暴走状態の果てに得たものなのか、他の超魔戦刃たちを吸収した作用なのか──それは分からぬ」
と、皇帝。
「あるいはそのどちらでもない、まったくの偶然なのかもしれぬ。確か魔王エストラーム陛下はこのような表現を使っていた。『因果律の誤動作』──と。それは帝国にとって得難い戦力だ。さすがに、かのマグナ・クラウドに比べれば見劣りするが……それを補うすべは余が用意する」
「……へえ」
ルネはどう猛に笑った。
「何をしようっていうんだ?」
「敵の陣営に『最強』がいるなら、我らの陣営にも『最強』を生み出すのみ」
皇帝が告げた。
「ラグディアを素体に、ベアトリーチェが持つ空間操作の奇蹟兵装と、余が魔王様から授かった秘法を合わせれば──」
皇帝が両手を広げ、朗々と宣言する。
「あの者のスキル【虚空の封環】を疑似的に再現できるかもしれぬ」





