2 最強への道程
「あのときは世話になったな」
ルネはラグディアをにらんだ。
先日の戦いで、暴走状態にラグディアに襲われたことは忘れていない。
勇者リオネスとの戦いに横入りされるような形で、触手の攻撃を受けたのだ。
「はは、あのときは気持ちが昂っちゃって、自分でも上手く抑えられなかったからねぇ。怪我させてしまったみたいで悪かったね」
ラグディアが謝る。
「……ちっ」
ルネは小さく舌打ちした。
あのとき、彼が一方的に押しこまれたリオネスを相手に、ラグディアはある程度渡り合っていた。
客観的に見て、ラグディアの実力はルネより数段上だろう。
とても戦士には見えない、飄々としたこの男が。
「ラグディアと戦いたいか、ルネよ」
皇帝が言った。
「何?」
「お前の顔があまりにも闘志に満ちていたので、な」
「ん? また戦いたいの?」
ラグディアがルネを見た。
「言っておくけど強いよ、僕」
「その通りだ。暴走状態でのリミッター解除。さらにラースやラッドを吸収したことで、余の想定を超えるパワーアップを果たしたようだな、ラグディアよ」
皇帝が満足げに言った。
「だが、お前にはさらなる伸び代がある。もっと強くなりたくはないか、ラグディア?」
「伸び代?」
「そこにいるルネとの戦いで、お前はもっと強くなれるはずだ」
と、皇帝。
「俺と?」
「彼と?」
ルネとラグディアは同時にたずねた。
「そしてルネ、お前もまたラグディアとの戦いで強くなれるだろう。双方にとって有用な戦いとなるはずだ」
「早い話が──そいつとの実戦訓練で修業しろってことか」
「うむ、ぜひ協力してほしい」
うなずく皇帝。
「二人とも、まずは軽く手合せしてみせよ。余も実際にこの目で見て確かめたい。ラグディアの力を。そしてルネ、お前の力も」
「……いいぜ。あのときの借りを返してやる」
ルネは大剣を抜いた。
リオネスとの戦いで損傷を受けた愛剣は、すでに修復を終えている。
さらに闇の剣士の本装備である黒い全身甲冑をまとい、フルフェイスの兜をかぶる。
「やる気満々だねぇ」
ラグディアは穏やかに微笑んだまま、腰の剣を抜いた。
「じゃあ、恨みっこなしでいこうか、ルネくん」
「上等だ。死んでも──恨むなよ!」
吠えて、飛び出すルネ。
ラグディアは棒立ちだ。
(なんだ、こいつは?)
ルネは訝しんだ。
構えが、まるでなっていない。
素人そのものである。
隙を見せてこちらの攻撃を誘い、カウンターの類を狙っているのか。
それとも──。
「ちっ、どういうつもりか知らねーが──くらえっ!」
ルネは渾身の一撃を叩きつけた。
──否。
「てめえ……っ!」
「へえ、前よりちょっとだけ強くなってる? 剣のスピードが上がってるね」
ラグディアはルネの斬撃を左手一本で受け止めていた。
五指で刃を挟みこむようにして。
信じられないほどの膂力と反射神経だ。
「動かない……」
ルネは両腕にありったけの力を込めた。
だが、ラグディアは片手で刃をつまんだままビクともしない。
「もう終わりかな?」
右手に握った剣を振り上げるラグディア。
「この……っ!」
相手の腹部に蹴りを叩きこみ、その反動でルネはラグディアから離れた。
「反応が速いね。戦いなれてるって感じ?」
「当たり前だ。くぐった修羅場の数なら負けねぇ」
ルネは大剣を構え直した。
強い──。
あらためて感じる。
今まで戦ってきた双子勇者やSSSランク冒険者ヴルム、四天聖剣リオネスのような鍛え上げられた戦士の強さとは、少し違う。
単なる素人が、なんの修業もせずに強大な力を得てしまったような──チグハグで、だからこそ不気味さを感じる強さ。
「けど、強いってことに変わりはない。なら、俺は」
柄を握る手にじっとりと汗がにじんだ。
本能的な恐怖を、闘志で抑えこむ。
誰よりも強くなる。
最強を目指す。
そのための道は、前にしかない。
だから──。
「俺は、進むだけだ!」
突進から、ふたたび仕掛けた。
今度は真っ向から打ちかかったりはしない。
フェイントを織り交ぜ、ラグディアの死角を探り、封神斬術の技を尽くす。
「はっ、ほっ……おっと」
多彩なバリエーションで繰り出す斬撃を、ラグディアはでたらめな動きですべてブロックする。
反射神経だけで防いでいるのだ。
やはり雰囲気通り、武術においては素人らしい。
と──、
「遅いよ」
ラグディアが反撃の剣を繰り出した。
「っ……!」
間一髪で跳び下がるルネ。
「こいつ──」
相手の斬撃が突然鋭さを増した。
いや、『成長』したのか。
戦いの最中に、すさまじい速度で。
「ほうら、まだまだいくよ~!」
攻勢に出るラグディア。
彼の斬撃は一撃ごとに、重さも速度も信じられないほど増していく──!





